襲撃
瞬間移動<テレポート>の魔法の行き先はスィーリアのお気に入りの丘である。そこから村の異常が見て取れた。
何者かの襲撃を受けているのだ。
「クソ共が! ここに手を出すんじゃねぇ!!」
ジークは村を襲撃している骸骨<スケルトン>どもに襲い掛かった。
手練のジークの一撃である。粉砕するはずのその一撃が受け止められた。
(なに!?)
さらには切り返してくる。
(こいつらただの骸骨<スケルトン>じゃねえ! 竜牙兵<スケルトンウォーリアー>だ!)
竜牙兵<スケルトンウォーリアー>はゴーレムの一種で竜の牙に魔術的な処理を施してできる怪物なのだ。戦士としてかなりの腕前である。
よく見れば全ての骸骨が完全武装している。
(まさか村を襲っている全部が竜牙兵<スケルトンウォーリアー>なのか!? 冗談だろ!?)
ジークの内心に焦りが生じた。
「どうやら今回の襲撃はハッタリが含まれているようですね・・・。」
怪物どもの襲撃を受けて騎士隊の一員であるエヴァンとともにエドワードも前線に出てきていた。
最初は竜牙兵<スケルトンウォーリアー>の存在を疑ったがどうもおかしい。
案の定、ただの骸骨<スケルトン>に武装させていることが分かった。
ジークが突入した場所はたまたま竜牙兵<スケルトンウォーリアー>が集団でいただけなのだ。不幸としか言いようが無い。
騎士隊や自警団の練度は十分にあがっている。武装していようともただの骸骨<スケルトン>には後れなぞ取らない。だが、安心できる要素と言えない。問題は本物の竜牙兵<スケルトンウォーリアー>が出てきた場合だ。気をしき締めなおした。
クローディアは蒼薔薇の面々と骸骨<スケルトン>を倒していた。手応えのなさを感じていた。高揚感など生じない。むしろドンドン不安になってくる。
「ヴィッシュ! ここは任せてもいいか!?」
「どうした急に!?」
「・・・嫌な予感がするんだ! スィーリア様の元に行きたい!」
「・・・わかった! ここは引き受ける! 急げ!」
クローディアはスィーリアの元へ向かった。
だがこのときすでに遅すぎた。
「最後ぉぉ!!」
ジークのこの言葉が証左するように最後の竜牙兵<スケルトンウォーリアー>を倒した。
(急げ! 急げ! 急げ!)
伯爵宅へ疾風の如く走った。
スィーリアはこの襲撃が自分を前線におびき出す為の罠だと思っていた。心苦しいが自宅で待機するしかない。
人が足りない為、父であるソルバテス=ロッツフォードも前線に出ている。
そう、スィーリアは今一人なのだ。
これは完全な失策といえた。
その証拠に伯爵宅に一人の男が侵入していた。
「・・・視つけた。」
嫌な予感がした。戦場で危険になると感じる警鐘だ。
スィーリアの身が危ない。
夜になると村に灯る明かりを宝物だと言って笑顔を浮かべる少女。
自分が劣情の、否、愛情の対象にしている少女。
守ると約束した少女。
「スィーリア!!」
伯爵宅に突入した時には手遅れだった。
「ジーク!」
手を伸ばした。だが届かない。
目の前で瞬間移動の魔法<テレポート>で魔術師らしき男と共に消えうせたのだ。
後れてやってきたクローディアが呆然とするジークに声をかける。
「ジーク様! スィーリア様は!!」
「すまん・・・! やられた!」
スィーリアがいるはずの部屋には誰もいなかった。
その後気持ちを切り替えて村を襲う怪物どもを駆逐していった。
「つまり今回の一件は行商人が来たときから仕込まれていたと?」
怪物どもの駆逐を完了した後、伯爵宅に主だった面々が集まってジークの話を聞いていた。幸い死者は出ていない。だが、スィーリアが攫われた。
「こっちが村に結界を張るのが分かっていたんだ。外から怪物どもを侵入させるのは不可能と判断したはずだ。だから村の中で怪物どもを召喚した。あれだけの数をどうな方法を使って召喚したのかはわからねぇがな。とにかく召喚は行われた。普通であればそのまま暴れさせて混乱が生じるようにするがここで一手間加えた。村の外周に向かわせたんだ。行商時に色々な情報を村人達から引出ここが人手不足なのを知っていた。こうすることによって対応する騎士隊や自警団、蒼薔薇の面々が自ずと外周部に集まり村の中央部が空になる。行商をすることによってよく知っている場所に瞬間移動<テレポート>の魔法で飛んでくる。そしてスィーリアをおびき出す罠と思わせて伯爵宅に待機させているところをまんまとせしめる。そしてなにより俺は見事に踊らさせられた。邪神復活の儀式の場所を二つ、もしくはもっと複数用意していたんだろう。その儀式を妨害する為に祭壇の破壊に夢中になるように仕向けられたというわけだ。」
誰も口を開かない。事の重大さが分かっているからだ。
そんな中、ジークが口を開く。
「ジュリシス、神から啓示があったか?」
「え? いえ、ありませんけど・・・。」
「よし! ならまだ俺たちの手でどうにかできるということだ。」
この言葉に伯爵が反応する。
「でも、どうやって? 何処の誰とも分からない人物が魔法を使って連れ去ったんだよ? 追跡なんか出来ようも無いんだよ・・・?」
これに対しジークはニッと笑う。
「一応保険はかけておいたのさ。スィーリアに邪神に抗う力を込めたお守りを渡しているんだが、このお守りはそれだけじゃなく、持ち主の居場所を俺に教えてくれるのさ。」
「「「「「!!!」」」」」
「場所は北部未開拓地の未踏破箇所。俺はこれから完全武装でそこに向かう。時間がおしいんで俺一人で向かう。」
そう言ってジークは部屋を辞そうとする。
「今からかい? もう夜だよ?」
「本当に一人で向かうのですか? 邪神神託を撤回するには邪神と戦わねばなりませんよ? どうやって?」
伯爵やエドワードのこの言葉に苛立たしげにジークは言葉を返す。
「時間がおしいって言ってるのに説明を求めるのかよ。俺は邪神討伐の為に魔法王国時代に強力な耐魔製法によって作られた魔剣や鎧とかの武具を幾つも持ってるんだよ。それに今では途絶えたといわれる邪神を狩る狩人の御技も受け継いでいる。夜だろうがなんだろうが関係ねぇ! ・・・もう行くぜ。」
ジークを止めるものは誰もいなかった。
ジークは自宅で装備を整えていた。まずジークは体に特殊な化粧を施した。魔に抗う力を極限まで高める為に、そして自分の力を一定時間だけ全開にする為に。防具は真の銀<ミスリル>を繊維状にして加工した布製の鎧<クロースアーマー>を着込む。これは魔法の効果により攻撃時に稀に生ずる強力な一撃や致命的な一撃を発生しにくくしたり魔法の障壁によって敵の攻撃によるダメージを減らす効果がある。その上に邪神に抗う為の太古の強力な耐魔製法によって作られた真の銀<ミスリル>製の鎧を身にまとう。こちらも同様の効果があるが、追加すべきは非常に軽量で革鎧と大差が無いこと、そして静穏の魔法が込められているため斥候職としての作業を阻害しないということだ。身に着ける武器も今までと違う。
漆黒の大剣なのだ。魔法文字<ルーン>もびっしりと刻まれている。これはジークの盟友にして現在まで魔法王国時代より生き続ける世界最高峰の賢者にして大魔導師が剣の一族と呼ばれる者達と作った作った一期一振の最上大業物なのだ。これには「呪い」も込められておりジークしか扱えない。他にも剣の一族の始祖が使ったといわれる一対の小剣<ショートソード>や魔道銃<スタッフガン>等を身に着けていく。
「邪神復活ねぇ。こんなクソ戯けたまねをされて黙ってるほどこちとらお人よしじゃねぇんだ。こうなりゃこっちもなりふりなんざ構わねぇ。目には目を、歯に歯を、この世在らざる存在にはこの世在らざる力で抗ってやる!」
(待ってろ! スィーリア!)




