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15 デート・ライド

 前回のあらすじ


 普段より露出度の高い服装の伊織に、色々案内されることになった。

「お! アイツ、アキヒロ少尉じゃね? ほら大励起を起こした」


「ホントだ。女連れだぜ? 手が早いな」


「人間の発情期ってのは年中らしいからな。HAHAHAHAHA」


 ここはマリス・ステラの中のショッピングモール。

 俺の知らない間に給料が入ったらしく、俺達の懐は暖かいらしい。

 “らしい”というのは並んだ数字が、如何ほどの価値なのか俺には解らないからだ。金銭感覚と言ってもいい。


「くそどもが、こっちが人間だと思って可聴音量を間違えてるわ。十分聞こえてるつーの」


「おやおや、言葉がお下品ですよ。伊織中尉」


「うっさい。わかってるわよ。それで、こっちのシャツとこっちのシャツ、どっちにするわけ?」


 俺達は今、買い物の真っ最中。

 俺としては腹が減ってるので、(結局昇進祝いでだされた料理に、ほぼ手をつけていない)まずは飯にしたかったが、伊織が俺の服を選ぶと言って聞かなかった。

 支払いは俺もちだ。


「俺としてはあっちの黒い服の方が……」


「だからそれはダメだって言ってるでしょ! 貴方ほっといたら黒とかグレーとか地味な色の地味なデザインの服ばかり買おうとするんだから! 同じ黒でもサテン生地のワイシャツとか、色なら赤とか青とか、デザインも調和を考えて、()(かく)もっとマシなのを買いなさいよ!」


 勝手に行き先を決められたあげく、買う服まで好きにはさせてくれない。

 仕方なく伊織の勧めるままに服を買い、ズボンを買い、靴を買った。

 ビジネスシューズでもない革靴。しかも白だなんて初めて買ったぞ。


「これで少しは(さま)になったわね」


 そういって鏡越しに俺を見る伊織。もういい加減腹が減って死にそうだ。


「さて次はヘアサロンに。はいはいそんな顔しないでよ。わかった、わかったわよ。御飯にいきましょ。髪はまた今度でもいいわ」


 そんな調子でようやく飯だ。ちなみに買い物前に着ていた服は全て、部屋まで送り届けてくれるらしい。ありがたいサービスだ。ついでに俺をペットか何かのように扱う小娘も遠くに送ってはくれないだろうか。



「いらっしゃいませー」

 入ったのはオシャレでモダンな感じのお店だ。いかにも女子がすきそうな感じの。男一人でこんな店に来るような奴がいたら、きっとヴェルヴェに違いない。


「私カレーライス。貴方は?」

 こういう店に入ったから、小洒落た名前の難しい料理を注文するのかと思ったが、意外にも伊織が頼んだのは馴染み深いメニューだ。というか地底にもあるんだな、カレーライス。


「じゃあ俺はシシリアンライスで」


「シシリアンライス? 何それ? そんなのあったっけ?」


「ほらメニューのここ、新メニューだとさ」

 サラダのようなものが御飯の上にのった写真を、伊織と顔を近づけて見る。


 この時思ったのだ。

 あれ? これ、デートじゃね? と。


「ふ、ふーん美味しそうじゃない。私も今度注文してみようかしら」


「なんだったらシェアするか? 俺もカレー気になるし」


「そそそ、そうね。そうしましょうか」

 伊織は顔がちょっと赤い。俺の勘違いじゃなければこいつ……。


 俺達は飯を食った。

 これまで伊織とはろくに話が出来ていなかったが、ようやくまともに会話が出来たと思う。

 伊織は地底で生まれ、地底で育った。では名前が何故日本人かというと、おじいさんが日本人で、俺と同じように地上から拉致されたらしい。優秀なパイロットだったそうだ。


「ふーん、地上人が連れてこられることは、よくあることなのか?」


 口の中で、米とレタスの甘さとマヨネーズのコク。肉の旨みが踊った。


「多くはないわね。たまによ。でも偶然きてしまうこもあるし、皆無って程ではないわ。あなた程ではないにしろ、地上人の励起率は高い傾向にあるの。だから地上人を見つけたらパイロットにするのが通例ね」


 俺と伊織は皿を交換し、俺は伊織が半分食べたカレーを口にした。こういうのは気にしたら負けだ。俺達は戦士。食えるときに食っておかねばねらない。それぐらいの心構えでいいだろう。


「んん! ここのカレーライスなかなかイケるな」


「でしょー。これも昔、地上人が持ち込んだらしいわ」


 俺が気にしないので伊織も気にせずに済んだのか、シシリアンライスを食べる速度によどみはない。


「はぁー食べた、食べた。もうお腹いっぱい。貴方、このあと予定はある?」


「ねーけど。買い物とか、髪切ったりはもう嫌だぞ」


「わかってるわよ。外、行きましょう」


 自然な笑顔にどきりとした。これだから女という生き物は。



「きゃー気持ちいいー」


 俺達は坂道を自転車でくだる。二人乗りで俺が前だ。

 ブレーキなんていらない、長いくだり坂の一本道。道の前に人影はなく、左右には畑や田んぼ、牧場らしき芝生が遠くまで広がっている。


「科学が進歩してても畑は地上と変わらないな」


「えー? 何ー? よくきこえなーい」


 風と共に景色が通り過ぎる。興奮を感じるほど早くはなく。さりとて退屈を感じるほど遅くもなかった。


 レンタルした自転車は片方が途中でパンクした。

 外の景色と相まって、想定外のローテクにちょっとガッカリした。


 頭をたれる稲穂の群れに見られながら、俺は少し速度をゆるめる。

「だからさ、地底でも米って食うんだなって。それもこうやって田んぼ造ってよ」


「当たり前でしょ。石器時代から食べる物なんてたいして変わらないでしょ。どれだけ科学が進歩しようと、変わらないものだってあるのよ」


 そんなものか。俺はさして考えず次の質問をする。


「なー二人乗り(ニケツ)って怒られないのか? 法律とかで」


「大丈夫。そんな面倒なルールはないわよ。こんなのルールに守ってもらうような事ではないわ、自己責任よ」


 伊織は俺の後ろに座って、偉そうに教えてくれる。

 地上より進歩している地下では、不便なルールは消していくとの事。

 観念や道徳が進めば、決まりごとというのは少なくて済むらしい。


「ねー貴方、地上ではレーサーとかいう職業なんだって?」


「職業じゃねーな、趣味だ。それとそろそろ俺を名前で呼んだらどうだ?」


「嫌よ、そう簡単には変われないもの」


「簡単じゃないか、呼び方なんて、上の名前でも下の名前でもいいぞ」


「貴方とは違うのよ」


 かなり仲良くなった。というのが俺の手ごたえだ。それでもまだまだガードは固い。

 いいさ、気長にやるさ、俺と伊織の関係がこれからどうなっていくのか、他の奴等とはどうなっていくのか、自分のことなのに他人のことのように楽しみだ。


 翌日。俺はガーベージに呼び出された。

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