第19話 はぁ?孤児院の院長になりたい?そんなことをしたら子供たちに悪影響なので却下です!①
「ユフィ! 僕は決めた! この領地の未来を担う孤児たちを強くたくましく育てるため、孤児院の院長になるから手配してくれ!」
「なにを企んでいるのですか?」
「うっ……」
私が久しぶりにアーゼンベルク公爵からの私的なお茶会の誘いを受けて準備していると、突然入って来た旦那様が孤児院の院長になりたいなどと言ってきました。
どう考えても適任ではありませんし、いつもの通り裏があるのでしょうし、こんな旦那様を派遣しては孤児たちの育成にも悪影響しかないでしょう。
いつもは『やらせてみましょう』という精神で送り出すのですが、これはさすがにダメです。多感な時期の子供に旦那様をぶつけるなど、もってのほかです。
我が領の孤児院は遊び人育成学校ではないのですから。
「なぜダメなのだ?」
「浮気性で飽き性で仕事はしない旦那様を子供に接させるなど、ありえませんわ。どうせ働いている女性に恋でもしたのでしょう? そんなのは娼館でお願いします。何なら娼館長にして差し上げましょうか?」
「酷い! 酷いぞユフィ! 僕はただ孤児院の職員をしているフェルムが最近財政難だと言っていたから手伝ってあげて、孤児院の状況を改善してあげようとしただけだぞ!」
偉そうに言っているが、どう見ても酷いのはあなたの方では?
だって、そのフェルムという女性はあなたの愛人または懸想している相手の一人でしょう?
それを一応は妻である私にもっともらしい理由をつけて近づけさせろと言ってくるのは酷くないのですか?
あぁん!?
という類のことを懇々と説いたところ、ぐったりして出て行きました。
しかし気になりますね。
旦那様のことではありませんよ?
孤児院のことです。
我がクルスローデン伯爵家の運営する孤児院には十分な予算をつけています。
我々は長らく戦争なども行っておりませんし、魔族や魔獣が暴れたということもないので、孤児院にいるのは本当に両親を亡くした者や、犯罪者の子供、それから片親では育てられないので預かった者などです。
犯罪者の子供も受け入れているのは、子供に罪はないからですわ。
さらに子供たちには伯爵家によって、一定の教育を与えています。さすがに王侯貴族や豪商などの子弟が受ける学校教育には及びませんが、領内の一般的な学校に近い教育を与えています。
彼らもいずれは伯爵領民になるのですから。
もちろん、孤児院に不満が集まったりはしません。なにせ、伯爵領内では一般の学校も無償ですから。
もともと堅実な領地運営を数代続けておりますし、アーゼンベルク公爵家との事業をはじめとして様々な事業で成功しておりますし、さらにはドラゴン様のご協力などもあるクルスローデン伯爵家は王国内でも有数の資産家です。
だからこそ、あの旦那様を養っていても醜聞で潰されるようなことはないのです。しかも、それによってアーゼンベルク公爵に恩を売れていて、こうして定期的にお茶会に誘って頂いては贈り物を頂いておりますわ。
ではなぜアーゼンベルク公爵家が他家に婿に入った旦那様をいまだに気にしているのかというと、旦那様が先代公爵様の奥様……つまり、現公爵様の義母の最愛の息子だからです。
現公爵様は側室の子で、旦那様は正妻の子なのです。
年齢は現公爵様の方が上ですが、力関係で言えば、普通は旦那様が公爵位を継ぎます。ただ、ご存じの通りアレなので、前公爵様が指名しなかったのです。
それに怒り狂う正妻様……とはならず、なんと旦那様は多額の結納金や利権、商売上の美味しい契約などをくっつけられた状態で、我がクルスローデン伯爵家にやって来たのですわ。
そして面倒を見てあげている私に対して、正妻様は……
「エラルドにはもったいない素晴らしい奥さんね、あなたは」
「いえ、もったいないお言葉ですわ」
顔を合わすたびに褒められ、煽てられ、お茶やお菓子を与えられ、帰りには贈り物までいただけるのです。
旦那様との結婚という1点で考えれば大地を突き破って地下にあるという伝説の魔宮に届きそうなくらいのマイナスですが、アーゼンベルク公爵家の庇護を受けられ、さらには王族の血を引く前公爵の奥様から可愛がられるという点で、かろうじて地上に顔を出せるくらいにはなります。
そう、目の前にいる煌びやかに飾り付けられた義母様は、現国王陛下の姉です。
彼女はエラルドを溺愛しつつ、その女好きにだけは理解を示さないという、ちょっとなに言ってるかわからない女性です。
エラルドから女好きを取ったら、ただのバカで怠惰な豚です。どこがいいのでしょうか?
とか言ったら、本気で首を切られそうなので言いませんが、すみませんが理解不能です。なお、異世界の記憶が訪れた頃から、なぜかエラルドから贅肉が落ち、凛々しい男性になっていますが、主に浮気が激しくなる方向にしか向かっていないので私から見れば宝の持ち腐れです。
そんな彼女はエラルドの浮気が嫌いなので、今日もその話で大賑わいです。
「まったく、こんなに可愛いユフィちゃんを蔑ろにしてあの子は……」
「すみません。私が至らぬばっかりに」
「そんなことはありません! 浮名こそが貴族の華などと言って嬉しがっている殿方など、全員アレを切り飛ばせばいいのです」
「おぉ……」
だいぶ過激な話をされる美魔女な義母様……。
「じゃあね、ユフィちゃん。困ったことがあったら、この私に言うのよ?」
「ありがとうございます。もし旦那様がなにかお願いに来られても、孤児院関係や商売関係などは却下していただけると、とてもありがたいです」
「わかったわ!」
予定されていた時間を大幅に超過したものの、上機嫌なお義母さまに送り出されます。そしてお義母さまがやってきて話し始めてからはしれっと退散していた薄情な公爵様から上等なワインを貰って私は帰宅しました。
そんな私たちの馬車の横を見覚えのある馬車が通った気がしましたが、まぁ放っておきましょう。
翌朝……。
「酷いじゃないか、ユフィ! 僕のあることないことを母上に告げ口した上に、僕を子供に近付けさせないなんて!」
「胸に手を当ててお考え下さい。この領で真っ当に働いてくれる子供を育てるのにご自身が適任かどうかを」
「むぅ……」
そこで言い淀む時点でダメだと思うのですよ、私は。




