日常
本日二話目めです。
とあるロッツフォードに越してきた一家の風景。
「ただいま。」
「お帰りなさい!」
帰宅を告げる自分の声に子供たちが元気にお帰りの挨拶をする。
王都に居た頃はこんなにも元気ではなかった。
高い税金に高い物価。日々の生活にも事欠いていた。
そのためいつもお腹を空かせていた。
ひもじい思いをしている子供にまで我慢させねばならないのが悲しかった。
ところがだ。
この度王領に接するまでになったロッツフォード領に逃げてきたところ別世界が待っていた。
子供たちにお腹いっぱい食事を取らせることができるのだ。
仕事もある。
それなりの給金ではあるが貯蓄ができるほどには十分に暮らしていける。
日々の幸せを実感できる。
逃げてきて本当に良かったと思った。
とある冒険者たちの風景。
「まぁ、ゴブリン退治なんて俺ら駆け出しが受ける仕事だよな・・・。」
「いいじゃないか。傭兵じみた生活より冒険者らしいだろ?」
「まぁな。王都に居た頃は冒険者らしい仕事なんてなかったからな・・・。」
「ゴブリンで思い出したわ!」
「! びっくりした!? なんだよいきなり!?」
「知ってる? ここのジーク様の伝説?」
「ジーク様ってペンドラゴン士爵様の事か?」
「そう! その士爵様よ! ここロッツフォードに来たばかりのころゴブリンロードが率いる百を超える群れを一人で切り伏せたって話!」
「ナンボなんでも話を盛り過ぎだって! いくらゴブリンだからって百は無い、百は!」
「・・・でもあの士爵様『百人斬り』とか言われてなかったっけ?」
「「「・・・。」」」
生ける伝説とされたジークであった。
とある酒場にて、酔っ払い同士の話の風景。
「馬鹿野郎! スィーリア様のあの神々しいオッパイをみて拝まずにいられるかってんだ!」
「馬鹿はお前だよ・・・。オッパイよりあの引き締まったお尻がいいんじゃないか!!」
「俺はむしろフェルアノ様に踏まれたい!」
「変態だ! ここに変態がいる!」
「エリーゼ様のあのお耳をハムハムしたい!」
「おバカ! ハムハムするならクローゼ様のお耳だ!」
「アクアーリィ様のお尻に敷かれたい!」
酒に酔った若者たちの話である。
勿論、ジーク=ペンドラゴン士爵様の御正室と御側室に対しての暴言であるため衛兵にとっちめられた。
とある紡績工場にて働き手たちの風景。
「ここをこうすればいいんですか?」
「そう! そうだよ! 呑み込みがはやいねぇ。これが若さってやつかね?」
次の世代へ技術を受け継がせるために熱心に指導がされていた。
紡績業は今やロッツフォードの中心産業になっている。
後進の育成はやらねばならないことだ。
「お前さんらがいるならこの工房も安心だね!」
「そんな! 私なんてまだまだです! これからもご指導ご鞭撻お願いします!」
「あいよ!」
こうして順調に後進が育成されていく。
とある農場にて壮年の男性と若者達の話。
「オヤッさん! そろそろ昼にしませんか!」
「おう! 今そっち行く!」
広い農場である。声を張らねば聞こえない。
こうして皆で昼飯を囲み食べていく。
「豆とかイモとかはよく食うから分かるんっすけど、この稗<ひえ>?とか粟<あわ>?とか黍<きび>?とか食えるんっすか? 」
「! 馬鹿野郎! これはな、ロッツフォードがまだ辺境の村だった頃、ジーク様が未開拓地から見つけてきてくれたありがてぇ食べモンだ! 冷害で麦やら芋やら育ちが悪い中こいつらだけはよく育ったんだ! おかげで飢えることだきゃあ無かった。他にも陸稲<おかぼ>とか麦の代わりになるモノを見つけて来られたり本当にジーク様様なんだ! ケチつけたら罰が当たるぞ!」
この剣幕に若者は素直に謝る。
「すんません! 知らないことばかりで・・・。」
「・・・まぁ、俺も興奮しすぎた。怒鳴るつもりはなかったんだよ。悪かったな。」
「でも、ジーク様ってあの邪神討伐の英雄様でしょ? その人って何者なんっすか? 顔立ちが整った二枚目で冒険者としては一流でしかも色々物知りなんてそんな完璧な人間ホントにいるんっすか?」
妬みのこもった発言に壮年の男性は苦笑する。
「本当にいるさ。伯爵令嬢であるスィーリア様とご結婚してこのロッツフォードの発展に尽力してくれた方だ。まぁ、難点もあるぞ。」
「!! あるんっすか!? その完璧超人に!?」
興味満々で聞いてくる。
「おう。・・・女性にやたらモテて全員きっちり手中に収めてるんだ・・・。」
これを聞いた瞬間若者たちの目が据わった。
「・・・どこがとは言わないっすけどモゲレばいいのに・・・。」
「・・・うん、俺もそれは思う。」
ロッツフォードの鉱山にてドワーフ達と若い鉱夫たちの会話
「しかしここはよい鉱山じゃの! 良い鉄がドンドン採れる!」
ザマルガスがダルマグナに話しかける。
「鉄だけじゃないぞ! 銀も取れるぞい!」
そこに若い鉱夫が話しかける。
「親分さん方! こんなのが採れたんすけど?」
それを見て親分さんと言われたザマルガスとダルマグナが目を凝らす。
「こいつはおそらく紅玉<ルビー>じゃろ。他にはなかったか?」
「今んとここれだけっす!」
「もうちょい探そうか? 鉄や銀だけじゃなくて紅玉<ルビー>まで採れるとなると伯爵やジークのボンも喜ぶじゃろ。」
こうして鉱山開発は紅玉<ルビー>という思わぬ掘り出し物を見つける事となった。
ソルバテス=ロッツフォード伯爵宅。
「ジーク君、これ間違ってるよね?」
そういってある一枚の紙をジークに見せる。
何の事だろうと思い受け取ると書かれている内容に苦笑する。
「残念ながら本当の事だ。」
「だって収入がスイストリア王国の二倍以上あるよ!?」
「その分支出もあるだろうがよ・・・。」
「支出って一領地分じゃないか! 明らかに異常だよ!? 家なんか悪いことしてるんじゃないの!?」
戸惑うなという方が無理である。
ロッツフォードは順調に経済大国になりつつあった。
元天空要塞、天使の輪<エンジェル・ハイロウ>のジークの執務室にて。
「以上が領内の状況となります。」
ジークはファニスから報告を受けている。
「とりあえず酒場に居た馬鹿どもは俺直々に〆る!」
「衛兵たちのこっぴどく叱られておりますのでお止めください。」
頼りになるファニスからこう言われては自制するしかない。
「他には?」
「当初はさすがに混乱もありましたがすぐに落ち着きました。」
「まぁ、順調に生活ができているならそれでいい。」
「はい、その通りです。民が笑顔で生きるのは良き事と存じます。」
「あとは、ファーナリスとマテリア平原を割譲統治することか・・・。」
「? スイストリア王国の方はいかがなさるのですか?」
「ファザード=リレファンド。」
ジークのこの一言で全てをファニスは察した。
「良きお考えと存じます。」
「あとは今夜の閨<ねや>をファニスが共にしてくれれば文句は無い。」
この言葉にファニスは婉然と微笑む。
「嬉しいわ。あ・な・た。」
こうして執務室であるににも係わらず服を脱ぎだす。
苦笑しながら隣部屋の簡易ベットまでお姫様抱っこでファニスを運ぶ。
これが嬉しくファニスは手をジークの首に回し口づけをする。
主と密偵の長という肩書を横において愛し合う者同士存分にお互いの体を弄った。