第31話 はぁ?治療術師?って、いつものようになりたいではなくなったんですね。頑張ってください!①
「ユフィ、今日から僕は治療術師だ!」
「はぁ……」
前回の偽リフェレットのせいなのかはわかりませんが、風邪をひいて休んでいる私を前にして旦那様が宣言し始めました。ちなみに本物のリフェレットはすぐに探索して馬車に乗せられているところを救出しました……やる気十分の旦那様が。無事でよかったです。
それにしても、いつもなら何かになるぞと言い出すのですが、今回はもうすでになっているそうです。
だったら本物のリフェレットにカッコつけて何か叫ぶ前に早く治してください。喉も頭も間接も痛いの……。さっき遊びに来てくれたレオンが私に抱き着いて来るから、ごめんって思いながら『めっ』てして引き離さないといけないくらい辛いのよ早く……。
「ではユフィ、そこに寝て……るな、すでに。じゃあいくよ」
「お願いします……」
「ケロリンチョップ!」
「……」
なんか今、変な言葉が聞こえ、頭にチョップされたような気がします。ケロリン? カエル? やめて……私、カエル嫌いなの……。
「いやぁあぁぁああぁぁあああああ」
「ぐはぁ……なっ、なんで……」
思わず旦那様に腹と顎にパンチを入れてしまいました。
あれ? 体が軽い……?
「せっかく治したというのに……」
「あっ……すみません。その……ありがとうございます。今のは回復魔法の名前か何かですか?」
ちょっと拗ねた表情の旦那様に謝りつつ聞いてみた。
「そうだ。この魔法を使ってチョップすると、どんな症状も回復するという優れた技なんだ」
「てっきりカエルにでもされるのかと……」
「違う! どんな病気でも"ケロリン"と治るからそう名付けられたんだ。かの偉大なる異世界の大魔導士が……」
興奮した様子の旦那様からよくわからない説明を長々とされましたが、最後のあたりで『素晴らしい女性で、とても美しく、甘えたがりで体つきも最高で抱き心地が……』とか言った時点でもう一度殴り飛ばしてしまいました。
もう大丈夫です。ばっちり回復しましたから。
異世界の大魔導士さん、ありがとうございました。
というようなことがあって、めでたしめでたしで全く問題なかったのですが、旦那様はそのままの勢いで出かけて行きました。
「僕の能力はわかっただろうから、僕は街の治療院で働いて来るぞ!」
できるならありかもしれませんが、息子レオンの守護騎士という話はどこに忘れてきたのでしょうか?
そんな疑問をぶつける間もなく行ってしまったので、我が伯爵邸では通常の警備体制に戻しました。
そして……。
「旦那様が治療院で働いたせいで、本職の方が退職してしまって戻ってこれなくなってる? どういうことですか?」
もしかしてあまりの卑猥さとかで敬遠されたとか?
それで帰ってこれないなら帰ってこないで、ずっとそこで働いてもらって構いませんよ?
そんな心境でしたが一応は報告してきた執事長の話を聞きます。
「実はもともとその治療院で働いていた方がケガで休養されていたそうで、その方のお孫さんが手伝っていたようなのです。しかし本職は別にある人だったので、旦那様が来たことをこれ幸いにと、旦那様に全てを任せていかれてしまったようです」
「なるほど……」
旦那様に普通にお願い事ができるということはきっと女性だったのでしょうね。そしてポイされたと。
ずっとそこにいてください。
「それで帰るに帰れなくなった旦那様が泣きついて来られまして……」
「20年くらい無視しましょう。そうしましょう。決定です。次の話題に……」
「さすがにそれはまずいでしょう」
ですよね……。
「旦那様の"ケロリンチョップ"とやらでその元の治療術師さんを回復してあげればいいのではないですか?」
死の床にあるとかだったとしても回復しそうな気がするのですが……。
「それが……」
なぜか言いよどむ執事長。なにかあったのですか?
「老婆を前にして萎えたとか仰られて魔法が使えなかったそうです」
「は?」
ふざけた理由が旦那様らしくて清々しいくらいですが、そもそも治療院での治療はどうやっていたのでしょう。
「ちなみに治療院でも若い女性と子供には"ケロリンチョップ"を。それ以外には適当な回復魔法を接触することなく使っていたそうです。ただ、その魔法だと治療術師を直せなかったようでして」
どこから突っ込めばよろしいでしょうか?
まずはそうですね。『若い女性だけではなくて子供にもちゃんと魔法を使ってて偉いね~』とでも言えばいいでしょうか?
そもそも患者を差別するなんて最低すぎて治療術師の風上にも置けませんと叱ればいいでしょうか?
それとも、若い女性の括りに風邪を引いた私も入れてくれていてありがとうと言えばいいでしょうか?
もうツッコミどころだらけで、相変わらず面白い旦那様ですわね。
もちろんこのまま放置です。治療院から治療術師が消えてしまうことに対しての罪悪感をなぜか持ち合わせているようなので、自分がやったことの責任は自分で取るようにと伝言を送りました。そして、頭の中から消し去りました。
「酷いじゃないかユフィ!」
「あら、お帰りなさいませ」
「あっ、あぁ」
私が丁寧に礼をしたあと、すり寄って頬にキスしたらあっさりと怒りが霧消したようです。
浮気してばかりであまり気にしてもらえないのでてっきりただの幼馴染の友人くらいに思われているのかと思ったら……案外私のことはちゃんと女として見ているのかもしれませんね……。




