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〈居住エリア〉

「と、言うことでー! リョータ先生によるこれで絶対勝てるよ1番くん対策ぅー!」

 いえーい! というノリで話しかける俺を、ゴミと双子ちゃんとナナは冷ややかな目で見つめていた。

「ノリが悪いな全くぅー……とは言っても、だ。簡単に話を纏めると俺とゴミと双子ちゃんで1番を倒さなきゃならなくて、その1番を相手に何の策も無く突っ込めばただ死ぬだけだ」

 俺は双子ちゃんに高校を調べるのを任せ、自分は図書館へと向かった。部屋を出る前に前にナナに頼んで通信機を作ってもらい、それを使って双子ちゃんとゴミを招集したのだ。

「しっかり通信機だなんて、考えたな番外」

 これなら連絡が楽そうだ、とゴミはまるで現代の便利機器を見た過去の人間のような反応を見せる。正確に言うならば過去の遺物を見た未来人なのだろうが。

「この世界にゃねーのかよ、通信機」

「通信する必要が無いからな」

「それは何とも、まぁ」

 何とも言えないのだが、どこか寂しさを感じる。

「ま、一応同じ目的を持って行動するなら連絡を取り合えた方がいいだろうって思ってな……ほら、俺の生死が不明だった時とか、通信機が壊れてなければ「瀕死なう笑」みたいに教えられたし」

「それは笑い事じゃないよね」

 ひたすらキーボードに何かを打ち込んでいるナナが口を挟んでくる。そんな事をしている余裕があるのだろうか?

「ところでリョータ、先生ってどういうつもりー?」

「いやほら、こう仕切る時って先生に任せなさーいみたいに……ならないかすいません」

「そもそも先生ってそんな事する職業じゃないだろ」

 ほう?

「どういう事だゴミ、説明しろ」

「説明も何も、先生ってのは時間毎に何をするのか決めて、生徒達を管理する職業だろ」

 ちょっと何を言っているのか理解に苦しむが、いつものジェネレーションギャップだろう。さて、と言っておふざけから真面目なムードへと切り替える。

「まずはじめに確認したいんだが、ゴミと双子ちゃんは打倒1番に協力してくれるのか?」

 勝手に戦略に組み込むワケにはいかない……のだが、この三人が協力をしてくれないとなるといよいよ詰みゲーとなってしまうので首を縦に振って欲しいと言うのが正直なところだ。

 そんな俺の意図を汲み取ったかそうでないかは知らないが、嬉しい事に三人とも首肯してくれる。

「助かる。で、まず双子ちゃんに聞きたいんだが……高校調べた成果はあったか?」

 結論から言えば、図書館にはばっちり1番のデータが保管されていた。だから、姉妹ちゃんには悪いが「高校で見付けたよー」と言われても大して嬉しく無い。

「あー……データは見付けられなかったんだけど、ていうか職員室のパソコンは教師しかいじれないように設定されてたし、資料室にいたっては教材しか置いてなかったからねー」

 つまり高校はハズレだったと言う事か。無駄足を踏ませてしまって申し訳ない気持ちが「あっでも」と言われたので消え失せた。

「1番が学校エリアと別エリアをちょくちょく移動してるのを見たよー」

「でかした」

 勝率のある戦略を立てたところで、肝心の1番を見付けられないのでは話にならない。だが、1番の出現場所がある程度割れていれば手間も省けるというモノ。

「でも何でそんな事してたんだろうねー?」

「そりゃお前、二箇所を同時に見張る事で効率よく獲物を探す為だろ……番外や712番みたいに中央制御室を探そうとする奴は学校エリアに行くだろうし、別エリアにしても安全地帯に向かうヤツや中央制御室探すヤツとかが通るだろうし」

「なるほどねー……過激派らしい事しっかりしてるんだー」

「俺はむしろ、そんな1番を発見してどうして無事に戻って来れたのかを知りたいぞ妹ちゃん」

 過激派の1番は、つまり見かけた人間全員を殺していると言う事になる。そんなあいつが見張っている中、何事も無く居住エリアへと戻って来れるとは思えない。

「あー、265番が校舎の窓から外を眺めてる時にたまたま見付けてねー。観察してたら三十分置きに移動してるもんだからその隙を突いて、ねー」

 見張りガバガバじゃねぇかやる気あんのか1番。

 とは言え、ナナが部屋に戻ってきてから六時間程たってる現在だ。そこら辺を話し過ぎて無駄に時間を潰してしまってはいけないだろう。1番が具体的にどれくらいの時間を待ってくれるのかが分からないのだから。

「じゃあ俺の成果なんだが、まぁ図書館で1番のデータは見付けたよ」

 おー、と姉妹ちゃんから声が上がる。

「1番は防御魔術が他と比べて苦手らしい。発動までの時間はゴミより少し遅いくらいで、規模とか精度みたいなのは完璧っぽい……まぁ、一応完成度は極めたけど攻撃こそが最大の防御、とでも思ってるんだろうな」

 事実、ナナより速く発動出来る攻撃魔術は凄まじい。規模も威力も序列一位に相応しいモノだろう。

 だからこそ、突くべき穴というモノが見付けられなかったのだ。

「つまり俺の出番か?」

「1番の攻撃より先に防御魔術を発動出来るのならゴミに様をつけて頼りたいところなんだがな、残念な事にお前を前に出したら即死だろ」

「分かってんじゃん」

 ぶっ殺すぞお前。

「だけど、ゴミの防御にでも頼らなきゃどの道全滅するんだわこれが」

「つまりゴミ様が使えれば勝てたんだねー、お疲れ様でしたー」

 無理ゲーだから諦めるわ、と言って両手を挙げて素直に殺される事が出来れば苦労はしないのだが、生憎死んだらそれで終わりなので死ぬワケにはいかないのだ。

 それに、1番と交渉する為の材料や味方に下らせる為の情報も結局得られなかった。

 つまり生き残るには、どうにかして1番に勝たなければいけない。

「で、番外。何か策はあるのか?」

「なぁゴミ、先に準備をしておいて1番と対面した瞬間に防御魔術を発動させる事は出来ないのか?」

 それが出来るのであれば、守りつつ双子ちゃんの攻撃でジワジワ削るという戦法が取れるのだが……ゴミは深く溜め息を吐いた。それが答えである。

「あのなぁ番外、お前魔術大して知らないだろうから教えてやるけど、魔術ってのはあくまでも空間に干渉して現実を歪めるんだ」

 ナナに聞いた説明である。それは当然分かっている。

「現実を歪める、って簡単には言えるけどな? その時の風や空気中にある物質、気温や湿度でも色々変わってくるんだよ。あらかじめコードを準備して即座に発現させるなんてのは物質を出す魔術くらいなもんだ」

「つまり無理って?」

「ああ」

 そうなると、どうしてもゴミの魔術発動までの時間を稼がなくてはならない。気になるのは発動までの最短時間だが――

「じゃあゴミ、1番の攻撃を防げる自信のある防御魔術を発動するまでにかかる時間はどんくらいだ?」

 少し考えるような素振りをしてからゴミは答える。

「十五秒だな。攻撃プログラム相手とはワケが違う……下手にショボいプロテクトを構築しても簡単に突破されちまうだろう。何発か攻撃を耐えられるような防御なら最短でもそれくらいはかかる。それで耐えつつ次の防御を準備って感じになる」

「つまり、1番と対面してから十五秒稼がないといけないってか……はー」

 どう考えても双子ちゃんがそれだけの時間稼ぎを出来るワケが無い。ゴミの防御に隠れながらチマチマ攻撃させて1番を削ってもらうのが最善だろう。

「ってなると俺が時間稼ぎの囮役やらなきゃいけないんだろうなー」

 アレを相手に、ゴミや双子ちゃんに攻撃の矛先が向かないように立ち回りつつ、自分も生存し、逃げ回れと。

「はー、そうなると最初の十五秒が勝負になりそうだな……最悪俺が死ぬにしても、十五秒は稼がないとゴミも双子ちゃんも死ぬ」

 有り得る可能性の話をしていたのだが「それはダメだよ」と唐突にナナから言われる。

「いや死ぬ気はサラサラねーよ……ただ、どうやって逃げ回るかが問題だな」

 少なくとも俺一人では、追いかけっこしながら魔術を使われてそれで終わるだろう。ゴミや双子ちゃんに攻撃の矛先が向くか向かないかは完全に1番依存になる。

 何か、俺の生存率をグッと上げる事が出来て、尚且つ1番の意識をゴミや双子ちゃんに向かわないように出来るモノが無いだろうか……。

 必死に頭を捻って首を回して体を捻じっていると、今まで口を閉ざしていた姉妹ちゃんの姉の方が唐突に口を開いた。

「1番との対決も大変だけど……その途中に攻撃プログラムが出てきたら乱戦になるよね……?」

 確かに、1番ならば簡単に消し飛ばせるだろうが、1番が敢えてそれを無視して俺達に戦わせようとしたら――

「でかした姉!」

「姉!?」

 そう、攻撃プログラム――つまりケルベロスは、普通の人ならば一体だけでも苦戦する強敵である。ゆうきやナナ、1番のような化物連中ならば何体来ようとも楽に処理出来るのだろうが、俺やゴミや双子ちゃんではそうもいかない。

 ならば逆転の発想をしよう。俺達にとっては強敵であるケルベロスを味方にしてしまえば良いのだ。

「なぁゴミ、攻撃プログラムなんて言うくらいなんだからケルベロス達は行動とかプログラムされてるんだよな?」

「ああ、誰がプログラムしたのかは知らないが生存者を襲うように設計されてるはずだ」

「だったらそのプログラム、書き換えられんじゃね?」

 誰が操っているのかは知らないが、指揮系統を奪えたのなら完璧だろう。例えそれが出来なくても、一部のケルベロス達のプログラムを俺達に味方するように書き換える事が出来たのなら、大量のケルベロスを1番にけしかけ尚且つ俺の盾として、時間稼ぎも現実的に可能になるのではないだろうか?

 俺の画期的なアイデアに、双子ちゃんやゴミ、さらにはナナまでもが口を開けて言葉に詰まっていた。まさに鳩が豆鉄砲を喰らったような、である。

「あれ……どうだろう」

 意外な事に、そんな声を上げたのはナナだった。

「少なくとも私や264番には、無理かな……」

「俺も……やってみなきゃ分かんねぇわ」

「マジかよお前ら……俺死んじゃうよ?」

 それはダメ、と再び強くナナが言ってくれるのが心を締め付ける。

「まぁそれを実際出来るかはナナとゴミ次第だからなんとかやってくれって感じなんだけど……普通作戦ってのはいくつも練るモノだ。このプランがダメならこのプランに移行して、それもダメなら違うプランにって臨機応変に対応出来るようにな」

 だが、俺は策士でも無ければ軍師でも無い。ようやく思い付いた作戦がケルベロスを大量に操って時間を稼ぎ、ゴミの防御に隠れながら双子ちゃんの攻撃でチマチマ削ると言うものだ。

 そして、作戦はちょっとした事で崩れるモノだ。ましてやそれが一つしか無いとなると、それ通りに進めなければとゴリ押しをしてしまう。

「先に言っておくが、作戦通りに物事が進むとは思うな。そして、少しでも作戦が崩れたら即逃げろ。囮役の俺は確実に無事では済まないが、戦力を失わなければまた立て直せる」

 そんな事をわざわざ言わなくても、ゴミや双子ちゃんは逃げるかもしれないが……俺は死にたくないし死ぬつもりも無い。作戦が順調に進んでもその三人が途中で逃げ出さないとも限らない。

 だから、自分の身を守れる物を用意する必要がある。

 欲を言えばスモークグレネードのように、姿をくらませる事が可能な量の煙を出せる物が欲しいが――

なんでそんな事を言うんだ、といった表情をしているゴミになぁと声をかける。

「スモークグレネードって知ってるか?」

「なんだそれ」

 予想通りの反応をありがとう。恐らくこの未来世界には煙を発生させるような物は存在していないだろう。だったら自作すれば、と言いたいのだが生憎煙を発生させるメカニズム、必要な材料が少しも分からない。

 俺が作り方を知っているのは、火炎瓶と花火くらいなものだが、どちらも逃走用とは言い難い――いや、花火ならば目くらましにはなるだろう。多少なりとも煙も発生するし、使えない事は無いだろう。

「ゴミ、俺が今から言う物を用意してくれ。分からない場合は仕方ねーから聞け」

「それが人への頼み方とは恐れ入ったぞ番外」

「ははは、こちとら十五秒も1番を足止めせにゃならんのだぞ? 死地に赴く勇者に最大限の敬意を払ってはどうだね」

「へいへい分かりました。で、何を用意すればいいんだ?」

「中身が空の瓶、ガソリン、瓶の口にフィットするコルク、セロハンテープ、割り箸、ライター、黒色火薬、粉末の金属……はマグネシウムだな。あとはなんかこう、丸く包めるヤツ」

「最後だけ適当だな」

「厚紙、って言いたいとこなんだが俺にはそれを丸く包めるだけの技術はねーからな」

「材質は紙でいいのか?」

「神かよ、頼むわ」

 ていうか分からない物無かったのか、と俺は素直に驚いた。セロハンテープや割り箸は分からない物認定されそうだな、と勝手に思っていたが便利グッズはこの時代でもしっかりと使われている――もしくは知識として伝えられているようだ。

「紙だけに? まぁこれから様を付けて呼んでくれていいんだぜ?」

「はいはい53番様は凄いですねーわーすっごーい」

 それだけの材料があれば火炎瓶に花火、攻撃用としての爆薬が用意出来る。黒色火薬と言うのは衝撃だけで爆発すると聞いた事がある。それを紙で包んだものを投げつければ、当たるだけで爆発する。勿論下手に衝撃を与えられないので持ち運ぶのは危険で、慎重に扱わなければならないが、鉄パイプで殴るより確実にダメージを与えられるだろう。

 キーボードを出現させ、俺の言った物を用意しようとしてくれているゴミを見つつ俺は本題へと入る。

「で、問題なのはケルベロス――つまり攻撃プログラムだな。あいつらの指揮系統を奪えるかなんだが……ナナには頼れない。だからゴミ、お前にかかってる」

「俺頼られっぱなしじゃね?」

「魔術ある程度使えて今動けるのお前しかいねーからだよ察しろよ」

 分かった分かった、そう言いながらゴミは手を動かす。

「実際対面してみて、それから試してみないと何とも言えないな」

 つまり、ケルベロスを出現させ対面し、ゴミがそれを試す時間を稼ぐ必要が出てくる事に……。

「俺の負担やばすぎない?」

「仕方ねーだろこの中で一番動けるの番外なんだから」

 察せよ、と返してくる。

 当然分かっている、仕方の無い事だ。きっとゴミと双子ちゃんもナナも心が苦しい事だろう。でも、そんな事をやれるのは俺だけだ、下手にナナがその役割を担えば時間を稼ぐどころか一瞬でカタをつけてしまうだろう。

「やるしかねーよなぁ……1番と戦う前に死にそうだなぁ」

 逆に1番と戦う前の前哨戦、準備運動だと考えれば少しは気も楽になる。だが、ケルベロスに多少対抗出来るようになったからと言って余裕とは程遠い。1番に会った後ケルベロス四匹と命のやり取りをしたが、もうあんな思いは懲り懲りである。ただでさえ首の怪我があって大きな動きは取れないと言うのに、あれだけ見事なコンビネーションを見せてくるものだから流石に死を覚悟した。

 それはダメ、とまた言いそうにしているナナを先に手で制する。

「取り敢えず先に言われたもの用意するからもう少し待ってくれ」

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