全知全能とオオカミ
瑞樹さんとユモンの言葉に軽くショックを受けていた僕だったが、その間に紫苑ちゃんはカミオを確認し終えたみたいで、こちらの方を見た。
「これ、欲しいわっ!」
「えーっ!?」
声を上げた紫苑ちゃんに非難するような声を上げたのは光ちゃんだった。
「性能が特化してて良いわね。それに、さっきのゴーレムよりもこだわりがあるって言うのかしらね、やる気が感じられて良いわ」
「ドンも一応やる気が無い訳じゃないんだけどなぁ」
とは言え、性能がシンプルな分、細かいところまで最適化が及んだ面はあると思われる。ドンは、能力が派手で特殊だから、あんまり基礎的な部分にまでこだわるのが難しかった。
「素材にやる気が出てるわよ。カミオは沢山の素材を組み合わせて作られてるけど、ドンは殆ど同じ素材で作られてたじゃないの」
「いやぁ、ドンは重力負荷の面があるからさ、下手に材質を分けて界面が出来るとそこが脆くて耐え切れない可能性もあって……結局、魔術付与の面でも単一の素材で統一した方が効力も上がるし、安定性が上がるかなって話になったんだよね。ちょっと、時間が無かったから最適なやり方を見つけられなかったところもあるんだけどさ」
ドンは玄武岩を加工したもので殆ど統一されている。お陰で、ただの玄武岩よりは結構黒くなっている。
「とにかく、この件が片付いたらこの狼が欲しいわ。今は私も色んな事が出来るようになって、お金も稼ぎやすくなったから、言い値で買って上げるわよ!」
「いや、要らないよ。手伝ってくれた報酬ってことで普通にあげるから」
「そういう訳にもいかないでしょう」
「ていうか、ゴーレムコレクションだのなんだの言ってたし、てっきりこれが終わったら貰って行くもんだと思ってたけど……」
僕が言うと、紫苑ちゃんは眉を顰めた。
「私、そこまで図々しくないわ」
「ごめんって」
「元々、終わったら返すつもりだったわよ」
「いやぁ、それは困るかも」
その言葉に、紫苑ちゃんは首を傾げる。
「何でよ?」
「だって、僕ってごく普通の一般家庭に住んでるんだよ。ゴーレムなんて置き場が無いよ。山とかに置いとくって訳にもいかないしさ」
そんなことをすれば流石に、魔術管理局的な人たちに怒られかねない。若しくは、そこに放置してるのが僕だとバレなくても回収されてしまう恐れはあるだろう。
「だから、貰って行ってくれた方が嬉しいよ」
「治、いっつもどこでゴーレム作ってるのよ……」
「それは秘密だよ」
そして、本音を言うなら、折角だし誰かに使ってもらいたい。別に、裏世界だの亜空間だのに置いといても良いっちゃ良いんだけど、味気ないというか寂しいよね。
「まぁ、良いわ。仕方な……いって言う立場でも無いわよね。どういうスタンスで居れば良いのよ」
「ふんぞり返って受け取って貰えたら良いよ」
「……そこまで恩知らずじゃないわよ。すっごく、感謝してるわ」
「あは、それは良かった」
雑に笑った僕に、紫苑ちゃんはどこか呆れたような表情を向けた。
「貴方、自分が誰かに与えるのが当たり前みたいな精神性にならないように気を付けた方が良いわよ。きっと、何か秘密があるんでしょうけど」
「そんなつもりはない、けど……気を付けるよ」
「そうだよ。それに、誰彼構わず与えてっと変な奴に目ェ付けられっぞ? 人の善意につけ込んで、内臓まで食い散らかして去って行くクソみたいな野郎どもにな」
「うん、分かった」
確かに、この世の中は茜さんや紫苑ちゃんのような良い奴ばかりではない。そういう奴らに目を付けられないように気を付けないといけないが……僕だって、流石に仲良くする相手は選んでいる。
「それで、狼はどうだった?」
「分かりやすく話を逸らしたわね……ま、良いわ。さっき話した通り、欲しくなるくらいのゴーレムよ。軽量で強度を高く、素材は用途に分けて複合的に配置して、滑らかな表面で抵抗を限界まで無視して、刻まれた術式は軽量化と速度上昇、動体視力と情報処理。攻撃は爪に仕込んだ飛び出し式の極薄の刃で斬り裂きながら、内部の生体組織から生成した毒を流し込む……出来る限りの速度に、一撃で致命傷になり得る刃……極限まで設計思想を果たそうとしてるところが気に入ったわ」
想像の三倍くらいの情報量が飛び出してきたので僕は少し驚いたが、魔道具を触るみたいな話を聞いたことがあるので、そういうのが好きなんだろうね。
「そうだね、俊足で相手に近付いて斬り裂きながら猛毒を流し込む。その速度と動体視力で相手の攻撃は当たらない……結構、コンセプト通りに作れたとは思うよ」
爪から飛び出す刃は薄くて見づらいので、ただでさえ速度がある分、相手からすれば反応は不可能なレベルだろう。その刃もこだわりの三層構造になっていたり、高周波振動を搭載していたり、色んな仕掛けがある。ただ、圧倒的に硬い相手や、多少のダメージや毒では無意味な相手には何の力も無い……そういう特化型のゴーレムであった。




