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攻勢

「よし! 敵先鋒が本隊から十分に距離をとった! 後先考えぬ馬鹿者で助かる! 本陣に餌となる百名を残し他は全て右に流せ!」

ジークのこの指示の元、兵四百が右軍となり敵先鋒の側面に張り付こうした。

(ヒョードル将軍は機を見るに敏な人だ。特別な指示を出さなくとも・・・!)

敵先鋒と正面からぶつかっていたファーナリス軍は右軍が形成されるとほぼ同時にあっさりと敵先鋒をこれをかわし、中央軍から左軍となり右軍同様側面から攻め立てた。挟撃したのだ。



(ええい! 小賢しい!)

帝国軍先鋒は左右から攻め立てられ逃げ場を失った。

だが、正確には逃げ場はある。

被害が甚大になるのを承知で少数の右軍を潰すこと。

だがこれは猛将ヒョードル率いるファーナリス軍に背を向けることになる。

間違いなく先鋒八百は殲滅の憂き目に遭う。

では逆に右軍に当たりながら左軍と戦うと言うのも無理がある。

ファーナリス軍千人の主力部隊だ。

帝国軍本隊が突入するまでとても時間は稼げない。

だからと言って開始早々自軍の本隊へ戻るわけにもいかない。

自分の経歴に敗戦を飾るわけにはいかないからだ。

だからこう一つの逃げ場に入り込んだ。正確には攻め込むことにした。

「少数しかいない敵本陣に攻め込む! 突撃!」



ファニスがジークの元にやってきていた。

「ジーク様、敵先鋒が予定通りこちらに向かってきております。」

「十分ひきつけてから存分にお見舞いする。そうフェルアノ達に伝えろ。」

「御意。」



「ふん! 百名足らずで本陣を守るとは片腹痛いわ!」

左右から散々叩かれながらも帝国軍先鋒隊は手勢六百を引き連れてファーナリス軍の本陣に迫っていた。

勢いがついていた。だがそれは裏目になる。

引き返せない程、救助を求めることも出来ない程の距離が本隊と開いたのだ。

そこにファーナリス軍本陣からいくつもの火球の魔法<ファイヤーボール>が飛んできた。

勢いが乗ってる為回避行動など取れない。

余すことなく全ての魔法攻撃を貰うことになった。



「状況はどうなっている!?」

帝国軍の先鋒を任されている指揮官は混乱の局地となった自軍を立て直そうとしていたが、上手くいかない。

(今まで魔術師による攻撃などなかったぞ!? それもこれほどの数の魔術師をいつの間にそろえていたのだ!?)

だが、ファーナリス軍はこの混乱が収まるのを待ってやる必要は無い。

この機を逃すまいとヒョードル将軍率いる千名の騎兵が枯れ草を刈るように先鋒隊を狩って行った。



「急報! 急報!」

場所は帝国軍本陣。そこに早馬が走りこんできた。

「何事か!」

「所属不明の部隊により我が軍の補給基地が次々と焼き討ちに遭い、壊滅したとのことです!」

「!! 残っている基地は!?」

「ありません! 全て焼き払われました!」

この報を受けた将軍が本陣に張られた天幕の上座に座る人物に意見を求める。

「総司令、どう考えられる?」

「おそらく、その部隊はファーナリスの傭兵部隊でしょう。緒戦以降姿が見えなのが気になってはいましたがまさか半年がかりで我が軍の後方に回っていたとは。これで我々はマテリア平原に孤立することになります。この戦を早々に終わらせて帰国せねば兵糧が尽きて無くなりますね・・・。」

「急報! 急報!」

「ええい! 今度は何だ!」

「味方先鋒隊が壊滅いたしました!」

この報告に総司令官と思われる上座に座る青年が過敏に反応した。

「!! 仔細を話しなさい!」

「敵の陣形が変形し挟撃を取られました。そこで少数しかいない敵本陣を目指したところ多数の魔法の攻撃を受けて、甚大な被害をこうむりそこを敵将ヒョードル率いる騎兵一千に討ち取られました!」

「・・・違う。ヒョードルではない・・・!」

総司令のこの発言に帝国の諸々の将が黙り込む。

「敵の総指揮官はヒョードルであろうが、全体の指揮は誰か別な者が執っている! ヒョードルにこれほどの軍略は無いはずだ! その者を討たねば我らは負けるぞ!」

「急報! 急報!」

「またか! 今度は何だ!?」

天幕の中が苛立ちで満ちていた。だが使者は報告せねばならなかった。

「我が軍本陣に所属不明の部隊が迫っております! その数およそ三百!」

「・・・おそらく焼き討ちをした部隊でしょう。三百なら蹴散らしなさい!」

「急報! 急報!」

帝国軍本陣は急報の連続で機能が麻痺し始めていた。

「・・・ふぅ、今度は?」

「敵が総攻撃をかけて来る模様です!」

「!! 願っても無い! 多少では在りますがまだある兵力差で押し切ります!」

「急報! 急報!」

「またですか!?」

「敵将ヒョードル率いるおよそ一千の騎兵が正面から、さらに約四百の部隊が我が軍の左へ迫っているとの事です!」

「!! 三方向からの攻撃!? 先鋒隊を壊滅させられて士気が下がっているそんな中で包囲網を築かれれば我々は壊滅です! 口惜しいことですが撤退します・・・! 後方の焼き討ちをしたと思える敵部隊を殲滅し帝国に帰還します!」

「しかしまだ兵力差はございます。まだ戦いようがあるのでは?」

「完全に包囲されれば実際に戦うのは陣の外縁の者達だけになります。実際に戦わない者達が陣の中央に溢れてしまいます。そうなればこのわずかな兵力差などあってなきものです。敵は只者ではないことが分かりました。どのような策を設けているか分かりません。包囲網が構築される前に撤退します。これは決定事項です!」



「三方向からの包囲が完成する前に後方の傭兵部隊を突破して撤退するつもりだろうが大切なことを忘れてるぜ。ヒョードル将軍の突破力を!」

ジークのこの言葉が示すとおりヒョードル将軍率いる騎兵約一千は無人の野を行くが如く突き進んで行った。

帝国本陣はほぼ歩兵で構成さえているため騎兵の突撃にことごとく踏み潰されたのだ。こうしてヒョードル将軍は帝国本陣を縦横無尽に暴れまわった。



「がばばばばばばばばぁぁぁ! もろいぞぉぉぉ!」

暴れまわるヒョードル将軍は在る一団に出くわした。

「? おぬしら帝国の将軍達かぁぁぁ!?」

「ヒョ、ヒョードル!?」

「がばばばばばばばばぁぁぁ! ワシも有名になったモンじゃぁぁぁ! それでお主等は何者じゃ? その格好から雑兵というわけでは在るまい!! 帝国の総大将じゃろぉぉぉ!」

ヒョードル将軍が持つ長い柄に戦斧を取り付けた武器<ポールアックス>で共のものと思われる者達を次々と切り捨てていく。

「若、お逃げください! ここは我々が引き受けます!」

若と呼ばれた青年が馬に乗ろうとする。

だが、それはヒョードルの言葉で止まった。

「何故ここまで上手く乗せられたか分かるかぁぁぁ!?」

「!!」

「お主等はいらん事をしすぎたのじゃぁぁぁ!」

「いらない事?」

若と呼ばれた青年、今回のマテリア平原における戦の帝国軍総司令官を任ぜられた青年が応答する。

「そうじゃぁぁぁ! 放って置けばただの種火であったものをいらぬ事をするからスイストリアとジルベルクを焼く大きな炎となったのじゃぁぁぁ!!」

「種火? 大きな炎? 何のことだ!?」

「・・・分からねばそのまま去ねぇぇぇ!!」

ヒョードル将軍が振るう長い柄に戦斧が取り付けられた武器<ポールアックス>でその首を切り飛ばされた。



「終わったか?」

「はい、ヒョードル将軍が敵司令官と思われる人物の首級<くび>をあげたとの事です。」

この報告にジークは苦笑する。

「せめて何処の誰なのか名乗りぐらい聞いてやれば良いのに・・・。」

本陣に控えていたジークの元にファーナリス軍を筆頭に傭兵部隊、元スイストリア諸侯軍等皆が帰還してきていた。

勿論ロッツフォードの面々もいた。泥に塗れながらも多少の手傷を負った事を除けば全員無事そろっている。

そこに一際大きな体躯の男が現れた。

ファーナリス法王国軍総司令官ヒョードル将軍である。

何を思ったかジークをいきなり肩車したのだ。

「ちょ、何!? ちょっと、何!? 将軍!!」

戸惑うジークを他所の肩車を止めないヒョードルが口を開いた。

「勝ち鬨じゃぁぁぁ! 童<わっぱ>ぁぁぁ!! お主が上げるのじゃぁぁぁ!」

これを受けて得心はしたが・・・。

(普通にやれねえのかよ!?)

ヒョードルも嬉しさのあまりジークを担いだのだ。

「・・・ったく。」

そうしてジークは勝ち鬨を上げる。

「我々は勝った! マテリア平原を取り戻したぞ!!」

これに諸々の将兵達が大声で応えた。



マテリア平原をめぐる戦はファーナリス法王国が勝利を治めた。


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