合従連衡
サブタイトルはがっしょうれんこうと読みます。意味はその時々の利害に応じて同盟を結んだり離反したりすることです。
朝もやのかかる中、妻と娘のあまりの行動に活力をなくしたフォルキスとその妻ライラは天使の輪<エンジェル・ハイロウ>の外に出されていた。
解放されたのだ。
「私を手に入れなかったこと死ぬまで後悔する事となりますわよ?」
身代金を払われてフォルキス=グリズールとその妻ライラは解放されスイストリア王都に連れて行かれる事になった。
だが、ジークに取り入ろうとこの期におよんでまだ言い募っていた。
今までの経験から「この男こそは!」と思い、取り入ろうとしているのだ。
ライラ自身の女の部分が制御できないぐらい入れ込んでしまっていた。
なお、ライラの身代金は相場の倍以上の金額をふっかけられている。
監禁生活を満喫してもらう為にだ。
ところが身代金は払われた。
ある裏事情があるのだがライラの言動がうっとうしくなったジークがその説明の為に口を開く。
「・・・トンビが鷹を生むって言う言葉知ってるか?」
「・・・・・・。」
凡庸な男を虜にする閨の技術はあっても知識量が足りないライラは黙り込む。
「平凡な親から優秀な子が生まれることを言うんだよ。お前さんらと俺のフェルアノがまさにその関係だ。とても血の繋がった親子とは思えねえよ。」
もうフェルアノはお前達とは関係ないという意味を込めて「俺の」という言葉を強調して話した。
「そんな平凡なあんた等に分かるように説明してやる。」
「何よ!! 何があるというの!?」
ライラは戦々恐々とジークの説明を聞いた。
「フォルキス=グリズールは相場通りの金額を請求した。だが、あんたに関しちゃ相場の倍以上の金額を請求している。監禁生活を楽しんでもらう為にな。」
このジークの言葉を聞いてライラの頬が引きつる。
わずか半月でも耐え難い苦痛だったのだ。
もし支払われなかったとしたらあの生活を生涯続けることになる。
とても耐えられることではない。
だが、身代金は支払われていることに安堵した。
ジークとフェルアノがライラを哀れむ様に視線を投げかける。
それにライラは恐怖を覚えた。
自分の知らない何か情報があると本能が叫んだ。
「誰が身代金を払ったと思ってるんだ? 王家が払ってくれたとでも思ってたのか? 残念だが違うよ。今までお前が利用してきた貴族達が金を出し合いお前を買ったんだよ。世の酸いも甘いも知っているつもりでいるおばはん、覚えとけ! この世には金を払ってでも復讐したいと思っているやつらってのは結構いるんだよ。」
「!!」
ライラはここまで説明されてやっと分かった。
自分は解放されたのではないと。
今まで玩具の如くもてあそんできた者達に今度は逆に玩具にされるために買われたのだと。
「イヤァ! イヤァァァ! 何でもするわ! お願い! 助けてフェルアノ! 助けてジーク様!」
混乱しはじめたライラは茫然自失となっているフォルキスと共に馬車に入れられロッツフォードを後にすることになった。
「ごめんなさい。お姉ちゃん。」
その日の昼、フェルアノは大切な妹のラクリールから突然謝られた。
意味は分かっている。親殺しをジークを通じて止めさせたことを謝っているのだ。
「謝らないで、ラクリール。むしろ謝らなければいけないのは私のほうよ。心配をかけてゴメンね、ラクリール。」
そっと我が妹を抱き寄せる。
「お父さんを亡くしてるから、せめてお母さんだけは生きていて欲しかったの。」
この言葉にフェルアノは己の行動にゾッとした。
どのような経緯があれ私はラクリールの母親を殺そうとしたのかと。
ラクリールを抱きしめる腕に力を込める。
妹を守ると誓ったのに二度と消えない傷を与える所だったと恐怖が襲ったのだ。
目から涙がこぼれる。
ジークが止めてくれてよかったと心から思った。
場所は天使の輪<エンジェル・ハイロウ>のフェルアノに宛がわれた一室。
決して豪華ではないがフェルアノにとっては気に入っている部屋だ。
その一室でフェルアノは妹のラクリールとお茶を楽しんでいた。
だが、先ほどからたった一人の大切な妹がそわそわしている。
理由は分かっている。
何せ今までの生活でラクリールの視線が全てを物語っていた。
視線の先には必ずジークがいた。そして周りにいるスィーリアやクローディアを見て激しく落ち込んでる姿を見れば用意に想像がつく。
今日は意を決して姉である自分の所に相談に来たのだろう。
フェルアノは自分の方から切り出すことにした。
「ジーク様の事が好きなのでしょ?」
途端に顔が真っ赤になる。
「で、で、でも私成長がも止まっちゃったようだし、だから・・・その、おっぱい小さいし・・・。」
我が妹ながら可愛いこと。
そう思いながらジークの事を、銀の乙女と眷属について教えることにした。
その日の晩の閨はフェルアノが務めることになっていたのだが一向に来ない。
まあ、こういう日もあるか。
そう考えてゆっくりベットで本を読んでいると部屋をノックする音がした。
気配で誰か来たのは分かっていたが二人分感じる。
はて、誰が来たかと思い部屋へと招くとフェルアノがラクリールを伴いやってきたのだ。体の線がはっきり分かり布が透けて見えるかなり扇情的な寝間着を身に着けてきたのだ。下着は当然のようにつけていない。見えてはいけないところが色々見えている。しかも己の妹を連れてきたのだ。そのラクリールは青色の寝間着をきている。フェルアノのように扇情的では無いが清潔感があって好ましい。
だが現状が理解できない。
そうこうしているとフェルアノがラクリールをせっつき始めた。
「ほら、早く。練習したと通りに言ってみなさい。」
「う~、恥ずかしいよ! お姉ちゃん・・・。」
そう言って妹の背を押す。
たまにフェルアノはお茶目をする。
今回もそれかと思ったが、フェルアノの目に妹を思う慈愛だけでなく劣情も感じる。さて、どうなるかと待っているとラクリールが口を開いた。
「あ、あの、その、お兄ちゃん・・・!」
ラクリールから見ればそう見えるかとジークは感慨に浸った。
「ほら、早く続き。」
「う~、恥ずかしいのに・・・。」
「じゃあ、私から言う?」
このフェルアノの言葉にラクリールは頷く。
「しょうがない子ね・・・。ジーク、今夜は妹のラクリールと一緒に可愛がって貰いたいの。妹は初めてだから優しくしなきゃダメよ?」
ジークは開いた口が塞がらなかった。
「フェルアノ・・・。何考えてんだ?」
「あら、ラクリールがあなたを男としてみていたのは気づいていたでしょう? それであなたの周りにいる女性達は私を含めて皆胸が大きいから自分じゃあなたを満足させられないと思って気持ちを伏せてきたんだって。けど、やっぱり我慢が出来ない。だから今日こそ思いを伝えさせたいから連れて来たのよ。」
「あの、ジーク様、じゃ無くてジークお兄ちゃん! 好きです! お姉ちゃんのようにお、お、おっぱいは大きくないけど! むしろちっちゃいけどそんな私ですけどお兄ちゃんの眷属にしてください!」
「・・・話したのか?」
「避けては通れない話でしょ? ちゃんと話をして覚悟を決めさせたから安心して。」
「・・・今のやり取りに覚悟は見えなかったが?」
「ほら、ラクリール。愛しい旦那様がこう仰ってるわよ?」
「・・・すごくドキドキしてます。恥ずかしくて死んじゃいそうです。でも、でも、自分のこの気持ちに嘘はつきたくないし、お姉ちゃんが一緒なら安心できるし、だからその・・・私の最初で、そして生涯の人になってください・・・。」
「初々しいでしょ? スィーリア達の前でも同じことを言ったわ。」
「それでも初めてなんだろ? だったら日を改めてというか、何というか・・・。」
「・・・お姉ちゃんが一緒が良いです・・・。」
「ですって。」
そうして艶のある笑みを浮かべる。
「ふふふ、後はジーク次第よ。」
この言葉を合図にラクリールは寝間着を脱ぎだす。
(我慢なんぞ出来るか!)
鬼畜なひと時をすごした。
ジークは大いに自己批判した。
(何やってんだ! 俺は! ラクリールは初めてだろ! せめてもうちょっと雰囲気とか考えて一対一で可愛がるとか出来ただろう!)
ラクリールの臍を中心に魔方陣が描かれている。
無事に眷属となったのだ。その魔法陣をフェルアノが優しく指でなぞっている。
二入とも裸だ。
ベットには生々しく破瓜の後がついている。
「・・・なぁ、ホントにこれで良かったのか?」
「あら、まだしたり無いの?」
「えっと、ジーク様、じゃ無くてジークお兄ちゃんがしたいなら私まだ頑張れるよ?」
「いや、そうじゃなくてな・・・。」
「あなたが相手だからこんな淫らな事が出来るのよ? そうじゃなければ今頃舌をかんで自害してるわ。」
「私もです! お姉ちゃんとだからこんなことが出来たんです! ジークお兄ちゃんがこの方が喜ぶと思って・・・。だからこんなシマイドン? が出来たんです。」
「分かった。俺は底なしのスケベだとよーく分かった。お前ら二人覚悟しろ!」
鬼畜な一夜はまだまだ続く。
数日後、セーラ、ソニア、タバサ、メリッサの情報収集のためにスイストリアに潜伏していた四人衆が帰還した。
重大な報せを持って。
「スイストリア王都に各諸侯が終結し始めている?」
「はい。このまま集まり続けると六千を超える大軍勢になるかと思われます。」
四人衆を代表してセーラが答える。
「それだけの軍を編成してどこへ攻め込むって言うんだ? 国家総戦力じゃねえか。クアートでも攻め取ろうとしているのか? そんな烏合の衆で。」
「最初はクアート自治領へ攻め込むものと思っておりましたが・・・。」
セーラの言葉をメリッサが引継ぐ。
「狙いはここ、ロッツフォードです。」
「!」
「クアートは三方を海に囲まれ陸続きの大地も険しい山々で塞がれております。唯一の陸路には石垣を高く積み上げた関所がございます。」
「海路があるから物資は運び放題の天然の要害だから攻めはしないか・・・。だがそこまでしてここを攻める理由は何だ? 国家が疲弊して機能しなくなるほどの軍勢だぞ?」
「恐れながら申し上げます。」
タバサが進み出てきた。
「理由は二つ考えられます。一つはロッツフォードがグリズールを簡単に降したことです。各諸侯はこれを見て次はわが身と怖くなったのでしょう。王家の召集に反対する家はありませんでした。」
「・・・確かに。グリズールは戦の準備はしていたがロッツフォードに攻め込んだわけじゃねえ。他所から見りゃ侵略したのはロッツフォードに見えたわけか・・・。」
「はい。」
「もう一つは?」
「・・・奥方様です。」
「スィーリア?」
「はい。もっと厳密には奥方様始めとする銀の乙女達と私達眷属を後宮に入れようとフブカ王が画策したことによります。」
「・・・。」
怒りに震えるジークにソニアがさらに追加報告をする。
「加えてもう一つご報告が。」
「・・・なんだ。」
「王家はロッツフォードでの各諸侯の略奪行為を認めております。」
「!! つまりこう言う事か? 各諸侯は領地運営が上手くいっていない。そこで産業が発達して金を稼ぎ始めたロッツフォードでの略奪行為で穴埋めを狙う。王家はここを直轄領にすることで中長期的にロッツフォードの産業を国有化する。そしてついでにスィーリア達を愛妾にする為に生け捕りを狙っている。」
「奥方様たちは絶対に生け捕りにしろとの命が下されておりました。」
「クソッタレが! そんな暇があるならやるべき事は他に山ほどあるだろう!!」
「相も変わらずろくな事しないね・・・。スイストリアは・・・。」
ジークは伯爵宅に来ていた。ロッツフォードの存亡を賭けた戦をこれからせねばならないからだ。
「向こうの兵力はおよそ六千五百、こちらは千五百。五倍近い兵力を持って臨んでいる。間違いなく攻城戦を意識している。」
「・・・何か策はあるかい?」
「クアートと連動する。」
「クアート? あの自治領が呼応するかな?」
「戦の準備をしてくれるだけでいい。戦そのものはしてくれなくても良いんだ。」
「? どういうこと?」
「スイストリアの総戦力こちらに向かっている間に後ろの無防備にがら空きになっている領地を狙っていると思わせることが出来れば諸侯の連携に狂いが生じる。その針の穴のような隙をついていくしか勝ち目は無い。クアート自治領だって次はわが身なんだからな。」
「・・・・・・。」
「他にもクアート近くの領主で金次第で動く不見転<みずてん>共を上手く誘導して裏切らせる。調略すれば後方の兵糧を焼き討ちして兵站を潰せるかもしれない。」
「・・・・・・。」
「あと、グリズールの領民にも避難勧告を出す。ロッツフォードで略奪行為をしようとしてるんだ。グリズールでもやるだろうぜ。」
「・・・・・・。」
「兵は一兵に至るまでここ天使の輪<エンジェル・ハイロウ>に終結させる。ここを最終防衛戦にする。ここを抜かれたら終わりだ。」
「分かった。全責任は僕が取ろう。ジーク君、いやペンドラゴン卿、総指揮を取ってくれ。」
「御意。」
こうしてジーク=ペンドラゴンの指揮の下ロッツフォードの準備も進められた。
スイストリア各諸侯の思惑、スイストリア王家の思惑、クアート自治領の思惑、全ての思惑が絡まりロッツフォードで戦の大きな炎が上がろうとしていた。




