11 スリースターズ結成
コートのその言葉を皮切りに、彼とマリーは語り始めた。
二人とも、今回の大会が団体戦になっていたことに気づかず、仲間を探していたということ。
マリーは冒険者として旅をするための資金を集めるため、コートは賞金を手に入れて貧民街の人々を元の生活に戻すため、というそれぞれ必死にならざるを得ない事情があったということ。
そして二人がディース神殿ですれ違ったことを思い出し、お互いがお互いを追いかけていたところにデュオが偶然現れたということ。
しかも所持していた本から攻撃魔法の使い手だと分かったので、仲間に誘うことにした、ということ。
「そうだったんですか……」
デュオは言いながら、なんたる偶然だろうと驚いていた。
自分も大会に出たくて、仲間が欲しくて、それができないとわかった矢先に2人と出会ったわけなのだから。
「どうよ、デュオ。俺らといっちょやってみる気ないか?」
陽気な顔をしてコートが聞いた。
彼の三白眼を見て、うわ悪人相だなーと最初デュオは思ったが、こうしてみるとこれはこれで愛想がある。デュオは、しばらく黙って考えてみたが、断る理由が見つからなかった。大会の準備でしばらく家に戻ってこないおじいちゃんには、自分が大会に出ることなんて報告できないけれど、きっと許してくれるだろう。武闘会といっても、それほど危険な目にあうようなものではないからだ。
「わかりました。僕も、チームに入れてください」
デュオが、決心したように言った。
聞いて、マリーとコートは顔を見合わせると、「「よしっ」」と声を重ねた。
だがマリーは、ちょっと待ってとデュオに尋ねた。
「頼んでおいてなんだけど、デュオはどうして私たちと大会に出場することにしたの?」
コートがそういえばそうだな、とつぶやく。デュオは答えた。
「僕は、おじいちゃんみたいな魔法使いになりたいんです。大会では、普段では見られないような危険な魔法が見られるそうですから、それを見て、少しでも自分の研究に役立てたいと思ってます」
コートは、黙ってジュースを飲んでいる。マリーはふんふんと耳を傾けていた。
「実は、ついさっきまで観戦用のチケットを持ってたんです。それをなくしちゃって。でも、大会の予選に参加できれば、魔法は見られるということを聞いて僕も参加したいなあと思っていたんです。」
お前それはおしいことしたなーとコートが苦笑いしながら言った。
マリーがやめなさいよとたしなめた。デュオは続ける。
「そう思ってた時でした。マリーさんとコートさんに出会ったんです。すごい偶然だと、はっきりいって驚きました。だから、その、僕も大会に参加するつもりは十分あったんです」
マリーは頷きながら、なるほどねとつぶやく。そしてデュオに言った。
「デュオ君の気持ちはわかったわ。でも、「さん」づけはやめてよ。あと、敬語も。あたしのことは気軽に、マリーって呼んで。あたし達はもう一蓮托生の仲なんだから」
コートは早ッ! とか思ったが、口には出さずに黙って聞いていた。
デュオは、わかりました……いや、わかった……と、恥ずかしそうに答える。
「あとね、参加したからには、優勝する!! そんくらいの気持ちでいましょうよ。そうじゃなきゃ、勝てる勝負も勝てなくなっちゃうわ」
それもそうですね、いや、そうだねとデュオは笑いながら言った。
そこで思い出したようにマリーがみんなに聞いた。
「ねね、チーム名どうしよっか!?」
黙々とジュースを飲んでいたコートであったが、それを待ってたんだと言った。
「何よ、なんかいい案があるの?」
「当然。お前らに出会う前から暖めておいたネームだぜ」
周囲がシーンとなった。
神妙な面持ちでコートが言った。
「貧民団」
ふざけんなとマリーが一蹴した。デュオも、そんな労働運動の旗頭みたいなネーミングだけはいやだと思った。
んだようとふてくされるコートを尻目に、マリーがじゃあさこんなのはどう!? と、目を輝かせながら言った。
「バラ団」
俺らは肉屋か、と青い顔をしたコートが的確につっこんだ。ばら肉じゃないわよ! 野に咲く薔薇のことよッ! アンタのよりはましじゃないとマリーは抗議したが、デュオにとってはどっちも同じに聞こえた。
ところが次には「ここは優秀な頭脳をもつ坊ちゃまに聞いてやろうじゃない」と意地の悪い視線を二人に向けられ、デュオは顔を引きつらせた。しかしそこは世界最高峰の学校で学ぶ学生である。
少し考えたあと、そうだ! と叫んで言った。
「スリースターズ」
神明語である。日常生活でも多々見かけることはあるが、それでも二人には説明が必要であろう。そうデュオが思っていると、案の定、二人はその意味を尋ねてきた。
「スリーは、3を表す神明文字なんだ。スターは、星を表す。ズをつけると、スターに複数の感覚が生まれることになるから……」
「3つの星……ってことかい?」
「そう。星は・・・まあ、僕達のことだよ」
デュオは照れながら言った。
二人はしばらくスリースターズ……スリースターズ……とうわ言のように繰り返していたが、やがて口元を嬉しそうに歪めて、
「いい! これがいいよ! スリースターズ!」
「ああ、かっこいい!! スリースターズ!」
デュオはえへへといいながら、頭をぽりぽりと掻いた。
「じゃあ、スリースターズで決まりだな!!」
コートが嬉しそうに言う。
「リーダーはどうするの?」
デュオが尋ねる。
「そりゃ、マリーだろ」
「なんでよ!」
「押しが強そう」
「……」
現に押しの強いマリーは、黙りこくった。
「でも、僕もマリーをリーダーに推薦したいな。リーダーって言うのはみんなをひっぱっていくものだから、マリーは適任だと思う」
デュオにそういわれたので、さすがのマリーもしょうがないわねといった表情を浮かべ、「わかったわよ……そのかわり、あたしをリーダーにしたからには、こき使ってやるからね~!」
言って、マリーは笑った。
つられてコートもデュオも、笑った。
やがて三人は席を立ち、ディース神殿へ向かうといい、マスターに別れを告げて店をあとにした。
「いいパーティが誕生しましたね」
店の中、マスターが微笑みながら、中年の男性に向かってつぶやいた。
「うーん、マスター。俺の勘がうずいてるよ。あいつら絶対優勝する」
彼がそういうとマスターは、親父さんの勘は当たったためしがないじゃないですかと笑いながら言った。
最後のコップを磨き終えると、マスターは静かに言った。
「……僕もチケット買おうかなあ」
☆ ☆ ☆
3人がディース神殿から出てきた頃には、既に陽は西に沈みかけていた。はるか遠くに見える山々が、その稜線をひときわ美しく輝かせている。
ディースは、今や黄金の街と化した。
「くはー! やっと家に帰れるぜ」
大きく背伸びをして、夕陽に染まった顔をしわくちゃにしながら声を上げたのは、コートだ。その後ろでは、マリーが受付官からもらった選手用パンフレットを睨んでいた。一番後ろを歩くのは、デュオだ。マリーに話しかける。
「どうしたの? そんなに怖い顔して」
「うーん、チーム戦っつってもさあ、三人がいっぺんに戦うってわけじゃないのよ。順番決めて戦うの。だから、今のうちにどの順番で戦うか、決めちゃわない?」
「あ、そりゃそーだな」
「どーしよっか」
「俺はどこでもいいぜ」
「あたしも」
デュオが尋ねた。
「ねえ、それって前の二人が勝っちゃったらどうなるの?」
「ええっとねえ…あ、その時点で試合は終了だって。時間の節約だとさ」
デュオは、もらったと思った。
「じゃあ僕は一番最後がいいな…あんまり戦いたくないし…」
デュオはちょっとだけ罪悪感を覚えたが、マリーは意外にも素直に承諾してくれた。
「いいわよ? じゃあデュオが大将、ね!」
コートが言う。
「んじゃあ俺一番最初」
オッケーとマリーは言った。
「じゃあこの順番ね。先鋒、コート。中堅、あたし。大将、デュオ。決定!」
「よし! んで?」
「は?」
「いや、このまま予選ってわけにはいかないだろ。事前ミーティングとか、力を試すためにその辺の洞窟に行ったりするとか」
「ああ、そうね。どうしよっか……」
デュオは、「力を試す」あたりでビクッと肩を震わせたが、二人は気づかない。
「ま、それは明日決めましょう」
マリーがそう言ったので、コートもデュオも頷いた。
とりあえず今日はおひらき、ということで話の決着がついた。




