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第7話

「んごおおおおおおおおおおやだもおおおおおおおお」

「えーと……よしよし」

 ベッドに座るパジャパ姿のマオに泣きつく。やっぱりこの膝だ。この世界にはここしか癒やしがない。殴られて前が見えなかったけどがんばって着替えた俺を慰めて。


「チッ。っせーな」

 諸悪の根源はまったく反省してねえし。やっぱこいつパーティーにいらねえわ。この世界観にヤマンバギャルとか異物でしかねえよ。


「たしかにこちらから追い出しておいて、この仕打ちはあんまりかと」

「わーったよ。罪滅ぼしでもすればいいんだろ」

 ギャルはガシガシ頭をかいて、さぞ面倒くさそうに言った。俺としてはさっさと慰謝料をもらって俺たちへの接近禁止命令を出したい。


「ほれ」

 ミツルはあのストラップをごってりしたスマホを差し出した。

「いらねえよ」

「そういうことじゃねえよ」

「圏外で役に立たないもん渡してどうすんだよ」

「たしかに通話やネットは無理だけど、さっき気づいた。まだ使える機能ある」

 ずっと見てると気持ち悪くなる模様のネイルが画面を操作する。するとひとつのアプリが起動した。


 [ステータスチェッカー]


 ああ、そういう……

「ジジイが多分仕込んだな」

「だろうよ」

 さすがに孫娘にはいくつか忖度したようだな。これがコネというやつか。


 このアプリを起動した状態で指紋センサーに指を置くとステータスが表示される仕組みらしい。そういえばこっち来てからチェックしてなかったな。割とお約束なのに。

 ここは、俺がとんでもないステータスになっていて、皆を驚かせるという展開。

『うわあ。すごいステータス』なんてマオが感動して尊敬の眼差しを向けて惚れるね。間違いない。


「レベル二〇に攻撃・防御・精神・命中・回避・幸運……アータ全部そこそこだな。アビリティもなにもなしか」

 …………まあ、こういうオチだとは予想していたさ。神様なんもくれなかったし。

 ちくしょう。


「アーシもレベル二〇だったけど、これデフォ? レベル1からスタートじゃないんだな」

「昼間のバトルの経験値だろ」

「いや、なんにもしてないじゃん」

「戦闘時に一緒にいれば経験値もらえるんだよ。強敵相手の場合、低レベルならそれで一気にレベルが上がる」

「なんかセコいな」

「もらえるもんもらって何が悪いんじゃ」

 しっかし気づかないうちにレベル上がってたわけか。道理でそこいらの村人とはいえボコれるわけだ。


「あの」

 マオが手を挙げる。おっと、二人で盛り上がってて悪いな。

「私もやってみてよろしいでしょうか。今までこういったもの見たことがないのでございます」

 どうぞどうぞ、と俺はスマホを提示する。

「ここの円のところに指を置くだけでいいから」

「こうでしょうか? あ、出ましたね」

 物珍しさゆえか、マオがキャッキャしている。それを微笑ましく感じていた俺の笑顔は、次の瞬間固まった。


「レベル八三でアーシらのステとは桁が2つか3つ違うな。アビリティもてんこ盛り」

 うわあ。すごいステータス。

「え? 私の能力、低すぎましたか?」

 うん、そのセリフ俺が言いたかったんだけどね。いや実際低いから言えるんだけどもね。


「職業はアークメイジ……ね。いかにもってカンジ」

「昔、高名な鑑定士が訪れたことがございまして」

「アーシらもそのカンテーシ呼んだ方がよくない?」

「ピザ屋の配達じゃないんだぞ。その手のはよっぽどのコネかツテがないと無理だ。無難に施設を目指した方がいい」

「だりぃな」

 ちなみにその手の個人的依頼はべらぼうに金は取られるし、一定の技能がないとなんの意味もないサムライ商法と紙一重であることは、二人に言っても詮無いので黙っておこう。マオの場合はきっちりステータスに表示されてるから折り紙付きだな。


「もういっそ無職でもいい気がしてきた」

「いろいろメリットあるんだぞ。たとえば基礎ステータスが底上げされたり、覚えられるアビリティの種類が増えたり、アビリティが覚えやすくなったり。なりたいものが特になくても箔をつける意味で職業は設定したほうがいい」

「はいはい」

 面倒臭そうに手を振って、ミツルは自分のベッドに横になった。

「スマホ、使い終わったら枕元にでも置いといて」

 それだけ言って布団を被ってしまった。


「さて……」

 俺は改めて自分のステータスを表示させる。取り立てて何もない。それはどうしようもない事実である。問題はここからどう肉付けするかだ。


「魔法、覚えてみませんか」

 うんうん唸っていた俺を不憫に感じたのか、目の前の大魔道士がそんな申し出をしてくれた。

「マジシャンですらないけどいけそう?」

「最低限の魔力があれば大丈夫ですよ」

「杖もないけど」

「杖はあくまで補助ですから。杖固有の魔法を発動させる場合でもなければ、威力や精度が落ちるだけです」

 素手の無職でも使えないわけじゃないってことか。


「じゃあ頼もうかな」

「はい!」

 マオは嬉しそうにうなずいた。渡りに船とはこのことだ。まともな装備も技能すらないところに、戦闘手段を授けてくれる専門家がいるわけだからな。


「では、まず魔法の基礎から」

 人差し指をたてて、彼女は得意げに語る。人に物を教えるのが好きなのか、もっと単純に人の役に立てるのが嬉しいのかもしれない。その気持ちはよくわかる。


 きっと彼女は、間違えないのだろう。

 努力の方向性も、ひいては人生というものも。

 真っ直ぐで明るくて、誰からも好かれる。

 生前の俺はそうなろうとして、失敗した。


「そうですね。やっぱりまずは、基礎三系統からだと思います」

「あ、うん」

 閑話休題。思想にふけっていた意識を魔法のお勉強に集中させる。

「炎、氷、雷。その三種が攻撃魔法の基礎にして、あらゆる魔法の原点と言われます。通常、大なり小なり魔法に携わる者は、まずこちらから修得いたします」

「そういえば今日使ってたのは氷魔法だったよな」

「はい。フリーエルですね。こちらは氷の初級魔法です」

「初級……」

 あれで……?

 あのとんでもない威力で……?


「原則として初級のエル系、中級のエラ系、上級のエスト系、一種類で三段階ございます」

 念のため確認しておこう。

「上級の方が難しい分、強いってことだよな」

「そうなります」

「そっか。いやさあ、あの時使ってた魔法の威力があまりにもおかしいんで」

 するとマオは申し訳なさそうにぺこり。

「ごめんなさい。いくらなんでも弱すぎでしたよね」

 うん、嫌味じゃないんだ。この子は純粋に自分の非力に申し訳なさを感じているんだ……

続きを今すぐ読みたい方はこちらにて発表しております。

https://kakuyomu.jp/works/16816700426124062593


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