全知全能とゴーレムと人と
ペリキさんと別れてから歩くと、直ぐに別の木人に出会った。丸太を肩に抱えた木人だ。最近は建物も増え始めているので、その一環だろうか。
「こんにちはー」
「お、こんにちゃ」
「こっちはディーです。僕が作ったゴーレムなんですが、意思があるので人のように扱って頂けたら嬉しいです」
「おうおう、了解だー」
丸太を肩に抱えた木人は、特に興味も無さげに通り過ぎて行った。そういう人も居るだろう。でも、嫌われたり拒絶されたりしなければそれで良い筈だ。寧ろ、赤の他人から興味を持たれないなんて普通な話だしね。
「おわっ、あんときの童子じゃねか!」
「あ、こんにちは。そうです、こっちはディーって言って……」
一人の木人が去ると同時に、別の木人が入れ替わるように入り込んで来た。筋肉質で大柄な肉体は、木人としては珍しい。あんまり話したことは無いけど、確かビルドアのところの戦士の一人だった筈だ。名前はグイルとかだったかな。
「おぉっ、今度は逃げんじゃねーぞぉ!」
「ッ、や、やめろ……」
「あはは、逃げたらダメだよディー」
掴み上げられて、子供のように天高く持ち上げられたディーは抵抗するように藻掻くが、グイルは笑いながら何度も持ち上げたり下ろしたりを繰り返す。
一応、ディーも見た目では僕と同じくらいの歳の筈なんだけど。やっぱり生まれたばっかりだからかな。
「っと、そっちの童子も遊びたそうだなぁ!?」
「えっ゛」
ガシッと脇腹の少し上辺りを掴まれて、ふわりと浮遊感を感じるとともに僕の体は中空に浮かんでいた。
「坊主にはサービスだ! よくわかりゃしねぇが、この里にとってありがてぇんだろ!?」
「待って待って待ってま――――ッ」
気付けば、僕は空を舞っていた。少し離れた場所の木造の建物が、その天井が僕の目線くらいにあるように見える。これ、五メートルくらいはトんでないかな……ッ!? ぐるり、最高到達点で体が仰向けになったかと思えば……
「いよ、っとな」
硬い地面の感触が伝わる、その少し前に僕の体は柔らかく受け止められていた。見れば、僕の体はグイルが空中で受け止めていた。そのまま着地し、グイルは僕の顔を覗き込んだ。
「ヒヒッ、楽しかっただろう!?」
「怖かったけど!?」
少し足が震えながらもグイルの腕の中から飛び降りた僕は、ちらりとディーの方を見た。
「ふん」
ディーはふんぞり返って僅かに笑みを浮かべ、満足気に僕を見下していた。
「逃げてはダメなのだろう? もう一回、行けばいい」
「じょ、冗談だって……」
ディーが投げられている間の僕の言葉は、しっかりと聞き届けられていたらしい。
「ま、いつでも俺が遊んでやるからな! 子供は遊んで育つもんだぞぉ!」
「あ、あはは……僕は大丈夫ですけど、ディーのことは良く見て頂けると助かります。僕は大丈夫ですけどね」
「……私は子供ではない。ただのゴーレムだ。遊ぶ必要も無いから、我が主の相手をしてやることを勧めておく」
「おうおう、安心しろ。どっちもまた遊んでやっからぁな!」
畜生……ビルドアに言いつけてやる。いや、ビルドアも脳筋タイプだからまた同じ目に遭いそうだ。うん、やめておこう。
「……奴らは、ゴーレムが何か分かっているのか?」
「まぁ、分かってるとは思うよ? この里には、すんごいゴーレム使いが居るから……僕の師匠なんだけどさ」
「そう、か……」
考え込むように俯いたディー。僕はその様子を見て微笑みながらも、次々に遭遇する木人に対して一人一人、ディーのことを紹介していく。そうして里を回っていると、遂に僕は一応の目標としていた場所に辿り着いた。
「さ、着いたよ。まぁ、前にも連れては来たと思うけどね」
「ッ!」
前回、ディーを連れて来たときはスイに話してラクリオのところに送り届けて終わりだったのだ。だから、ラクリオともまともに話を出来ていない。今日はラクリオともちゃんとディーのことについて話したいと思っていたのだ。
「私は、我は……ここは、嫌だ」
「え、どうしたの?」
「ここには、奴が居る……奴が」
「それって、ラクリオのことで合ってる。よね……?」
僕が尋ねると、ディーはこくりと頷いた。瞬間、工房からラクリオが飛び出して来て目を輝かせた。
「おぉっ、来たじゃねぇかぁ!」
「ッ!!」
「……なるほど」
そういうことか。僕は、事件のあらましを大体察することになった。ラクリオはディーをゴーレムだと割り切って、いつも通りに調べようとしたんだろう。これは、ちゃんと伝えられていなかった僕の完全なミスだ。
「ラクリオ」
「ん、なんだぁ? つーか、今日はしっかりと話を聞かせて貰うぞ? オラも、このゴーレムにはかなぁり興味を惹かれてるからなぁ」
「話はしてあげるよ。でも、ディーには優しくしてあげてね。それが最低条件だ」
「あぁ、優しく……ん? あぁ、優しく……?」
ラクリオは眉を顰め、ディーをじっと見た。
「確かに、傍から見れば意思がありそうには見えるが……構造的にはゴーレムである筈、だが……? あぁ、外には人間として伝えてるって訳か?」
「違うよ。ディーには、意志がある。いや、それも凄く曖昧で……正直、分からないんだけど」
もしかすると、今の段階ではラクリオの考えの方が正しいのかも知れない。泥の魔術に従って悪を裁こうとする目的意識を持つ、そして僕の記憶を元に人間らしさを持っている、それだけのゴーレムだ。今のところは、人らしく見えるだけのゴーレムなのかも知れない。
ただ、ユモンの言葉が真実ならば……ディーは生物として成立している。心の無い、空の器だと言っていた。だけど、生きていく中で得たもので、その器が満たされて心足り得てしまうのならば、僕は人として接するべきだと思っている。
「作った僕が人としても扱うことに決めたんだ。確かにディーはゴーレムでもあるけど、人でもある。そう思って接して欲しい。僕からの頼みだ」
「まぁ、そら……お前が言うなら、それに従うけどなぁ」
一流のゴーレム職人であるラクリオは、他の誰よりも物質的にディーのことを見れるのだろう。だから、それがゴーレム以外の何物でもないと、確信できてしまうのだ。
「……ま、信じなよ」
僕はにやりと笑い、ラクリオに語りかけた。
「これもまた、一つのゴーレムの可能性だから」
「ほぉ……言うようになったじゃねえかよ。治」
そうして僕らが話すのを、ディーの瞳がずっと映し出していた。




