Battle.01 「比喩に比喩を重ねればいいんじゃないの?」
果たして。
「イージス……! 今日こそオレのっ、熱くたぎる情熱のソードを受けてもらうぜ!」
王宮勤めの文官に割り当てられた寮の、イージスの部屋に。
騒々しい足音と共に現れたブレイドが、豪快に扉を開けて乗り込んできた。
「なんなんだよその奇怪な物言いは……。そもそも足音がうるさい。扉も静かに開けろ。何もかも却下だ。やり直し」
「うっ、うるさいな……! お前が『直接的な言葉で伝えるな』って言うから、オレなりに気ぃ使ってやったんだぜ? 足音と扉は…………まぁ、悪かった」
イージスの冷たい目線に耐えきれず、ブレイドは決まり悪そうに後ろ頭を掻きながら、ふいと顔を背けた。
ほんのりと赤く染まった首筋が、彼自身も『さすがにあれはない』と、先ほどのセリフを恥じているようだった。
「なるほど……。ブレイドなりに努力した末の失態、ってことかぁ……。情緒のカケラもない、頭の悪いセリフだったけど、そういうことなら仕方ないね」
「んんっ? 受け入れてくれるってこと?」
ため息混じりに告げるイージスに、なぜか瞳を輝かせたブレイドが詰め寄り、鼻先を触れ合わさんばかりに顔を寄せる。
じっとりと睨みつけながら、イージスはすり足で後退を始めた。
「……一応聞くけど、なにを?」
そっと分厚い帳簿を手に取り、警戒しながらイージスが問う。
浮かれたブレイドは、また一歩近寄りながら、馬鹿正直におのれの煩悩が導き出した珍回答を声高に叫んだ。
「だからっ…………えぇと、ナニをだよ!」
――ゴス!
「いってえ!? 本の角はダメだろ! 本の角はっ……」
愚かな脳筋の脳天に、細腕の文官が鉄槌を下すと、隣室まで響き渡るような悲鳴が上がった。
「……ごめん、つい。頭が壊れてるみたいだったから、叩けば直るかなって……。余計にお粗末になるだけだったねぇ」
しなやかな指先で、ぶつけた帳簿の角を労るように撫でさすりながら、イージスは中性的なその美貌を和らげて微笑みかけた。
慈愛に満ちたかんばせと、紡ぎだされる鋭利な言の刃とのギャップが、いっそ清々しい。
「今日だいぶ毒舌だな!? なんで? オレなんかした? それとも女の子の日なの……?」
嫌味を言えるほどの知性がない男が、『性別問わず言ってはいけない禁句』に該当するであろう地雷を的確に踏み抜いていく。
ひくりと口端を引き攣らせたイージスは、帳簿を丁寧に机に戻すとブレイドに向き直り、大きな図体にはあまり調和していないフリルタイを掴み上げた。
「っ…………キミのその、デリカシーのないところ、すっごく嫌い! バカなの!? 男なんだから女の子の日なんてあるわけないよねえ!?」
"掴み上げる"というよりは、下方向に引っ張っていると言い換えたほうが良いのかもしれないが、さほど変わりはないだろう。
とにかく力任せにタイを引いて叫んだ。
「いや……だってよぉ。そんなに可愛いツラしてんのに、ほんとにち…………えっと、いざとなったら奮い立つ男だけに与えられた聖剣が付いてんのかな、って」
かすかに揺さぶられながら、踏みとどまったほうが危険度が増したような気さえするたわ事をはくブレイド。
「ねえ……。くびりコロしてしまいたいほどに腹立たしいんだけど、そんなことよりもさっきからその語彙はなんなの……?」
これにはさすがのイージスも、純粋な怒りをはるか彼方に通り越して、悟りを開いたような虚無顔になるしかなかった。
「え……。だって、思い浮かぶのって、剣に関する言葉ばっかなんだもん……」
「もんじゃないっ……! そんなデカいナリして、可愛くなんかないんだからな……!?」
ツンデレのお手本のように顔を赤らめながら、無意識にタイから手を離したイージスが吠える。
きょとんと目を瞬かせたブレイドは、なんのてらいもなくさらりと告げた。
「あ? 可愛いのはお前じゃん……?」
「……っ…………ああっ! やだ! もうっ……そういうとこ、ほんとキライ……!」
「でも、オレは好きなんだよ。なあイージス? キライとか言わないで……?」
ツンがデレして困っているところに、意図せずに追い討ちをかけるブレイド。
縋るような瞳を向けられ、手首をやわく掴まれたイージスは。
振りほどけない程ではない拘束に大人しく捕らわれながら、熱のこもる顔を見られまいと、みずから厚い胸板に顔を埋めた。
「やめっ…………やめて! ぼ、僕には相応しいスロートなんかないのに……キミの真っ直ぐすぎる情熱に溶かされて、騎士の誇りを収めるスカバードになってしまいそうだ…………っ」
ドクドクと、どちらのものか分からない鼓動の音が、イージスの耳元で響く。
ブレイド以上にアレな感じの比喩を使いこなしてしまった自覚がないままに、イージスの思考はこのままふわふわと飛び立つ準備を始めていた。
「イージス……」
「ひっ……♡ な、なに……?」
至近距離から低音で名を呼ばれ、びくりと肩を震わせるイージス。
手首を解放してやったブレイドは、自分よりもずいぶんと華奢な身体をギュッと抱きしめて、満面の笑みを浮かべた。
「お前のたとえも、あんま変わんねえな?」
イージスの髪に埋もれるように顔を寄せながら、ブレイドが愛おしげにつぶやいた……が。
「…………っ、しね! 魔獣に頭かじられて、しねっ……!」
――ゴッ!
「ッ……!? ゔッ…………うそだろぉ……!? なん、で……」
鈍い音と共に、顎に頭突きを食らったブレイドは。
突き抜けるような激痛と、脳天を激しく揺さぶられた衝撃で、ふらふらとくずおれたのちに意識を失った。
色んな意味合いでの羞恥に打ち震えながら、イージスは息も絶え絶えに巨体を扉の外に引き摺り出して、休日だというのに執務室へと逃げ込んだのであった。
地の文は、本編外であるにも関わらず切実に訴えた。
諸事情により星(★彡)を集めなければならなくなった、と。
世界の存続のために、どうかお手持ちの星(★彡)を分けては頂けないものだろうか。
心優しき観測者は、ありがたいことに、地の文の願いを聞き入れ――
そっと│支援する《評価ボタン》というフォームに触れた。
実体を持たない"地の文"は、無い頭を下げるような気持ちで言葉を綴った。
これで世界の寿命がいくらか伸びました。
ご協力いただき感謝いたします。
だがしかし。
支援を願い出たものの、"投げ付けるために使用する"とは言い出せず、あるはずもない心を密かに痛ませていた。
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