17
勇者の条件みたいなのはパッと思いつくけど主人公の条件って固定されたモノ無いよね
〈学校エリア〉
さて、簡単に状況をまとめよう。
俺達が学校エリアへとやってきた目的は1番を殺す、ないしは無力化する事である。理由はクソみたいにイケメンだからである。
1番は序列と呼ばれる、いわゆるランキングにおいて一位の実力を持っている。俺は二回ほど1番と対面したが、そのどちらも惨敗という結果に終わっている。死んでいないのは単に悪運が強かったからだろう。
対してこちらの戦力は俺、ゴミ、双子ちゃんである。俺は魔術はからっきしでこの世界においては上位程度にあたる身体能力を持っている。ゴミは防御魔術が得意だが攻撃には全く期待出来ず、双子ちゃんに至っては攻撃魔術こそ使えるが二人揃ってようやく一人前である。
まるで歩兵三枚だけで王将以外全部龍軍団を相手にするような無謀さであり、それだけの戦力差である。
だが俺の素晴らしい天才的悪魔的な発想ひらめきによって、その圧倒的戦力差を埋める事が出来た。
休む暇、寝る暇も与えずゴミに作らせた攻撃プログラムが五十匹。搾り取れるだけ搾り取ってようやく揃えたそれも、恐らく1番ならば一瞬で消せるだろう。序列三位であるナナは出来ると豪語していた、ならば一位の1番に出来ない筈は無いだろう。
だからこそ、ステータスを極端に偏らせてきた。
そして、ゆうきの治療を開始してから十四時間が経過している今、あと四時間はゆうきもナナも身動きが取れない状況だ。
「……ふぅ」
落ち着いて作戦を確認する。
1番がいないタイミングを計って学校エリアまでやってきた俺達は二手に別れた。囮役である俺と、作戦の要であるゴミと双子ちゃんに。囮役の俺は高校の校庭のど真ん中で待機し、ゴミと双子ちゃんは少し離れた場所に生えている木の陰に隠れている。
1番が俺に気付き、近付いてきたらケルベロス達を一気に出現させる――どうやら作ったケルベロス達は姿を消すと言うか存在を消す事が可能で、それを任意のタイミングで出現させられるようだ。詳しい説明をされても良く分からなかったが、作った分だけ持ち運べると言っていた。
だがこのタイミングではまだゴミも双子ちゃんも動けない。魔術を使うと反応が残り察知されるとか何とか言っていた。ゴミが防御魔術を使うにしても、隠れている事がバレてそちらへ向かわれては計画が崩れてしまう。だから、完全にこちらに注意を引いてから魔術発動の準備をさせる事になり……結果的に俺が稼がなければならない時間は二十秒へと延びてしまった。
二十秒、気が遠くなるような長い時間1番と遊び続けているとゴミが防御魔術を発動する。それを確認したらすかさず俺はその防御の中へと逃げ込む。これでこちらの守りは完璧となり、あとは双子ちゃんの出番でチマチマと削ってくれればそれで何とかなるだろう。
大雑把で雑な計画だと笑われてしまうかもしれないが、こちらは決め手に欠けるのだ。これが取れる最善手で、俺が思い付いた唯一の計画である。
『番外、大丈夫か?』
耳元の通信機からゴミの声が聞こえてくる。俺が緊張していると思っての言動だろうか。
「見るなら俺じゃなくて1番だ……そろそろ来る頃だろ?」
通信機という便利ツールに続き、俺はナナに双眼鏡を作ってもらった。これがあれば遠方も確認出来、敵より先に敵に気付く事が出来る。
『もちろん1番が来る方向見てるわ、誰が番外なんか見るかっての』
通信越しとは言え、ゴミの声が震えているのが分かった。
緊張するなと言う方が無理な話だろう。何せ俺達が相手にするのはラスボスクラスの強敵なのだ。ミスれば死ぬし、ミスらなくても死ぬ可能性が高いのだ。
「双子ちゃん、まずいと思ったらゴミ連れて即行逃げろよ?」
『りょーかーい』
さて、と気を引き締める。
『1番が来た』
ドクンと心臓が脈を打つ。
今すぐここから逃げ出そうと本能が叫ぶ。
二回も負けている俺の身体は、戦う前から既に白旗をあげている。勝てる筈が無いだろうと理性が呟く。
「あーうるせぇな」
負けのイメージも死のイメージもいらない。あの綺麗な顔面をぐちゃぐちゃにしてやる未来だけを想像しよう。きっとスカッとするに違いない。
そうだ、殺そう。殺してやろう。
殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ。
ぶち殺してメタメタに殺して殺して殺して生まれてきた事とイケメンに生まれた事を後悔させてやろう。
「よーっし、ぶっ殺す」
ゆうきの鉈は部屋に置いてきたが、殺せる道具は手元にいくらでもある。爆発で肉を吹き飛ばしてやろう。火炎瓶で焼死体にしてやろう。カエルをいじめるように花火を口の中に突っ込んでやろう。馬乗りになって顔面を二時間近く殴ってやろう。股間を踏み潰して目玉を抉って首をへし折ってやろう。
「物騒な事言うなー、俺の玩具君」
そうして気が付けば、1番は俺の目の前に立っていた。余裕の現れなのか、爽やかな笑顔を見せたまま棒立ちしている。
「そんな怖い顔しちゃってー……それより、お仲間はいないの? もしかして666番しか友達いなかった?」
わざとらしく辺りを見渡す。当然見える範囲に、見えるようにゴミも双子ちゃんもいない。それなのにわざわざこう言ってくるのは、存在の有無を俺の態度から割り出そうとしているからなのか?
「……その666番も、もういねぇけどな」
「へぇ? あれで死んじゃったって相当脆いんだね」
ナナは治すのに十八時間かかると言っていた。言い返せばそれは、十八時間かけてもゆうきが死ぬ事は無い事になる。治すリミットにあと四時間もあるのに、普通に考えれば死ぬ筈は無いだろう。
つまり、俺が嘘を吐いたと1番は見抜いている。だからこそこう言ってやろう。
「俺が殺したからな」
1番の表情が理解不能と物語った瞬間に、俺はありったけの声量で腹の底から声を上げる。
「今だゴミ、出せ!」
俺と1番のいる校庭、その地面の全てが歪む。
歪んだ地面はボコボコとまるで煮立った泥のように泡を出し、意思を持っているかのように泡は集まり形を作っていく。
「これは……」
1番が驚きの声を上げる頃には、五十匹全てのケルベロス達が現れていた。まるで本物が登場するように見せかけるゴミの粋な計らいによって、1番は本気で驚いているようだ。
だが、余裕は崩れない。
「まさか攻撃プログラムを従えて来るとは思わなかったよ……はは! すごいすごい、俺の玩具君は俺の想像を越えてくれた! でも――これで俺を倒せるなんて思ってないよな?」
音ゲーで鍛え上げた俺の動体視力を持ってしても、1番の行動の殆どを認識する事は出来なかった。だがそれでも、いつの間にか出現させていたキーボードに一瞬で何かを打ち込んでいるのだけはハッキリと視認出来た。
俺は咄嗟に後ろへと下がり、ケルベロスを五匹壁にする。
次の瞬間、眩い光と共にまるで雷でも落ちたような空を割く轟音が鳴り響いた。あまりの威力に俺は飛ばされ、またもや尻餅をついてしまう。思わず瞑ってしまった目を慌てて開くと、五十匹はいたケルベロスの数は半分以下となっており、残っているケルベロスも黒焦げでデータとなって崩れる一歩手前といった様子だ。
「で、次の策は?」
「……はは、防御力ガン積みしてこれかよ」
素早さも攻撃力も何もかもを捨て、俺の壁とする為だけに防御力をカンストさせたケルベロス達。全力で鉈を振り下ろしても傷一つ付けられない程硬かったのだが、ほぼ全滅ではないか。
「……っ!」
遅れて鈍い痛みがやってくる。自分の身体へと視線を向けてみると、左腕は肘から先が消し飛び、右腕は二の腕が皮で繋がっているような状態に、左足は焦げて腹部や右足も酷いデータの流出だった。
時間稼ぎの囮役の筈なのに、たった一撃で満身創痍だ。
自分の身体の状態を理解すると、それに見合った激痛が襲いかかる。痛みに絶叫し生き残る事に絶望したい現状だが、時間を稼がないとならない。
敵わないから逃げろ、と指示を飛ばそうかと一瞬悩んだが耳に付けていた通信機は壊れていた。
「これで終わり?」
つまらないな、そう言う1番の目は最初に会った時と同じように興味を失ったようなモノだった。
そして、恐らくゴミが防御魔術発動の準備に取り掛かっているのか、1番の視線はゴミと双子ちゃんの隠れている木の方へと向く。
――全滅してしまう。
「終わりじゃねぇよ!」
ぶらぶらとしている右腕に力を込め、懐から黒色火薬を詰めただけの小さな爆発物を取り出し、1番へと思い切り投げ付ける。
当たればそれなりのダメージを確実に与える事が出来る……そう思っていた爆発物は、1番に当たる前に真っ二つになってそれぞれあらぬ方向へと飛んでいってしまう。
「飛び道具なら意表を突けるとでも?」
続け様に俺は火炎瓶を取り出し、1番の足元へと投げる。
「うおっ!?」
バリンと瓶が割れた瞬間炎が広がり、1番は炎から逃げるように後ろへ数歩下がった。すかさず俺は立ち上がり逃げ出そうとすると「番外、こっち来い!」とゴミが声を上げる。
準備が整うにしては早過ぎる――が、このまま此処にいては確実に死んでしまう。
ついでと言わんばかりに小さな花火もどきを懐から取り出して、火炎瓶によって広がった炎へと投げ付ける。
俺が想像していたのは爆竹のようにバチバチと言いながら煙を吹き出すモノだったのだが、思い返せば花火は一瞬でバーンとなるではないか。
「足止めにもならねぇじゃねぇか!」
作った物は全部使い切ってしまった。どうせなら火炎瓶を十本程用意してくれば良かったと臍を噛みつつ全力で走る。焦げている左足が想像以上に働かず、マトモに走る事すら出来やしない。
走りながら後ろを見ると、1番は追いかけて来てはいなかった。俺と同じ程度の速さで走れる1番に追いかけられては逃げ切れないが、これなら――
「期待はずれだよ、もう死んでくれ!」
――アニメで見るような、人間よりも巨大な炎の球体が眼前に迫った。
これはダメですね、死にますね……そう諦めて、俺は足を止めた。
「まだだ!」
だが、その馬鹿みたいに大きい火球は俺まで届かずに弾け飛ぶ。
「ご、ゴミ!」
俺とゴミ、双子ちゃんまでの距離はそれなりに空いていた。防御魔術の範囲内に入る為に走っていた俺であったが、同時にゴミと双子ちゃんもこちらに来ていたようで、俺達四人を囲むあまり大きくない炎の壁が作られていた。
俺が時間を稼げなかった時点で計画は崩れている。前に何度も注意を促しておいたが、計画が少しでも崩れればすぐに逃げる事になっていた。それなのに助けに来るとは……。
「お前なんで……いや、助かった」
この状況で文句を言っている暇は無く、事実俺は助けられた。ならば言うべきは感謝の言葉だろう。
しかし、と思考を切り替える。
本来ならば二十秒程俺が時間を稼がなければいけない筈だった。が、俺が稼げたのは数秒程度だろう。会話をしている時は隠れているの悟らせない為にジッとしていた筈だ。
そうなると――
「急造の欠陥品か?」
「だが防いだ」
確かにな、と視線を前へ戻すとこちらを睨んでいる1番が立っていた。俺を少しも追いかけていないようで、対面した時から1番は一歩も動いてはいない。
――ほんの一瞬、1番の手が動いた気がした。
「伏せろッ!」
それを見た瞬間、俺の全身が警報を鳴らしていた。このままでは死ぬ、そう直感し双子ちゃんの頭を肘までしか無い左腕と千切れそうな右腕で地面に押し付ける。その直後、俺の頭上をヒュンと何かが通り過ぎた。
「やっぱりガバガバじゃねぇか!」
危うく死にかけた事もあり、頭に血がのぼる。そのせいでゴミへと怒鳴りつけてしまうが、ゴミは冷静だった。
「うっそだろおま、たった一発でプロテクトの穴見つけたのかよ!」
訂正、めちゃくちゃ慌ててた。
「防御魔術が得意だったのかな? 残念だな、炎の壁って発想は良いけど炎は揺らめくモノだし、厚みがあっても揺らいでいる限り穴は生まれる。僅かでも穴があるなら余裕でつけるさ」
一歩も動いていない1番は、余裕の笑みを浮かべていた。ここまで力の差を見せつけられると、改めて思ってしまう。こいつには勝てない、と。
「ど、どうするリョータぁ……ボクと265番で攻撃する?」
「で、でも……私達なんかの魔術が通用するとは……」
分かっている。取り敢えずダメ元で攻撃をさせるべきだろうし、そんなもの全く通用しないだろう。分かっている……何かをしなけば仲良く四人でさようならだ。だが――
「諦めなよ玩具君。そんな右腕でも動かせたあたり確かに君は興味深いけど、期待外れだった。もう何も出来ないでしょ? 何も思い付かないんでしょ? それともその防御魔術ごと吹き飛ばされないと諦められないかな?」
――だからこそ、俺は笑ってしまうのだ。
「く、クク……あはははは!」
炎の壁の向こう側にいる1番、更にはゴミと双子ちゃんも俺を見る。気でも狂ったのかと、そう言いたげな目で四人とも俺を見ていた。
「悪いな1番、非常に残念で嘆かわしい事だが……賭けは俺の勝ちだ」
は? と思わず出てしまったような声を俺の耳は確かに拾い上げる。いきなり何を言っているんだコイツは、と1番は全く理解が出来ていないのだろう。
「……頭でもおかしくなったのか?」
確かに、この現状でこんな事を言う奴は頭がどうかしているだろう。俺もそう思う。為す術無く殺されるだけの奴が突然笑い出したのなら、それは現実に絶望した証拠であり、現実を認められないからこそ出てしまう笑いだ。
だから、そう思うのは当然だろう。
「いたって正気さ。頭がおかしくなったワケでも気が狂ったワケでも無いぞ? ハッタリでもデタラメでも真っ赤な嘘でも虚勢でも無いぞ?」
気が付けば、余裕に溢れた表情だった1番は炎の壁越しに俺を睨みつけていた。本気でこの状況をどうにか出来るとでも思っているのか? とでも考えているのだろう。もちろん俺がただの適当を言って時間稼ぎをしている可能性も含めたままではあるだろうが、俺からすれば勝手に悩んでいてくれといった所だ。悩めば悩んでくれるだけ俺を助けてくれるのだから。
「どんな希望を見出したのかは知らないけどさ……俺と君の力の差、分かってるよね?」
何があろうと君は勝てる筈無いと、1番はそう言った。まるで自分に言い聞かせるように。
ああ、全く以てその通りだよ。俺にお前は倒せないし俺ではお前には勝てない。圧倒的なまでの力の差が確かに存在する。そしてそれを証明するように俺は死にかけだ。だが、だからこそ俺には分かってしまったのだ……俺は主人公を張るような器では無い、と言う事を。
「それで、この状況をどうにか出来るとでも?」
「どうにかするってのは、ちょっと違うな」
念の為に伝えておいて良かったと俺は安堵する。
この世界において、あらゆる物がどういった役割を果たすのかは詳しく分かってはいない。だが、プロテクトと言う物は基本守る為に存在している筈だ。ゆうきのプロテクトが云々と言っていたが、要はゆうきの身体に外部からアクセスされるのを防ぐ為に存在しているのだろう。
だったら、と俺は言ったのだ。
通るのが難しいのなら、ぶち壊しちまえば? と。
それが出来る出来ないはこの世界の住人に依存する。だが、俺には選択肢を増やす事が出来る。
「なぁ1番、ゲームって知ってるか?」
「そんなもん知ってるさ、実際にやったりはしないけどな」
なるほど、俺の想像している物と同じかは分からないがゲームといった遊びの文化は、この世界までしっかりと残っているらしい。
「ロールプレイングゲームにしても漫画や小説にしてもそうだが、物語ってのには主人公が必ずいるよな?」
主人公無くして物語は作れない。一人称ならば主人公の目こそが物語の世界であり、三人称であるならば主人公は物語における中心点だ。
「それが? 君がこの現状をどうにかするのと何の関係があるんだ」
「焦っちゃいけないよ天才くん。ほら、よーく考えてみなよ……現実に主人公はいるのか、いないのかを」
無駄に思考させる為の適当な発言だったが、天才の1番君は可愛いくらいに見事に考え込んでくれた。もちろん俺への警戒は忘れていないだろうから、無駄な動きを見せれば即消し飛ばされるだろう。
ちなみに俺の答えだが、現実に主人公はいないが主人公足り得る人物は複数存在している、だ。
つまり、この世界の正体は未だ掴めないが、例えゲームや漫画と言った物語の世界であろうと、本当にただの未来の現実であろうと、この世界には少なくとも一人は主人公、もしくはそれに類する存在がいるのだ。
そして、憎ましい事に主人公というのはご都合主義の力を持っている。ぶち破れない壁も発想や超パワーでぶち壊し、不可能を可能にし、ゴキブリ並の生存能力を見せる。ギャルゲーなんかになれば本来手が届かないようなクラスのマドンナも主人公に振り向くし、乙女ゲーならばただの地味な主人公を巡ってアイドル事務所のイケメン達が争いを繰り広げる。
力技と言ってはなんだが、有り得ない事でもゴリ押しで有り得る事へとしてしまうのだ。
――こう言っては恥ずかしいが、最初は自分がその役割を担っているのでは? と考えていた。
一人だけの過去からの参加者、都合良いタイミングで助けてくれた仲間、ゴキブリ並の生存能力を可能にする悪運、そして小賢しい作戦を思い付けるだけの知恵に現実では大した事が無くてもこの世界においてはそれなりの身体能力……主人公を張るには些か雑魚すぎるが、それでも異端性や持ち合わせている能力から、可能性はそれなりにあるだろうと思っていた。
だが、現状はどうだ?
必死に頭を絞って捻り出した作戦は容易く崩れ、何とかして生き残ろうとはしたが既に満身創痍、味方もろくに動かせず今ここで虫の息だ。酷い怪我によるデータの流出も激しく俺の輪郭は歪み始めており、眼前に迫る死をハッキリと意識させた。
もし主人公ならば、ここから巻き返す何かがあっただろう。
もし主人公ならば、ここから挽回出来る力に目覚めただろう。
もしも主人公ならば、そもそもこんな事にはさせていないだろう。
――では、一体誰がこの世界における主人公か?
……そんなの一人しかいなかった。
「もういいよ、分かった。例え主人公がいてもいなくても今この状況は変わらない」
1番の手元にキーボードが現れ、目にも止まらぬ速さで何かが打ち込まれ――
――眩い光と共に、炎の壁は一瞬で消し去った。
「これで終わりだ」
勝ち誇ったような笑みを1番が浮かべる……ああ、可哀想だ!
「ははっ、ハハハハ!! わざわざ俺なんかの話をしっかりと聞いてくれて本当にありがとう! 別に話なんざ聞かずにパッと殺しちまえばそれで良かったのになぁ? あぁ、それとも自分なりに楽しむ為にはパパッと殺せなかったってか? どちらにしてもほんとありがとう! それに? わざわざ? 俺達は残して壁だけを消して? 絶望した顔でも見たかったか? どう足掻いても勝てない現実を突き付けたかったか? ざぁんねんでぇしたぁ〜!」
相手を玩具として見て、ただ自分が楽しむ為に行動する1番ならそうしてくれると信じていた。
だからこそ、十分過ぎる程の時間を稼げた!
「あーお前は確かに強いよ、序列一位も納得の強さだ。きっと誰もお前には敵わないだろうし、お前は絶対勝ち残れただろうな……だが、その油断が、その慢心が! お前の敗因だよばぁ〜か!」
勝ちを確信し、余裕を見せ、相手で遊ぶ――ずっとそのスタイルを貫いていた1番の表情は歪みきっていた。
逆に勝ちを確信している俺の表情を見て、不愉快極まりないと表情が物語っていた。
そして、いかりのままにキーボードを出現させ――
「なんだ、見た目の割に結構元気そうじゃん」
――放たれた雷撃は紫色の炎と衝突した。
だからって自分は自分の人生での主人公ってのは烏滸がましいよね