8番
その後の1日間、生活はまるで特訓キャンプのようだった。
夜明け前にエリシアに叩き起こされ、
単語の暗記、ランニング、腕立て、腹筋。
それから剣術の基礎――剣の握り方、足運び、簡単な斬撃。
教え方は容赦なく、全身が筋肉痛になったけど、成長もはっきり分かる。
少なくとも今は、訓練用の木剣を振り回しても、反動で転ぶことはなくなった。
その間にも、月涙は何度か魔晶を吸収した。
エリシアが試したところ、
低級魔晶は三十分、
中級で二時間。
高級は……予算オーバー。
「吸収したエネルギーはどこに行くの?」と私が聞くと、
「分からない。宝玉は至高の遺物よ。無駄に吸うはずがない。投資だと思って、気長に待ちなさい」
訓練の合間に、近くの町にも足を運んだ。
エリシアから渡された金で日用品と情報を仕入れる。
黒鉄町の噂はなかなか刺激的だった。
太った商人は「横領と町長夫人との密通」で拘束。
グレゴリー子爵の刺客の死体が発見され、
本人は「盗賊に襲われた」と言い訳して、表舞台から姿を消したらしい。
……でも、分かってる。
彼はまだ、私を探している。
その次日の夜、二度目の意識会議が始まる予定だった。
早めに横になり、頭の中で段取りを組む。
『土方歳三』のキャラは崩せない。
冷静、果断、戦術眼あり。
できれば、他のメンバーの情報も引き出したい。
――この程度ができなきゃ、
人狼ゲーム優勝の名が泣く!
そう思った、その時。
胸が、強く震えた。
月涙の振動じゃない。
……呼ばれている。
柔らかな女性の声が、直接脳内に響く。
『5番……聞こえる?』
思わず目を開く。
エリシアは眠っている。部屋に他の気配はない。
『私は8番』
『距離が近い……宝玉を通して、あなたの位置が分かるの』
8番。
会議で喋らなかった人物。
『何の用?』
頭の中で返すと……通じた。
『同盟よ。私は帝国貴族。状況は……かなり危険。盟友が必要なの。あなたが一番近い』
『どうして私?』
『会議での偽装が見事だったから』
声に、微かな笑みが混じる。
『『土方歳三』。偽名でしょう?でも語調と選択が老練。隠すのと策を練るのが得意――それが必要なの』
……沈黙。
宝玉のエネルギーを使ってまで接触してきた。
少なくとも、私に価値を見ている。
それに、議会が8番を狙っていても不思議じゃない。
『代価として、帝国側の情報を提供する。それと……あなたのそばに、時間能力者がいるでしょう? 金髪の女傭兵』
心臓が跳ねた。
『安心して。敵意はない』
『むしろ、予言者の封印を解除する手助けができる――条件は、先に『厄介事』を片付けてくれること』
『厄介事って?』
『明日の深夜、黒鉄町東の廃教会。そこで待つ。
時間能力者を連れてきてもいい。でも二人まで。
もし第三者の気配を感じたら……』
声は薄れ、消えた。
私は起き上がり、背中に冷たい汗を感じる。
エリシアの正体、封印、位置情報――
情報収集能力が異常すぎる。
「どうした?」
私は8番の話をそのまま伝えた。
「罠の可能性は高い」
エリシアは即答する。
「でも……封印解除の情報は魅力的ね」
「行く?」
「行く。ただし準備する」
彼女は即座に策を立てた。
身代わりを雇う。
町には『影武者』の仕事がある。
金で特定の人物を演じ、囮になる役。
体格の近い女性を雇い、倍額を払って指定時刻・指定場所に立たせる。
「敵意があれば、まず彼女が狙われる。なければ、その後に出る」
合理的。
でも……胸騒ぎが消えない。
「それと」
エリシアは淡々と付け加える。
「影武者の身の上は、最初からそのためのものよ」
――優しさはない。
翌日深夜。
黒鉄町東、廃教会。
私とエリシアは向かいの建物二階から観察する。
影武者の少女が、月光の下で教会前に立っていた。
鐘が鳴る。
その瞬間、空間が歪んだ。
水面のように揺れ、
そこから――巨大な漆黒の鎌が現れる。
音もなく、一閃。
悲鳴すら上がらず、
少女は腰から断たれ、血が飛び散った。
私は口を押さえる。
エリシアの手が肩を掴む。
「空間魔法……しかも威力が高い。最低でもA級」
鎌は消え、空間は元に戻る。
だが死体は残った。
「撤退する」
……間に合わなかった。
影から一人の男が現れる。
灰色のローブ、フードの奥は見えない。
手には羅盤。針が狂ったように回り、こちらを指した。
「見つけたぞ」
掠れた声。
「時間逆行の裏切り者と……宝玉の持ち主」
――9人議会、予言者の使徒。




