全知全能とレイサス
そういう訳で、話を聞けた僕はそろそろ去らせて貰うことにした。今の僕は正体を隠している、というか何者でも無いつもりなので、この仮面の怪し気な姿のままで活動する気はそんなに無いのである。
「ふむ、そうか。礼として私の個人的な研究であれば少し見せてやっても良いかと思ったんだが」
「あはは、残念だけどまた今度にするよ。それに、今の状態で入国とか出来るのかも分からないしね」
「……確かに、如何にも怪しげな風体ではあるが、身分を証明するものも何も無いのか?」
「どころか、今はお金も持ってないね」
身分証も通行証も、何も無い。少なくとも、治としてここに居る訳じゃないから、今の僕が使うつもりは無い。さっきなんて名乗ったっけ……あ、そう。今の僕は強いて言うなら謎のゴーレム使い、オポッサムである。
「……まさか、とは思うがティッシア皇国に害を為す存在では無いだろうな?」
「だったら、貴方のことも助けないですよ」
肩を竦めて言った僕に、レイサスはふむと納得したように頷いた。
「それもそうだな。貴様の素性というのはとても気になるところだが……良いだろう。助けて貰った恩もある、問い詰めるようなことはしない」
「あはは、そうしてくれると助かるね」
何故なら、今の僕には素性もクソも無いからである。問い詰められたところで、この世界的にはいきなりここで発生した存在でしか無いのだ、僕は。
「……分かった。では、去ると良い。私はこの土竜について少し調査してから帰還することにする」
「うん、じゃあね」
僕は軽く手を振り、そしてレプリ達と共にその場を去った。さてと、後で距離を取ったら殆どを大地に還さないとね。
♦……side:レイサス
手を振ってから去って行ったその背は、ついぞ見えなくなった。それから、周囲にゴーレムの気配というのも無くなったのを確かめる。
「行ったか」
私はそう言ってから一息吐き、体から力を抜いた。アレは、明らかに異常な存在だった。異常であり、異質に見える。アレだけの技術を持つメイジにしては、若しくはアルケミストにしても雰囲気が軽過ぎるように見えた。
「……奇妙だな」
それが才にしろ、努力によるものにしろ、突出した技術を持つものというのはそれに見合った雰囲気というものを持つものである。つまり、実力者というものはある程度見れば分かるのだ。
だが、あの男には……若しくは、少年にはそれが無かった。綿のように軽い雰囲気と、それに見合わない怪物の如きゴーレム。しかし、聞けばあのゴーレムは自分で作ったものだと言う。
魔力に関しても、私とは比べ物にならない程に低いように思えた。勿論、私と並び立つようなメイジというものはそう多くない上に、魔力を隠蔽している可能性というのもある訳だが……戦闘においてゴーレムに任せ、魔術を使わなかったところを見るに少なくとも戦闘における魔術に自信が無いという可能性は高いだろうな。
「しかし、あのゴーレムは……」
異常だ。白杖の作ったゴーレムを見たこともあるが、あそこまで異常と呼べるモノでは無かったように思える。自己を複製するゴーレム、しかも制限無しに、際限も無く。そんなモノが許されて良いのか? いくら魔術においては自由の多いティッシア皇国であれど、あんな代物は禁忌に指定されてもおかしくはない。
「……だから、か?」
師の名前も、本人の名前も聞いたことが無い。その癖に、操るゴーレムというのは強力過ぎる程だ。もしかすれば、話していたラクリオという師も、あの男……オポッサム自身も、誰かから制限されることが無いようにどこかの国に所属すること無く流浪しているのだろうか。
だとすれば、説明は付く。あのどこか異様とも言えるような雰囲気も、俗世に染まらずに生きて来た故の世間知らずさ、若しくは純粋さの表れであると言えるだろう。本人が魔術を戦闘で使えず、ゴーレムに特化した知識を持っているのも偏った知識の中で生き抜いて来たからなのかも知れない。
「貴重だ」
あのメイジは、貴重だ。他には居ないような存在だろう。そして、他の誰も持たないような知識を持っている。代わりに、他の誰でも知っているようなことも知らなかったりするようだが。
「また、会わねばいけないな」
オポッサム、か。あの力が悪用されてしまえば大変なことになるだろう。今はどこにも寄っていない存在に見えたが、その力がどこかの悪党にでも見つかってしまえば、魔族に利用されてしまえば、人類は更に滅びへと近付いてしまうことになるだろう。
「……希望を」
早く、希望を見つけ出さなければいけない。これまでの人類の研究の集大成を作り上げ、希望を見出さなければいけない。でなければ、人類はこのまま魔族に滅ぼされてしまうだろう。
その為に、あのオポッサムという男は……必要になるかも知れない。無限の戦力を生み出すことが出来る、規格外の存在。それも、その知識を惜しげも無く話せるような男だ。
「呼び止めておくべきだったな」
そう、声に出しながらも心のどこかでそうは出来なかったであろうことを、私は察していた。




