マテリア平原攻略の法
(? 出迎えは来てるがいつもの将軍らしくねえな?)
マテリア平原のこれからの攻略について話し合うということでジークはファーナリス法王国に向かっていたところ迎えの一団が見えたのだがいつもの豪放磊落なヒョードル将軍の笑い声が聞こえない。
よく目を凝らすと見慣れない人物が一人、二人いる。
そのたたずまいから身分の高い者だと当たりをつける。
(・・・まさか王族なんて言わねえよな?)
「初めまして、ジーク=ペンドラゴン卿! 私はファーナリス法王国、ヨルバ=ファーナリスが嫡子、ナナスと申します! 以後お見知りおきを!」
非常に意気込んで挨拶をかわす。しかも頭まで下げる。
「ナナス王子、面をお上げください。私は今は士爵の位に居るものですが元は一介の冒険者にすぎません。そう畏まられてはお話がしづらいです。」
「御謙遜を! 邪神討伐に始まり、主家であるソルバテス=ロッツフォード伯爵を救出するために百人斬りをやってのけたりした事は私の耳にも入っております! 他にも領地の運営では多くの民を飢えから救い、越冬を楽にするために色々工夫したとも聞いております! ジーク様が領地経営に携わってからは餓えて死ぬ者と凍え死ぬ者が激減したと聞いております! そのお話を是非聞きたくて父上に無理を言って此度のお迎えに上がった次第です!」
ジークは表情には出さずにドン引きしていた。
(なんか異様に俺の事を美化しちゃいねえか!?)
そのやり取りを一人の女性が制する。
「ナナス様、ここで立ち話もなんですから早く迎賓館へご案内しましょう。」
「! それもそうだね! ジーク様! 紹介します。ファーナリス法王国で神官長を務めているサリーです。」
「サリーと申します。今後ともよしなに。」
そういって妙齢の女性が会釈をする。
「ではジーク様! 迎賓館へ参りましょう!」
こうしてジークは何も言わされぬまま迎賓館へと案内された。
ジークは迎賓館の客間にて護衛役のヒョードルと二人きりなのをいいことに話し込んでいた。
「人が悪いぜ! 王族が来るなら来るで事前に教えといてくれよ、ヒョードル将軍!」
「がばばばばばばばばぁぁぁ! 童<わっぱ>でも困ることがあるかぁぁぁ!」
「あるに決まってんだろうが! でも、なんであんなに俺の事を美化してるんだ? 正直ドン引きした。」
「・・・アーヴィル様じゃ。」
「??? どっかで聞いたことが・・・あぁ! いつぞやの姫さん! ってことは兄妹?」
「そうじゃ。妹君じゃ。どうもその妹君が童<わっぱ>を神聖視しておるようでその影響を受けとる。」
「俺、彼女になんもしてねえよ!?」
「吟遊詩人の歌と実物を見て得心したんじゃろぉぉぉ!」
このヒョードルの言葉にジークは頭を抱えた。
(以前ドン引きするぐらいスィーリアの事を自慢話したのが愛妻を大事にする男ってふうに映ったのか!?)
「それにナナス様は行動力もおありでの。」
「?」
ジークはいきなり話が飛んだことをいぶかしむ。
「今朝になっていきなりついて行くと言い出した次第じゃあぁぁぁ!」
「止めろ! 本気で! 何かあってからじゃ遅えんだぞ!」
「がばばばばばばばぁぁぁ!」
「笑って誤魔化すな!!」
このやり取りもすぐに終わる。
部屋をノックする音がしたからだ。
「久しぶりだね、ジーク殿。いや、今はペンドラゴン卿と呼ばねばならぬか。」
ヨルバ国王が挨拶をしてきた。
「お久しゅうございます。ヨルバ陛下。出来れば今まで通りでお願いします。その呼び方はどうも慣れなくて・・・。」
「ははは、邪神討伐などという偉業をなした英雄でも呼び名には敵わんか。」
こうしてしばし他愛もない話をして時間が過ぎる。
「さてと、そろそろ本題に入ろう。マテリア平原の今後についてじゃ。」
ヨルバ王のこの言葉を受けてジークは己が意見を述べる。
ジークの述べた意見はこうだ。
先のファーナリス法王国との戦争でジルベルク帝国はマテリア平原の拠点をことごとく焼き討ちされて足がかりをなくしてしまった。しかし、諦めた訳ではない。
何としてでもここを手に入れねばならない理由がある。帝国の唯一と言っていい農業の後発をここで巻き返すためだ。マテリア平原を穀倉地帯とするためにまた必ず出陣してくるだろう。その時こちらが拠点とすべき砦をファーナリス法王国寄りのマテリア平原に作ってしまおうというのだ。今のロッツフォードはスイストリア王国がロクなことをしないために睨みを効かせねばならない。そのために小規模ながら砦をいくつも建設中であること。だからと言ってファーナリス法王国にすべてを任せるなど恥もいいところである。
ロッツフォードもマテリア平原に砦は作る。ただし規模は小さくなること。
とにかくこれでロッツフォードとファーナリスという二つの砦ができればジルベルク帝国は二面作戦を展開せねばならなくなるという事で負担が増える。この負担を好んで背負うとは思えない。片方ずつ片付けようとして一方を攻められても、もう一方が援護できるようにしておけば帝国も侵攻しずらくなる。
仮に三面作戦としてスイストリア王国を使われてもいいように先ほど述べたように各地に砦を築き対応できるようにしている。密偵を放つなど十分に睨みを効かせている。
他にも中央大陸随一の穀倉地帯であるアーメリアス王国と不可侵条約を結んでおく事。
ジルベルク帝国は全力を挙げてマテリア平原を攻略したいだろうが帝国南部に存在する独立国家グレステレンがある限り全ての兵をここに集結することができない。こうして帝国が手をこまねいてるうちに帝国から遠いところに建築した砦から南下しさらに砦を築く。この作業を両方で二、三度繰り返せば攻略完了となること。
気が長い話だが、確実に領土化することができるこの作戦が堅実だという事を話した。
「ふむ、ワシも良き考えと思うが、砦を築くとなると国家予算から捻出せねばならん。即答はしかねる。後日必ず返答することでよろしいか?」
「勿論でございます。良き返事を期待しております。」
こうしてマテリア平原の攻略の話し合いは終わりを見せた。
その後酒宴となった。
ヨルバ陛下もこの日のためにまる一日の予定を空けておいたのだ。
だが、ジークはそれどころではなかった。
ファーナリス兄妹、ナナスとアーヴィルが質問攻めにしてきたのだ。
しかも二人とも内容が全く違う。
ナナスは国政に係わること。
アーヴィルはジークの事を根掘り葉掘り。
ヨルバ王に助けを求めようにもヨルバ王自身も興味があるらしく聞き入っている。
(誰か助けてくれ!)
ジークの心の叫びは誰にも届かなかった。
「アブラハム、ジーク殿の作戦はどう思う。」
己が右腕であるファーナリス法王国の聖騎士団団長アブラハムに問いかける。
「非常に堅実かつ確実な作戦かと存じます。以前の帝国のように戦線を押し上げれば兵站が伸びて今度は我らが焼き討ちに遭いましょう。それを考えればこの作戦は申し分ありません。砦の建築費という項目がなければ。」
「やはりそこが問題か・・・。」
「はい。しかしマテリア平原という穀倉地帯を手に入れることを考えれば必要な出費と取れます。他の方々も納得するかと。」
「ふむ、まずは身内の説得からじゃの。もっとも、反対なぞする者が居るとは思えん。皆納得するだろう。」
「御意。」
「もう、帰られてしまうんですか!? せめてあと三日、いえ二日は居ても大丈夫なのでは!?」
「そうです! ジーク様はお兄様とお国の事ばかりお話になって私とはあまりお話しておりません! 是非ジーク様の冒険譚をお聞かせください!」
ファーナリス兄妹はしつこかった。
(あれだけ話したのにまだ足りねえのかよ!?)
戦慄するジークを見かねてさすがにヨルバ陛下が助け舟を出す。
「ジーク殿はロッツフォードに無くてはならないお方だ。それをお前たちの我が儘でいつまでもここにお引止めするのは失礼にあたる。聞き分けなさい。」
「はい・・・。」
「・・・はい。」
非常に不服そうなファーナリス兄妹であった。
ファーナリスでの砦の建築は一応全員の賛同を得られて建設することになったが、
ここで一つ問題が起こった。
もし仮にロッツフォードの砦建築が遅れればジルベルクはロッツフォードの未完成の砦を狙って侵攻するのではないか。その度に我らがファーナリス騎士団が出張るのではないかと。
そうなればお互いが消耗し泥沼化する。否、妖魔の軍団を抱えている分ジルベルク帝国が有利だろう。そんな懸念が生まれたのだ。
この懸念をヒョードル将軍が笑い飛ばした。
「がばばばばばばばぁぁぁ! そのような心配は無用ぞぉぉぉ! 童<わっぱ>はあれで築城の名人じゃぁぁぁ! 今回の普請も童<わっぱ>がやるじゃろぉぉぉ! 戦役大陸のいた時も気づいたときには仲間が逃げ込める簡易の砦をいつの間にか作ったり、戦が始まってから少し見ない間に要塞と思わんばかりの砦を築いたり一夜で砦を築いたりする天才じゃあぁぁぁ! 手間暇をかける余裕があるのであれば恐ろしいほど堅い砦を作るじゃろうぉぉぉ! むしろ心配するのはワシらの方じゃあぁぁぁ! 間違いなくロッツフォードより遅く出来上がるじゃろうぉぉぉ! 早くせんと恥をかくのはワシらじゃぞぉぉぉ!」
この言葉に押されファーナリスは砦建築に急いで着手する。
なお、余談ながら。
砦の普請はヒョードルが言うようにジークが行った。小さいながらも非常に堅牢無比な砦をファーナリスより一月近くも早く出来上がらせた。




