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と、言う事で居住エリアの道路をうろちょろする事三十分。
「……いやぁ、出てこねーなーとは思ってたんだ」
俺は自分の不運さという物を全く勘定に入れてなかった。
「おい番外、連れてくるのは一匹だけでいいだろ」
なかなか出てこないモノだから適当にうろついていたのだが、まさかいきなり三匹も出てくるとは思っていなかった。
「取り敢えず一匹に減らそうぜゴミ」
幸いな事に、防御の魔術に長けたゴミがこちらにはいる。こいつの陰に隠れていれば死ぬ事は無いだろうしそもそも全部こいつに任せておけば終わる……のだが。
ゴミに出して貰った火薬や色々な物はナナの部屋へと置いてきたが、一応「触るなよ」と言っておいたのだが正直物珍しさで触らないとも限らない。下手に刺激を与えればそれだけで爆発しかねない危険物の山々だ、なるべく早く用件を終わらして戻りたい。
「ゴミ、防御の展開よろしく。お前の代わりに俺は三匹を一匹に減らす」
魔術の発動に取り掛かるゴミを横目で見つつ、ゆうきの所有物である鉈を俺は握りしめて態勢を低くする。素早く動く事も目にも止まらぬ速さで鉈を振り回す事も出来ないが、落ち着けばそれなりに対処は出来る――
「オラッ!」
――俺を噛み殺そうと飛び付いてくるケルベロスに鉈を叩き込むくらいには。
口元から切り裂かれ、綺麗に真っ二つになったケルベロスは空中で分解しデータとなって消える。
「まずは一匹」
飛び込んできた一匹がやられた事で、残りの二匹は警戒をしてジリジリと後ずさりする。それを見てすかさず俺は前へと踏み出し、残っているうちの片方を蹴り飛ばす。
いくら能力が高かろうが、いくら牙が鋭くとも、重さはただの犬っころと同じ程度。犬を蹴る趣味は微塵も無いが、その程度しか重さが無いのなら簡単に蹴り飛ばせる。
残ったもう一匹が慌てて俺に飛び付いてくる。が、同じタイミングでゴミの魔術が発動したようだ。俺を取り囲むように炎が現れ、ゴオオっという音と共にジュッと焼ける音が聞こえてくる。
「ナーイスタイミング」
俺を守るように現れた炎の色が透け、ゴミの姿が確認出来る。どうやら防御魔術を俺だけに使ったようだ。てかどんなトリックだよこれ。
「さて、一先ずはあいつだな」
そう言うゴミの視線の先には蹴り飛ばされたケルベロスがいる。態勢はすでに整っており、いつでもこちらへと飛び付ける状態になっている。
「つかこれ全方位見えるんだな、便利じゃん」
「むしろ視認出来るようにしないと攻撃すらマトモに出来ないだろ」
前は大体の位置に適当に攻撃を放つと言っていた気がするのだが、恐らく改良でもしたのだろう。逆にどうして大雑把に攻撃するだけで勝てると思っていたのか不思議でならない。
「で、無力化しなくていいのか?」
例え一匹でも、ケルベロスは人間より強い。炎の壁に守られている俺は無事でも、自衛をしていないゴミは飛び付かれたらそれでジエンドだ。
「今から干渉してみる。飛び付かれたら頼む」
「へーへー」
一応いつでもゴミとケルベロスの間に入れるように、と準備をしたがケルベロスは動く気配すら見せなかった。最初こそは唸りこちらを睨みチャンスを窺っていたのだが、途中からは完全に停止した。
体感時間にして三分くらいだろうか、ゴミはまるで一仕事終えたと言わんばかりに「ふー」と言いながら額を腕で拭う。
「首尾は?」
俺の問いに、ゴミは今世紀最大のドヤ顔を見せる。殺してやりたい気持ちをグッと抑え返答を待つと「これからは俺の事を53番様と呼ぶんだな」とほざいたので、どうやら成功したようだ。
これでゴミの持つ戦力が増えてしまった。こいつが何を考えて俺とナナに着いてきたのか、そこが全く読めない。だからこそ不安が募る。逆に、制御手段を手に入れたのがナナでなくて良かったとも考えられる……が、やはり不安になってしまう。ゴミにケルベロスの制御手段を持たせて良かったのだろうか? と。
今はそんな事を考えても仕方が無い、と首を振って思考をやめる。
それよりも、本当に成功しているのだろうか? どれどれと試しにケルベロスへと近付き、鼻をツンとつついてみる。するとボロボロと身体がデータとなって崩れてしまう。
「……おい?」
制御が出来たのならば何もしてこないだろう、成功が口先だけなら噛み付いてくるだろう……そう考えての行動だった。だが、これはどういう事だ?
「詳しく説明してやるから耳の穴かっぽじって良く聞けよ? その足りない頭で必死に考えて俺が言う事を理解しろよ?」
随分と上から言ってくれる。成功しているのならばそれくらいは許そう、自分の生存確率がグッと上がるワケだし寛容にもなるってものだ。だが、見た限り失敗しているではないか。失敗しているのに、偉そうにしているのか?
イラッとくるがまだ堪えよう。ゴミが言う事を聞いてから怒っても遅くはない。
「まず、こいつらは予めこういった行動をしろとプログラムされている。ようは命令だな。生きている人間へと襲いかかれってな」
それは分かっている。例えば大量生産をしている工場には沢山の機械があるが、一つ一つの用途は作られた時から決まっており、細かい設定がされ人間にメンテナンスされる事で動いている。命令が無くとも、機械はやれる事が決まっているから大丈夫だろうが、それでもしっかりとした設定がされていなければ商品なんてとても作れないだろう。
働きアリにしてもそうだ。巣へと餌を持ち帰るという共通の目的の下でそれぞれが役割分担をして活動をする。その目的が無かったらどうなるだろうか?
「それで、まず指揮系統みたいなモノは見当たらないな。まぁ誰かが指揮してるワケじゃなくて各自が目的を遂行しようとしてるんだから当然と言っちゃ当然だな……で、番外の言ってた命令の書き換え。これをやってみようとして分かった」
「何が分かったんだ?」
「こいつらは外部からの干渉を受け付けない。まぁこれも当然と言っちゃ当然なんだが、そもそも生存競争においてこいつらは生存者を苦しめる敵だ。残りが十人になるまで続く生存競争の途中でこいつらが使いモノにならなくなったら困るだろ?」
「つまり、命令は書き換えられなくて味方にする事は出来なかったと」
そしてそれは俺が死ぬ確率がかなり高くなる事を示す……のだが、無理だったと分かったからと言ってあそこまで偉そうに出来るだろうか?
ただの希望的観測かもしれないが、何かを掴んだからこそあそこまで大きな態度を取れたのではないだろうか?
「で?」
「いや、攻撃プログラムなんだよなって思って」
やはり何かを掴んだようだ。53番様と呼んであげる気は更々無いが、ゴミクズとは呼ばないでおいてあげよう。
「勿体ぶるなよ」
「プログラムなんだよあいつらも。そして魔術ってのは簡単に言っちまえばプログラミングなんだよ」
パソコンに詳しくない人間にそんな事を言われても、頭がこんがらがってしまうぞ。
「作れるって事か?」
ゴミは自信満々に頷いてみせる。そして、実演してくれるようでキーボードを出現させてコードを打ち込み始める。
「アクセスを試みて、攻撃プログラムがどうやって作られてるのか、どういうプログラムなのか、それが分かった。で、面白い事にあいつらには個体差がある事も分かった」
「個体差?」
「そうだな……例えば番外、お前なら魔術はからきしだが体力や運動能力はそこそこ高めだろ? 幽鬼は運動能力がカンストしてて他が低い。ミュータントなら魔術が……みたいに、人間には得手不得手、才能や限界なんかがあるだろ? それと同じように、攻撃プログラムも体力攻撃力防御力素早さみたいなステータスがあって、下限と上限が設定されてる。あとは決められたポイントを好きなステータスに割り振る……みたいな感じなんだよ」
まるでゲームのキャラメイクだな、と笑いたくなる。
「で? まさか対面しただけでこいつはめちゃ素早いぞ! こいつはめっちゃ攻撃やべーけどワンパン出来るくらい脆いぞ! みたいに分かんの?」
「なんでそうなるよ……」
つまりだな、とわざとらしくキーをッターンと弾いてゴミは言う。不敵な笑みを浮かべて。
「番外好みにカスタマイズ出来るぞ」
カスタマイズか、中々良い響きじゃないか。
「しかも、これはまぁ当然かもしれないんだが……攻撃プログラムは基本どいつも絶妙なステータスで調節されてるんだよ」
「人間がギリギリ抵抗出来る程度に?」
そういう事だ、とゴミが頷く。
つまり、逆を返せば……。
「今までのケルベロスより強いやつを作れるってワケだな?」
「おい番外、お前悪い顔してるぞ」
そう言うゴミも、なかなかに悪い顔をしていた。
何だか友人と悪ふざけをして笑っていた中学時代を思い出す。このクソみたいな未来の世界と比べてあの頃は、危険なんて道端に転がっている犬のうんこ程度だった。
たまにしていた喧嘩ですらも今では生温いと思える。
「まぁ取り敢えず、平均的な奴を出すぞ」
そう言って再びキーをッターンと格好つけてゴミが弾くと、空中にデータが次々と集まり形を作っていき――敵として散々俺を苦しめてきたケルベロスが現れる。
思わず数歩後ろに下がってしまうが、動く気配は少しも無い。
「命令はなんて?」
「あん? 番外を喰い殺せってな」
ニヤッとゴミが笑う。それと同時にケルベロスはこちらを睨み付け、牙を出して威嚇してくる。
双子ちゃんを――せめて妹の方だけでも連れてくるべきだったと今更ながら後悔する。俺にはゴミの目的が読めていなかった。どうして着いてきたのか、何をしたいのか……ナナも近くにいるし大丈夫だろう、何もしてくる気配が無いし大丈夫だろう、そう気を抜いていた。
「あの時やられた借りを返す」それだけのタメだけに着いてきていると言う可能性を、俺は少しも考えていなかった。
幸いにもまだ威嚇をしているだけだ、ゴミも魔術を発動しようとする動きは見せていない――やるなら今だ。
俺はゆうきの鉈を握り締め、ゴミへと一気に駆け出し――脳天へと鉈を思い切り振り下ろす。
「ッ――あっぶねぇだろ!」
狙いが外れ、鉈はアスファルトを叩き、痺れが腕を襲う。たまたま助かったゴミは半泣きの状態で間抜けなポーズをしていた。
「じょ、冗談だからマジにすんなよ! 命令は番外を軽く脅せってだけだから!」
こんな無様な命乞いをしているのだし、どうやら本当に冗談なのだろう。なんて油断はもうしない。
「……冗談ならケルベロス消せ」
と俺が言い終わると同時にケルベロスは消える。それを見て俺は溜め息を吐く。
「お前、冗談言うにしてももう少しマトモなの言えよ。俺お前のことなんか一ミリも信用してないからガチで殺すとこだったぞ」
ゴミの悪運が良くなければゆうきの鉈は確実に頭を砕いていた。下手したら顔が真っ二つになっていただろう。
「出会った頃と比べて随分と暴力的になったな番外」
「出会ってまだ間もないだろ」
とは言え、今のはゴミが悪い。こんな生存競争だなんて悪趣味な事をやらされている状況であんな冗談を言えば、簡単に本気にされてしまうだろう。
――いや、ゲーム感覚になり過ぎているな。殺せば解決、なんて甘っちょろい考え方をしていては簡単に足元を掬われてしまうだろう。
「まぁ、なんだ……悪かったな」
「いや、まぁ……俺も悪かった。取り敢えずミュータントの部屋に戻ろうぜ」
俺も、と言うか全面的にお前が悪いんだよクソが。と言いたくなる気持ちをグッと飲み込んで、俺はゴミとナナの部屋に戻った。




