嫡流の愚王 傍流の賢王
本日二度目の更新です。
アクセスしてくださった皆様、ありがとうございます。
フブカ=スイストリア。
スイストリア王家の嫡流である。
だが、今の姿はお世辞にも嫡流を名乗るに相応しく無い。
ここ最近は酒浸りになり、荒れに荒れている。
スイストリア東部がロッツフォードの領地になったからだ。
この様は民が知るところとなっている。
ただでさえ薄い民の関心がさらに離れていく。
そして民は自分たちを顧みない王と貴族を見限りロッツフォードの領地へ逃れる。
これが面白くないフブカは酒の量が増える。
まさに悪循環だ。
せめて姿勢だけでも改めてもらおうと王妃マリアンヌは側室ヴィヴィアンと共に執務室に来ていた。
「フブカ陛下! それ以上はお体に毒です! お酒をお控えください!」
側室ヴィヴィアンが体を心配して進言する。
そのヴィヴィアンの側で酒杯が砕ける。
フブカが己が側室にむかい投げつけたのだ。
「黙れ! 出来損ない! 酒をどのように飲もうとワシの勝手だ!」
「どうか御身を大事にしてください!」
「もうよい! 寝る!」
執務室にはマリアンヌとヴィヴィアンが取り残される。
(執務室にまで酒を持ち込むなんて・・・。このままではいけない! 本当にスイストリア「王国」が滅んでしまう・・・。)
王妃マリアンヌは現状打破のために動くことを決意した
「王妃様、我らに何用ですかな?」
フブカの側近、宮廷魔術師のガンドと騎士団長のアモンデスを呼びつける。
(嫌らしい目をしている・・・。)
王妃マリアンヌがいつも思っていることだ。十四で輿入れしてから十年。この二人の性根を表すような目が嫌いだった。
だが、今はこの二人に頼らざる負えない。
陛下もこの二人からの進言となれば耳を貸すだろう・・・。
「陛下のお酒の量が日々増しております。お体に障りますからあなた達からせめて減らすように言って聞かせてください。」
これにガンドが答える。
「・・・もうすでに何度も言っております。ですが聞き届けていただけません。」
「・・・何とかなりませんか? このままではお体を壊し、ふせることになりかねません・・・。」
結局、良案は浮かばなかった。
王妃マリアンヌと側室ヴィヴィアンの心労は増すばかりであった。
「伯爵そろそろ限界だ・・・。」
ロッツフォード領、ソルバテス=ロッツフォード伯爵。
ジークの言葉に顔をしかめる。
「流民の受け入れが限界に来たの?」
「いや、そっちの事じゃねぇ。ここロッツフォードまで来れない遠方の領地の民たちが一丸となり王都へ侵攻するかもしれねぇ。老若男女合わせて・・・一万。」
この知らせにソルバテスは目を見開いた。
「馬鹿な!?」
「安心してくれ。今はまだ動いちゃいねえ。だが、このままだといずれこの数が王都に押し寄せ暴徒と化す。そうなればスイストリア王家はお終いだ。民衆による民衆のための民衆の政治が始まるかもしれねえ。」
「まずいね・・・。」
「あぁ、まずい。政治ってのはそんな簡単なものじゃねえ。既存勢力に乗っ取られておしまいになるだろう。特にジルベルク帝国が喜びそうだ。」
「! まさか!?」
「そのまさかだよ。ジルベルクが暗躍している。」
伯爵の顔に陰りが見える。
その陰りにさらに追い打ちもしくは救いの手となるかもしれないことをジークは語る事にした。
「現状を打破できるかもしれないある人物がいる。」
「? どうにかできる人物がいるのかい?」
「先王の庶子がいる。」
ジークのこの爆弾発言にソルバテスは硬直する。
聞かされる今の今まで知らなかったのだ。
「そのことを本人は・・・?」
「知ってる。」
簡潔にジークは述べるがとてつもない重大事項だ。
「つまりこういう事!? ジーク君はその庶子の王族を祭り上げフブカ王を失脚させるってこと!?」
「そうだ。これ以上あの馬鹿に王として君臨されちゃあこの国はおしまいだ。」
「・・・僕は反対だ・・・。」
伯爵は苦渋の決断をするように言葉を述べる。
「自分の出自を知っていながらこの状況になっても出てこないという事は、立ち上がらないという事は、本人にやる気がないという事じゃないか・・・。そんなのフブカ王と大差ないよ。」
「やる気があればいいんだな?」
このジークの物言いが伯爵の感にさわった。
「! あぁ、勿論さ! でもね生半可な覚悟じゃ貴族は、王族は務まらないんだよ! それはジーク君がよく知ってるじゃないか!」
「あぁ、知ってるさ! 少なくとも俺が知ってる貴族、ソルバテス=ロッツフォード伯爵って貴族は本物だ! その本物を見て知ってなお、庶子様においで願うのさ!」
「・・・なら連れてきてご覧。僕たちが膝をつくに値する人か見極めるから。」
こうしてジークはまんまと伯爵との面談を取り付けた。
旧スハイル領の北にある寒村。
そこの士爵に婿入れしたある男性がいる。
名はファザード=リレファンド。年のころは三十前だろう。
妻の名はセラフィア。まだ子はいない。
ジークはリレファンド家を辞した。
話すことを一方的に話して。
夕食時、思いつめた顔をしている夫に声をかける。
「あなた、昼間の方は何をしにやってこられたのですか?」
「・・・何でもないよ。」
「嘘です。何でもないならそんな目つきをするはずがありません。こう言っては怒るかもしれないけどあなたはどこかやる気がなかったわ・・・。それが今はどこかこう、そう! 魂に火が付いたような目をしているわ!」
「!!」
「私はあなたの妻です。婿だからとかつまらない理由で遠慮される方が迷惑です。お話しください。」
「セラ、君にも話してないことがあるんだ。心して聞いてくれ。・・・昼間来た彼が言うには僕は生きながら死んでいるそうだ。」
ファザードは昼間の来客、ジークについて話し始めた。
ジークは客間に通された。
しばし待ち目的の人物が現れた。
ファザード=リレファンド。
挨拶と自己紹介を済ませるとジークが話し出した。
「あんたは生きながら死んでるな。」
「え? あの、いったい・・・。」
ファザードの事を無視してジークは語りだす。
「俺はどうしようもない馬鹿でね。分からない言葉があるとすぐ辞書を調べる。最近調べた言葉は王族だ。」
「!!」
「そしたら、民を踏みにじるものって書いてあったよ。」
「・・・・・・。」
「民って言葉を調べたら貴族から略取を受けるものって書いてあったよ。」
「・・・・・・。」
「貴族って言葉を調べたら王族の腰巾着って書いてあったよ。」
「・・・・・・。」
「腰巾着って言葉を調べたらファザードの事って書いてあったよ。」
「! 失礼なこ・・・。」
「ファザードって言葉を調べたらフブカの御同類って書いてあったよ。」
「!!」
「夢って言葉を調べたら他人を踏み台にすることって書いてあったよ。」
「・・・・・・。」
「踏み台って言葉を調べたら苦しむ民の事って書いてあったよ。」
「・・・・・・。」
「ちなみに御同類って言葉にはなんて書いてあったと思う?」
「・・・・・・。」
「責務を放棄したものって書いてあったよ!!」
「!・・・・・・あなたは私の出自を・・・。」
「生きる屍ってところにはなんて書いてあったと思う?」
「・・・ファザード=リレファンド・・・。」
「当たりだ。」
「・・・あなたはいったい・・・。」
このわずかな時間でファザードは憔悴しきっていた。
「今日はもうこれで帰る。・・・ちなみに贖罪って言葉にはなんて書いてあったと思う。」
「・・・なんて書いてあるんですか。」
「次来た時まで自分で考えとけ。」
こうしてジークは客間を出ていった。
「そのお話がどうしたというのですか?」
妻セラフィアの言葉を受けてファザードは自分の出自を口にする。
「セラ、僕は庶子なんだ。」
「? は? はぁ。」
「先の陛下の庶子だよ。」
「! それでは!」
驚く妻セラフィアにさらに言葉を重ねる。
「僕は王族なんだ。現フブカ=スイストリアは異母兄にあたる。」
「あなた!」
驚く妻を余所にファザードは語る。
「昼間来たジークさんは僕をなじりに来たのさ。王族でありながら今の現状を指をくわえて見ている事を。何もせずにいる事を。今の生活を守るために民を見殺しにしている事を。」
「あなた・・・。」
「セラ、どうやら僕の中にはまだ王族としての矜持が残っていたらしい。」
「・・・・・・。」
「今からでは遅すぎるかもしれない。でもやらないよりは良いと思う。セラ、君には王妃として僕を支えてほしい。」
「・・・。」
「急にこんな話をされて困るだろうけど・・・。」
ファザードの話は愛妻、セラフィアの口づけで塞がれる。
「ジーク様と言えばここ新生ロッツフォード領で改革に取り組んでおられる第一人者ではありませんか。そのお方が発破をかけに来たという事は非常事態という事ではありませんか? 私でよければ喜んでお力添えいたします!」
「・・・セラ、ありがとう・・・。」
愛する妻を力いっぱい抱きしめた。
ジークがファザード宅を訪問してから十日後、ファザード=リレファンドの自宅を再度訪れた。
そこは荷物がきれいにまとめられてリレファンド夫妻が並んで立っていた。
十日前とは明らかに違う眼差しのファザードがいた。
「贖罪って所には何て書いてあった?」
「王としての務めを果たすこと。」
毅然とした態度にジークは片膝を折り頭を垂れた。




