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第二話 従者の面接

 目の前には無表情の男が立っている。


 従者の面接に来た男で名前はルート。バーミリオンのおっさんがゴリ押ししてくるほどだから、いったいどんな優秀な奴かと思っていたが……


「遅刻、か」


「申し訳ありません」


 なん感情も含まれていない謝罪の言葉。そこへ紅茶を淹れたウルムが入って来た。上機嫌に鼻歌を歌いながら紅茶を魔法で操作し、俺とルート前に浮かせていく。


「帰れ。お前は不採用だ」


「ええぇぇ!? どうして!? ボク言ったよね、絶対雇うからね!」


 おい、紅茶の操作に集中しろよ。溢れるところだったじゃないか。どういうわけか俺のだけな。絶対わざとだろ。


 それにウルムはルートの何を見てるんだ。従者の面接に遅刻する奴だぞ。まともなわけがない。


 これなら、罠を仕掛け直す必要もなかったな。


「どうしてもなにも、俺は遅刻する奴が大嫌いだ」


 お、今日の紅茶は美味いな。少し(ぬる)いのが残念だが。


「へ? 遅刻? ボク何のことか理解できないんだけど……」


 あん? いつもは蔑んだ目で嫌味を言って癖に、珍しくウルムがポカンとしている。


「この部屋に入室するのが約束の時間より二秒遅れた」 


 従者とは時間に正確でないといけない。例えそれが秒単位でもだ。つまりコイツは従者じゃない。だから雇わない。


「ねえ、本気で言ってるの? 君さ、昨日は久し振りの仕事だったってのに八時間も遅刻したよね?」


 そんな顔を近付けなくても聞こえてる。キスでもしたいのかよ。


「何のことだか」


 俺は従者じゃない。それに昨日のは別に遅れたっていいだろ。エデスタッツ樹海の調査だなんて、探索魔法を使えば数分で終わるんだからな。


「ふ~ん、そっかそっか。まあ、八時間は遅刻じゃないよね。無断欠勤だもんね。仕事は時間通りに行ったボクが九割以上したわけだし。うん、フレッドは遅刻してないよ」


 なんだ、いつもと同じじゃないか。さっきの表情は本気で理解できていなかっただけか。


 熱っ!? こ、こいつ……俺が飲むタイミングで紅茶を沸騰させやがった。こんなことに魔法を使うとは、なんて陰湿なドラゴンなんだ。


 この面接が終わったらウルムが大切にしている、スライムの核コレクションをバレないように処分してやる。


「とにかく俺は従者なんかい――」


「ルート、気にしなくていいからね。君は採用だよ、安心して良い」


「ーーー!」


 なに勝手なこと言ってやがる。こら、紅茶を勧めるな、契約書にもサインさせるんじゃない。


「じゃあお疲れ様。今日はもう帰っていいよ。仕事は明日からお願いね。ボクが厳しく教えてあげるから覚悟してなよ」


 声がで出ない。ウルムの野郎、沈黙魔法をかけやがったな。まださっきの魔法封じが解けていないせいでウルムの魔法を打ち消せない。


 契約書を仕舞っているウルム睨んで、魔法を解くように催促するが無視された。


「今日は遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした。今朝、バーミリオン様が亡くなったもので支度に時間がかかってしまいました。明日から宜しくお願い致します」


 ルートが退室前に綺麗な御辞儀をし、衝撃の発言をした。


 バーミリオンのおっさんが死んだ? 嘘だろ?


「えぇぇ!? そうなの!? そんな日に面接だなんて……ごめんね。ルートは大丈夫? 早く帰って御葬式の準備しなきゃ。ボク達も手伝うから。ね、フレッド?」


 ウルムがルートの前に飛んで行き慰めている。


「ーーーー!」


「フレッド? どうして黙ってるの? 君だってバーミリオンさんにはお世話になっただろ? それなのに息子のルートに何も言わないなんて……君がそんな薄情者だとは思わなかったよ!」


 ウルムが元の大さに戻りルートを咥えて飛んで行く……屋敷の殆どを吹き飛ばして。


 何も言えなかったのはウルムのせいだろ。俺だってルートに慰めの言葉くらいかけたかったさ。


 バーミリオンのおっさんは間接的にだが、良く世話を焼いてくれた。死んでなんとも思わないわけがない。


 なのに、ウルムのあの物言いと屋敷の大破壊。これを理不尽と言わず何と言おう。


 俺は瓦礫を掻き分けて宝石グミを探す。仕返しの意味も込めて、一粒クランバイア金貨三百枚もするあれを食ってやる。呪い以外全ての状態異常を解除できるあの宝石グミを。


 三十分探してようやく宝石グミを見付けた。よし、流石宝石グミだ。一瞬で魔法封じが解除される。家は後でウルムに直させよう。


 俺は飛行魔法を使って屋敷……もとい、瓦礫の山を出発した。




 バーミリオンのおっさんの家に着いたが誰もいない。仕方がないので隣の家の婆さんにウルムが来なかったか聞いてみる。


 あいつは元の大きさに戻るとアホみたいにデカいからな。いくらクランバイア王都に入るときは小さくなるとはいえ、ルートを咥えて移動していたから目立つ――そうか、見ていないのか。


 ふむ、どこへ行ったんだ? 俺はバーミリオンのおっさんの家に鑑定魔法と短期歴史解読魔法を使った。


「……戻ってないのか」


 多少気になることもあるが、それは後回しで良いか。面倒だが、王族の敷地を避け王都全体に探索魔法を使って……


 チッ、あいつら王都にいないじゃいか。あー、もう止めだ! その気になればこの国の半分くらいなら、余裕で探索魔法の範囲を広げられる。だが、それをすると情報が多過ぎて頭が痛くなってしまう。


 今日初めて会ったルートの為に、そこまでしてやる義理はない。


 帰るか……いや、せっかく王都まで来たんだ。何か旨い物でも食って帰ろう。


 うーん、ブラウンスライムパイかココテシアの包み焼きなんて良いかもしれない。バーミリオンのおっさんも好物だったしな。


 俺はグリモアニアの店かスモルルフェアリーの店、どちらに行くか悩みながら、王都の町を歩き始めた。

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