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税金

移民者達を無事ロッツフォード領内に届ける務めを完了した。

ジークは王都での出来事、移民者達の今後を相談するため伯爵宅へ歩みを向けた。



「僕、王都でそんな穀潰しみたいに言われてるの!?」

ソルバテス=ロッツフォードはあまりの扱いに悲鳴を上げた。

「事実と違うことが言われている。ジルベルク帝国の陰謀を阻止したのが地方へ飛ばしたはずの伯爵なのが面白くねえんじゃねえか? だから、銅貨一枚も出していねえのに王家が開発費を全額負担している見たいに宣伝して、堂々と色々なとこを削ってるんだろ。それで他の貴族が伯爵を毛嫌いして孤立させよという寸法なんだろうよ。考えが浅ぇというか足りねえというか・・・。」

「帝国の陰謀つぶしたのはジーク君だよ!? 例えそれを差し引いたとしても殆どの人はその話信じちゃってるんじゃないか!? 僕の領内の産業はこれからなんだよ!? 人手が集まらないんじゃ絶望的だよ・・・。」

そう言って机に突っ伏す。これにジークは違和感を覚えた。いつもならもう少し若々しさがあるのに、どうしても老け込んだように見えるのだ。失礼を承知で問う事にした。

「なぁ、伯爵。俺達がいない間に何かあったのか? 老け込んだように見えるんだがよ。」

この言葉に机に突っ伏している伯爵のかたがピクリと震える。

あぁ、何かあったんだとジークは嫌な予感を覚えた。



ジークは今、床に尻餅を突いている。冗談ではなく足腰に力が入らないのだ。

「ジーク君そいつを見てどう思う?」

「・・・・・・すごくでかいです・・・。」

「そうだろう、僕もそう思う。」

ハハハと乾いた笑いを伯爵は上げる。

人間どうやら理解の範疇を超える出来事が起こると笑うようである。

「笑いごっちゃねえよ! 伯爵! 何だよこれは! 何処の大都市に向けて発せられた納税命令書だよ! 少なくともロッツフォードの内情を鑑みない内容だぞ!」

そう納税命令書である。ロッツフォードに課せられた命令書には小規模な都市が傾くほどの金額が記載されていた。宛先も間違っていない。ソルバテス=ロッツフォード宛だ。

「バッカじゃねえの! バッカじゃねえの! これ作った奴、バッカじゃねえの!」

ジークはこの命令書の意味を見抜いていた。

実はスイストリア王国はロッツフォードが各種産業の取っ掛かりを掴んでいる事を把握しているのだ。そのため無理な金額を記載して産業を物納させようという魂胆なのだ。

ジークが見抜いているのだから、伯爵も見抜いてるはずである。

「・・・なぁ、伯爵。このこと誰かに相談したか?」

「家の産業はジーク君のおかげで開けたんだよ? そのジーク君を差し置いて誰と相談できるのさ・・・。」

はぁ、とため息をつくジーク。そしてそれを見つめる伯爵。

「・・・取り合えず物納するのは無しな。金のなる木をみすみす他人に譲ってやる義理はねえ。」

「それじゃあ、どうやって納めるのさ?」

この言葉を聞いてジークは獰猛な笑みを浮かべる。

「なあに。お望みどおり金で納めてやるさ。伯爵が依頼人となって遺跡調査の依頼を出す。そこから金貨を山ほど持ってきてやるよ。」

力技でどうにかする気満々であった。



「と、いうわけでがっつり遺跡調査に取り組みたいと思います。」

旅人の安らぎ亭に蒼薔薇の面々とスィーリアとクローディアが集まっていた。

なお、納税の方法について決定した後、話し合いは移民達の件となりジークの館に当面間借りすることになった。当のジークは掘っ建て小屋で研究三昧である。

「貴族ってえげつない事するね。」

「狡すっからい小悪党みたいだね。」

リンやサンドラも憤慨していた。

「私達は何で呼ばれたんだ?」

スィーリアが質問をはさむ。

「スィーリアには伯爵家の依頼人として同行してもらう。これによって財宝発見時に所有権を振りかざせるからな。クローディアには従士として護衛をお願いしたい。」

「でも、そうそう都合よく遺跡って見つかるかしら。」

「そこは先生が考えてくださると思うわ。」

ジュリシスとミーナの言葉をジークは待ってましたとばかりに受け止めた。

「お前らの為に手付かずの遺跡を取っておいたのさ。後はお前さんらが受けるかどうかしだいだが?」

「ここまでお膳立てされたのなら受けるしかあるまい。よろしく頼む、ジーク。」

ヴィッシュのこの言葉により総勢八名による遠征が決まったのである。



「よくこんな所見つけたね」

リンは感嘆とも呆れともとれる言葉を吐いた。

事実崖の横穴に遺跡を見つけることなど出来ない。

崖など普通は覗いたりなどしないのだから。

そんなリンを差し置いてジークはさっさと突入準備を始める。

「このロープつたって行くぞ。命綱忘れんなよ。」



「どうやってこの遺跡を見つけたんですか?」

全員が入り口と思われる通路に揃った時、ジュリシスが尋ねてきた。

「実は俺はもともと別な遺跡を探索していたんだよ。どうも奴隷売買の市場だったらしくてな。闘技場やら宿舎やら色々見つけたんだが奴隷の受け渡しをする場所がねえ。そこで遺跡をくまなく探し回ったら一本の通路から光が漏れていてな、そこがこの崖の底だったわけさ。地殻変動で大地がせりあがり崖になったんだろ。となると通路は対岸の崖にあると辺りをつけて見上げたら案の定ありやがるの。」

「なるほど、崖を覗きこんだんじゃなくって、崖底から見上げたというわけか。」

「そうするとこちら側に・・・。」

「奴隷の受け渡し場所が・・・。」

「金があるということか・・・。」

ゴクリ

全員が唾を飲み込んだ。



通路はすぐに終わった。広場に出たのだ。舞台があるところを見るとここに奴隷を並べていたのだろう。

「お前ら少し下がっていろ。」

ジークのこの言葉に緊張が走る。

「突然変異種の怪物<ミュータントモンスター>だ! 注意しろ!」

人の体から四本の腕が生えた異様な怪物が現れた。



「カアアアアア!!!」

気色の悪い声を上げながら蒼薔薇の面々に踊りかかってきた。彼女達はこの数ヶ月でかなり腕を上げたがこの化け物の相手をするにはまだ早すぎたようだ。ジークが手伝いながら魔法は使わずにこの怪物を倒し無事切り抜けることが出来た。



その後は無難に幾つかの罠を乗り越え、骨の従者<スケルトンサーヴァント>や石の従者<ストーンサーヴァント>を倒してある一室の前にたどり着いた。

「ここで最後よね。」

スィーリアの言うとおり、ここが最後の未探索箇所だ。遺跡の規模から見てここは部屋であることは間違いない。他の部屋では古代魔法王国時代の工芸品や美術品などが見つかった。金額にすればかなりの額になるが即金性に優れていないため、今回は蒼薔薇の報酬に回されるだろう。

そうして扉の罠を解除して開いた先にはお望みの財宝があった。



「この箱の中全部金貨だよ!」

「こっちも!」

「こちらの宝石はどれもこれも粒ぞろいですね」

部屋の中にあった財宝は税金を納めても余りあるぐらいの量だった。

「よっしゃあ! もう箱ごと袋ごとこいつに入れちまおうぜ。」

そう言って魔法の収納袋を取り出す。スィーリアやクローディアも蒼薔薇の面々と一緒に汗だくになって運ぶのだった。



数日後ジークたちは村に凱旋してきた。



「惜しいのはこれが戦費として消えることだよね。」

伯爵宅で財宝のお披露目会となった。

金銀財宝の山である。半分は税金として消えるがそれでも有り余る財である。

ただ、伯爵の言うとおり、この納税は戦費となって消えるだろう。

残りの半分は探索した面々で分けることになった。ただ、スィーリアとクローディアが辞退したのでその分は村に寄贈という形をとった。

「皆一気に金持ちになったね・・・。」

伯爵が感慨深げに感想を述べる。

「王都に行って再出発すると言う手もあるぞ?」

ジークのこの言葉に蒼薔薇の面々は首を横に振った。

「私達はここでまだまだ学びたいのさ。だからよろしく頼むよジーク。」

ヴィッシュは微笑みながら村に残ることを告げた。



「何か気になることでもあるのか?」

いつものように村を見下ろせる丘にジークとスィーリアはいた。時は夕刻である。

「この村はまたジークのおかげで救われたんだなあと思っていたんだ。」

「・・・・・・。」

「そしてもし、もし、ジークがここを出て行くと言っていなくなったらこの村はどうなるんだろうと怖くなったんだ。」

「さっきの蒼薔薇の話に触発されたのか? 俺が再出発することを考えたと?」

この言葉にスィーリアはうなずく。

はぁ、というため息と共にジークは呆れた。

ちゃんと言葉にしてやることにした。

「出ていかねえよ。俺はここで再出発する事にしてるんだから。だから出ていかねえよ。何よりまだお前を救っていねえじゃねえか。」

この言葉に最初ポカンとしていたが意味が徐々に分かってきたのだろう。とびっきりの笑みを浮かべて御礼を言った。

「ジーク! ありがとう!」

嬉しさのあまりジークに抱きついた。

それを引き剥がさずにされるがままになっているジークがいた。


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