《武具分解》と《武具融合》
祈るような気持ちでスキルスクロールを広げ、魔力を注ぐ。羊皮紙から放たれた光が、俺の体を包み込んだ。
『――スキル《武具分解》を習得しました』
『――スキル《武具融合》を習得しました』
「……は? 2つもあるのか……?」
脳内に響いた声が告げたのは、聞いたこともないスキル名だった。
恐らく戦闘用ではない。かといって、生産スキルとも少し違うようだ。俺はすぐさま冒険者カードを取り出し、詳細を確認した。
■スキル
武具分解:武具を素材レベルまで分解し、その武具に込められた特性を抽出することができる。
武具融合:分解によって抽出した特性を、別の武具に付与することができる。ベースとなる武具と特性には相性がある。
「なんだこれ……鍛冶師向けのスキルじゃないか……」
俺は聖騎士だ。鍛冶師ではない。
がっかりして俺はベッドに倒れ込んだ。50万Gをドブに捨てたも同然だった。
パーティを追放され、なけなしの金で手に入れたスキルは、戦闘では何の役にも立たないものだった。
「……もう、終わりか」
冒険者を続ける気力も、資金も尽きかけていた。
◇
俺は眠れずに、手に入れたスキルについてぼんやりと考えていた。
「武具分解……武具融合……」
どうせもう後がないんだ。このスキルが一体どんなものなのか、確かめてみるだけ無駄ではないだろう。
俺は持ち物袋から、ゴブリン討伐で手に入れたまま放置していた、錆びついた剣を取り出した。
どうせ売っても二束三文のガラクタだ。
「《武具分解》」
スキルを発動させると、手の中の剣が淡い光を放ち始めた。
やがて光は収束し、剣があった場所には、こぶし大の鉄の塊と、小さな光の玉が残されていた。
「これが……分解か」
鉄の塊は、ただの素材のようだ。
俺は光の玉に意識を集中する。すると、文字が浮かび上がってきた。
『特性:斬撃力(劣化)』
「なるほど。武具は『素材』と『特性』に変換されるってわけか」
次に、同じく持ち物袋の肥やしになっていた、傷だらけの木の小盾を取り出し、同じように《武具分解》を試す。
すると今度は粗悪な木材と、別の光の玉が現れた。
『特性:物理耐性(微)』
「ほう……武具によって抽出できる特性は違う、と。そして、元の質が悪いと、特性も『劣化』とか『微』とか、ランクが低いものになるわけか」
少しだけ、このスキルの仕組みが分かってきた。次は《武具融合》だ。
俺は自分の愛用しているロングソードを鞘から抜き、先ほど抽出した『斬撃力(劣化)』の光の玉を近づけて、スキルを発動させた。
「《武具融合》」
光の玉がすっと剣身に吸い込まれていく。剣がかすかに輝いたが、見た目に大きな変化はない。
試しに指で刃をなぞってみるが、切れ味が増したかは正直よく分からなかった。
「まあ、『劣化』じゃこんなものか……」
次に、俺はロングソードに『物理耐性(微)』を融合させようと試みた。
「《武具融合》」
しかし、今度はスキルが発動しない。光の玉は剣に弾かれ、その場に留まっている。
「……………………」
何も変化がない。
どういうことだ?
なぜ何も起こらないんだ……?
「いやまさか……相性か!」
『物理耐性(微)』は盾から抽出した特性だ。
つまり盾から抽出した特性は、武器との相性が悪いのだろう。
「相性……。なるほどな。剣に防御の特性は付けられない、ということか」
では、これならどうだ。
俺は壁に立てかけてあった長年使っていた盾を手に取り、『物理耐性(微)』の光の玉をかざし、再びスキルを発動する。
「《武具融合》!」
今度は成功した。光の玉は、まるで水が染み込むように盾の表面に吸い込まれていった。
盾が、先ほどの剣とは比べ物にならないほどの強い光を放ち、表面に刻まれた紋様が一瞬だけ輝きを増したように見えた。
「おお……!」
俺は急いで盾の情報を鑑定する。すると、確かに『物理耐性(微)』の項目が、追加されていた。
「すごい……本当に強化できたぞ……!」
一つの仮説が頭に浮かんだ。
もし、同じ特性を、何個も何個も重ねて融合させたら?
ガラクタから抽出した『微』や『劣化』の特性でも、数を集めれば、とんでもない効果を生み出すのではないか?
俺の心に絶望の闇を振り払うような、小さな希望の火が灯った。
「……試してみる価値は、ある」
このスキルは、一攫千金をもたらすような派手なものではないかもしれない。だが、地道にコツコツと続ければ……あるいは。
よし。明日は武器屋に行ってみよう。
目的はただ一つ。分解するための、安物のガラクタ武具を買い漁ることだ。
俺の地道で果てしない検証作業が……始まった。




