第8話
「早速ですが、何を覚えますか。炎のファイエル・氷のフリーエル・雷のラディエルとございますが」
『3つの中から好きなのを選ぶのじゃ』パターンか。これ結構悩むんだよな。先の展開がわかれば安牌でいくけど、まったく未知だからな。それがドキドキというか醍醐味でもあるんだろうが、マオを長々と待たせるのも悪いし……
ここは……
「炎で」
王道を往く。
「わかりました。炎は四大元素の一つでもありますし、迷っているようなら私も炎を勧めるつもりでございました」
どうやら正解だったらしい。氷はマオのあれ見たあとじゃ絶対コンプレックスになるし役に立たないだろうし、雷はなんかミスったらこっちまで感電しそうだし、という消去法だったのは内緒だ。
「それでは早速見本を」
マオは杖を手に取り、窓を開ける。
「室内では危ないので空に向かって放ちます」
身を乗り出し、外に何もないことを確認。自分の家より気を遣ってるな。感心感心。
「いきますよ。いいですか?」
「いつでもどうぞ」
窓のそばに立った俺にうなずいて、マオは杖を天へ向けた。
一瞬、意識が飛んだ。
それは瞬間的に酸欠になったからであり、それは瞬間的に酸素がなくなったからである。
原因は目の前に出現した巨大な火球が周りの酸素を燃やしてしまったからであると、数秒後に気づいた。
民家である。サラリーマンが何十年ものローンを組んでやっと手に入れる一軒家。待望のマイホーム。
そんなサイズの火の玉が、夜空を駆けていく。まるで彗星だ。
きれいだなーと場違いな感慨に浸っていると、射線上でのんきに飛んでいたドラゴンがジュッと消えた。俺はキャンプで焚き火をした時の、わざわざ火の中に突っ込んでいく虫たちを思い出した。
「あれ、どうやったら止まるの?」
「わかりません。そのうち当たれば炸裂するのでしょうけど……」
「そっかー」
四魔精戦で安易に炎同士の勝負とかしてくれなくてよかった。
星の仲間入りをする火球を見届けながら、そんなことを思った。
しっかしすごい火力だな。これが炎魔法の上級ってやつか。
「それで、今のが炎の魔法のエスト系だから……ファイエストであってる?」
「いえ、今のはファイエルです」
窓を閉めたマオは首を振る。
「飛び火させないように無詠唱で威力を落としたのですが、中々うまく調節できませんね。杖は使わない方がよかったかもしれません。今更ですが、炎の魔法のコントロールが苦手なのです」
「…………」
「あの……なにか至らぬ点がございましたか?」
呆然とする俺を心配するマオに、掛ける言葉が見当たらなかった。
「呪文っていらないのか?」
とりあえず話題を変えよう。このままではコンプレックスなんてレベルじゃねえもんに押し潰されそうだ。
「いらないとまでは言いませんが」
自分のベッドに腰掛けたマオは杖を壁に立てかける。
「魔法とは、自身のイメージを魔力というエネルギーで具現化することでございます。つまり、自分の中でのイメージが確たるもので、そちらを具現化するに必要な魔力さえあれば、問題はございません」
ですが、と大魔道士は続ける。
「イメージというものは、それ単体ではあまりに不確定で弱々しいものでございます。不慣れ、練度の足りないものがやろうとしても、すぐにはコントロールできないでしょう。そうなれば詠唱を介することで、対象のイメージを固定化・具体化する必要は出てきます。無論、それは必要がない熟練者であっても、補助としての機能を果たします」
補助輪のようなものか。最初から補助輪なしで自転車を運転できるやつはいない。いや、中にはできるやつもいるだろうが、それは才能があったからというだけで、大多数は補助輪や後ろで支えてもらって覚えるものだ。補助輪を卒業したやつだって、補助輪使った方が転ばないに決まっている。
「つまり慣れるまでは魔法を唱えなきゃならないし、慣れても唱えるに越したことはないと」
「はい。発動と詠唱はほとんどタイムラグがございませんし、隠密行動でもなければ特に不利にはならないかと」
一言でいいわけだからな。
「なんというか、前口上が長いパターンがあるだろ? あれって」
「補助の機能を最大限に活かす場合か、魔法の発動にそれだけの溜めが必要な場合ですね」
前者は強化要素、後者は必要条件か。盾持ちのいないこのパーティーじゃ危なっかしいな。ていうか無職二人に魔法使い一人ってパーティーとして成立してねえ……
「今から覚える魔法は初歩ですから、今は気にしなくてもよいかと」
「そうだな」
このあと高火力のやつが仲間になるかもしれないしな。ああだこうだ心配しても詮無い。とりあえずやれることはやっておこう。
「まず炎をイメージしてください。それから、指の先にその炎が出てくると思ってください」
人差し指を立てて、そこをじっと見る。炎ね……
「対象のイメージを固定化し、その固定されたイメージを特定の場所へ具現化するのです」
指が燃えるのではなく、指先に炎が出てくると思えばいいのかな。
「イメージが曖昧であれば、その分無駄になる魔力が出てきます。過度なイメージであれば、消費する魔力が大きくなり持っている魔力が足りなくなります」
俺は先程見た火球を思い出す。あれは無理だな。ああ、そんなこと考えてるとどんどんイメージが……
「難しいなこれ」
剣でも振ってた方が肉体的にはキツいだろうがわかりやすい。
「慣れれば簡単にできますよ」
マオは両手を見せる。その手を覆うように火が灯った。
「私は苦手なので手全体を覆ってしまいますが、熟練者は指先に一つ一つ炎を個別に出すことができます」
まるでライターだ。熱くないの?
ん? ライター?
「少しとっかかりがつかめたかも」
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https://kakuyomu.jp/works/16816700426124062593
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