反攻
「ジーク・・・! まさか父上なのか!?」
ジークが背負っている我が父の変わり果てたあまりの凄惨な姿にスィーリアは絶叫をあげる。
「話は後だ! 今は治療が優先だ! ジュリシス達神官をありったけ呼び集めてくれ! メイスティークとセラフィアスも読んで傷に塗る薬草の準備をさせてくれ!」
「! わ、わかった。」
ロッツフォードの伯爵宅は慌ただしくなった。
臨時の治療室となった部屋からジーク、蒼薔薇のジュリシスを始めとする三人の神官、塗り薬の調合をしたエルフのメイスティークと同じく薬の調合をした錬金術師のセラフィアスが出てくる。
「・・・ジーク。みんなも・・・。治療をしてくれてありがとう。・・・父上の容態は?」
傷への塗り薬を調合したメイスティークが答える。
「傷の膿が酷い状態でした。治っても体中に痕が残るでしょう・・・。」
「それだけではない・・・。」
もう一人塗り薬の調合をしたセラフィアスが言い出す。
「骨折した箇所をそのまま放置した為骨が歪な形でつながっていた。特に左足が酷い。今後まともに歩くことは出来まい・・・。」
「こればかりはいくら神聖魔法の力を使っても治せませんでした・・・。」
「それに飢餓状態なのが怖い。」
ジークがそれらの言葉を締めくくるように言葉をつむぐ。
「あんな状態だと水を一口飲ませるのも考えモンだ。体が過剰反応しちまう。メイスティーク、戦役大陸で以前飢饉に陥った村があったのを覚えているか?」
「えぇ、覚えています。子供達が何人もし死にかけた村でしょう?」
「・・・あのときの要領で伯爵に薬を与えてくれ。」
「分かりました。」
こうして皆一睡も出来ない夜となった。
「伯爵の容態はどうだ?」
伯爵の世話をする女中に声をかける。
ジークはファーナリス本陣とロッツフォード伯爵宅を魔法を使って往復する日々を送っていた。勿論、戦に勝つ為に策動することも忘れていない。
ソルバテス=ロッツフォードを奪還してから二週間が経過していた。
その間伯爵はずっと昏睡状態なのだ。今のジークでは戦に手がつかないだろうというということで落ち着くまでもう少し長期戦をすることになったのだ。
ファーナリス法王国軍総指揮官であるヒョードル将軍のこのはからいにジークは思わず涙を流した。
そして今日もまた伯爵宅を訪れたのである。
「今日もやはり・・・。」
女中がそう答えた所に他の女中が血相を変えてジークの元にかけ込んできた。
「若様! 伯爵様が目を覚まされました!」
「父上! 私がわかりますか!?」
「父さん!僕の事が分かる!?」
「エヴァンだ! 父さん! 分かるだろ!?」
「・・・・・・皆一度に言わなくても・・・分かるよ。」
「伯爵!」
「スィーリア。・・・そんなに顔を泣きはらして。折角の美貌が台無しだよ?」
そう言ってそっとスィーリアの顔を撫でる。
「父上!」
「エドワード。僕が留守の間はしっかり領内を守ったかい?」
「父さん!」
「エヴァン。騎士としての務めは果たしてるかい?」
「父さん!」
「そしてジーク。」
「なんだ!?」
「あの地下牢で君の声が耳に入ったよ。父さんって」
「伯爵・・・。今は薬を飲んで休んでくれ。」
「・・・わかったよ。」
こうして家族はやっと本当の意味で再会したのだ。
「がばばばばばばぁぁぁ! それでは伯爵殿は無事目を覚ましたのかぁぁぁ!」
ジークは伯爵が目を覚ましたこと、今後戦に専念することを伝える為にファーナリス本陣に来ていた。
「目は覚ましたが予断は許せる状況じゃねぇ。」
「それでもまずは一安心じゃぁぁぁ! 童<わっぱ>ぁぁぁ! 酒宴じゃぁぁぁ!」
「戦が終わったらいくらでも付合うから今は目の前の事を片付けようぜ?」
「うむ! 酒宴じゃぁぁぁ!」
「いや、だから・・・。」
「酒宴じゃぁぁぁ! 勝利を期して前祝じゃぁぁぁ!」
「・・・・・・。」
こうなると言う事を聞かないのを知っているジークはロッツフォードから持ってきていた酒を思ってもいないところで振舞うことになった。
「童ぁぁぁ! お主のとこの酒は独特のキレがあって中々美味いぞぉぉぉ!」
「確かに果実酒などとは違い独特のクセがありますがこれはこれでいいものですな。」
「いや、これ以外といけますよ!」
本来ここまでの長期戦は聖騎士達はやった事がない。
そのためヒョードル将軍はこうやって度々酒宴を設けて厭戦気分を周りの将兵と共々に晴らしているのだ。
「お気に召していただき、そらぁよおぉござんした。」
「? どうしたぁぁぁ! 童ぁぁぁ!」
「いやな、俺が言うのもなんだけど、そろそろ決着を付けにゃあならんのと違うか?」
「・・・ほれ。」
この一言とともに軍配を投げて寄越した。
「! おい、将軍良いのかよ!? ファーナリスじゃどうかは知れねえが俺としては軍配は指揮官の象徴だぞ!?」
「安心せい。ファーナリスでも同じじゃ。」
自分は客将である。しかも我侭を言ってファーナリス軍に被害を出している。
そんな自分が軍の指揮を執って良いのか迷ったのだ。
「ワシは暴れることに専念する。童ぁぁぁ! お主は一万までの兵を動かした事があろうぉぉぉ! ファーナリス軍を見事手足の如く動かしてみせい!」
「将軍は良くても他の連中は黙っておらんだろう!」
「承諾済みじゃ。」
一瞬ジークは我が耳を疑った。
承諾した? 聖騎士団が? 余所者が指揮を執ることに?
ジークの疑問を顔から察したヒョードルは回りにいる将兵達をあごを使って指し示す。
「嘘だと思うならそこにいる連中に聞いてみい。」
この言葉を聞いて周りを見渡す。
すると、全員がジークを見ている。
「戦役大陸でも最強といわれる貴方が指揮を執るなら否はありません。」
「スイストリア王都で伯爵を救出する為に百人斬りをやってのけたとか。それほどの剛の者なら文句はありません。」
周りからはいつしかジークの名を連呼されていた。
「ヒョードル将軍、俺はこっちの大陸に来て本当に良かったと思ってるよ。」
「がばばばばばばぁぁぁ! ワシもじゃぁぁぁ! 童ぁぁぁ!」
三日後、ロッツフォード騎士隊と義勇兵総勢百名がファーナリス軍に合流した。
「あんたらが来てくれるのは嬉しいけどよ、良いのか?」
「大家が困っとるんじゃ。店子のワシらが黙っとる訳にはいかんじゃろ。」
「そうじゃ、そうじゃ。居候のワシらにも戦の手伝いをさせてくれ。」
こう申し出てきたのは大地の妖精族<ドワーフ>のザマルガスとダルマグナである。彼らドワーフは一人一人が屈強な戦士でもある。総勢三十名が参戦してくれるとなればこれほど心強い事はい。
だが、ジークは万が一の事を考えていた。誰か一人でも死ねばロッツフォードの産業に影響が出る。なにより誰も死なせたくないという思いがあった。
(将軍は背負えるだけ強くなったと言うが本当にそうなのか? こんなにも不安に駆られるのは弱くなったからじゃないのか?)
そん風に考えているとさらに声をかけられた。
「ジーク、ファーナリス本陣で将軍達が待っている。作戦の内容を教えて欲しいとのことだよ。」
「! エドワード! 何故ここに居る!?」
「僕だけじゃないよ。騎士隊も、そこに所属するエヴァンもいるよ。それになによりスィーリアもね。」
「! スィーリアも!? 何を考えてるんだ!?」
この声を合図にスィーリアを筆頭にフェルアノ、エリーゼ、クローゼたちジーク付きの銀の乙女となった者達が、さらにアクアーリィを先頭にファニスやカティア、テレスやアトリア、メイスティークなどジークの眷属となった乙女達が現れた。
スィーリアが口を開く。
「事はロッツフォードの存亡にまで係わることです。今動かずしていつ動けましょう。私達は夫であるジークとともに戦場に赴きとう存知ます。」
こう言い終ると片膝を全員がつく。
「参戦をお許しください。」
ここまでされてジークも覚悟を決めた。
「この戦、全員生きてロッツフォードに帰る事で勝利とする。皆抜かるなよ!」
「「「「「はい!」」」」」
後に六神妃と二十四姫臣と呼ばれる者達の初陣である。
ファーナリス軍はジルベルク軍と対峙した。
ファーナリス千五百に対しジルベルク三千。
おおよそ倍の兵力差だが戦の火蓋は切って落とされた。
ヒョードル将軍率いる千名が突撃をかけ帝国軍の先頭を潰しにかかった。
帝国はファーナリスの総指揮官であるヒョードル将軍を討とうと躍起になった。
この為に帝国軍は気づいく事が出来なかった。
ファーナリス軍を国境近くまで後退させて勝利していると勘違いしていることに。
ヒョードル将軍という餌により自分達が前に気を取られているということに。
兵站が伸びきっているということに。
ジークがこれを狙っていたということに。
「ジーク様のご命令だ! 焼け! 一つも残さず焼き尽くせ!」
ジークの指示を受けていた傭兵部隊は帝国領に近いマテリア平原に現れ補給基地を次々と焼き討ちしていった。
ファーナリス本陣は徐々に国境近くまで後退している。
このため帝国軍は前線を押し上げることなり兵站は伸びきっていた。
ましてやここはマテリア平原である。
スイストリアとは同盟を結んでいる為横槍を入れる国は存在しない。
このため帝国軍は兵を前線に集中させていた。
補給基地には最小限の兵しか配備されていなかった。
ジークはこれを見事に読みきったのだ。
これによりジルベルク帝国軍は広大なマテリア平原に兵站を潰されて孤立する事になる。
今ここに元スイストリアの諸侯軍とロッツフォードの騎士隊と戦役大陸渡りの義勇兵を含めたファーナリス法王国軍の反撃が始まった。




