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大会前夜 ~下剋上聖恋大会①~

人は彼らを“草食系男子”と呼んだ。

 7月19日。夏休みを目前に控えた私立“青連高校(せいれんこうこう)”。都内の高校でありながら日本で屈指のマンモス校であり、広大な敷地と建物に総勢1万人を超える生徒が通っている。1学年だけでもかなりの量だけど、それでも入学希望者は毎年定員を遥かに超える人数が集まるという、超名門校だ。そして僕は見事合格を果たし、4月から1年生としてここに通っている。……でも、人と付き合うのが苦手な僕にとってはちょっと息苦しい場所だ。というのも、ほんの1年前までは勉強も運動も全くと言っていいほどダメだった僕がここに入学することになるなど一体誰が想像できただろうか。正直自分でも信じられなかったくらいだ。……まぁ、運動の方は今も相変わらずなんだけど。

 じゃあどうしてそんな僕がここにいるのか。それには2つの理由があった。1つ目は、中学校の時から……その、片想いをしていた御月みつき優子(ゆうこ)ちゃんもこの学校に進学すると聞いて……まぁ、思春期の少年にありがちな選択をしてしまったわけで。ちなみに言うと、今年も同じクラスで……うん、そんな感じだ。

 2つ目は……


「カズ……おいカズ! 臨条りんじょう一真かずま)!」


[青連高校東棟1階・1-S教室]


「ふたつ……め、ふた…………ひっ!? ……あ、うん、なに? 英志(えいし)


 僕が顔を上げると、1人の男子生徒がやや不機嫌そうな顔をして机越しに立っていた。青連高校指定の夏用制服に身を包み、1年生の証である赤いネクタイをしめた僕の数少ない親友、友久ともひさ英志(えいし)だ。ちなみにネクタイの色は2年生が青、3年生は黒である。


「“なに?”じゃねーよ。寝ながらブツブツ独り言呟いて気持ち悪いっての。ったく……で、結局お前は参加すんのか? ……アレ」

「あ……アレって?」

「はぁ!? とぼけんなよ! ほら……アレだよ、例の大会」

「あっ……うん、それは……」

「……は? おい、まさか行かねーとか言うんじゃ……」

「ちっ、違うよ! いや違うっていうか、もちろん行きたいけど、その……ほら、色々心の準備が……」

「……ふーん。で、その“心の準備”ってのが出来るのは一体いつなんだ?」

「うーん……難しい質問だね、ははは……」


 僕がそう言うと、英志は両手で僕の机を叩いた。


「ひぃっ!」

「バカ言ってんじゃねぇ!大会は夏休み初日、つまり明日なんだよ! それともあれか……優子ちゃんを諦めんのか!?」

「え? ……………………いやいやいやいや、諦めはしないよ! しないけど……その、大会に出るのは……やっぱりリスクが大きすぎて……」

「リスクがどうした!? んなもん怖がってたって一生前になんか進めやしねーよ! いま大事なのは、こっから一歩踏み出すかどうかだろ!」

「…………」


 ――2つ目の理由。それはこの学校に存在する、ある伝説を耳にしたからだ。


 毎年夏休みにこの高校のどこかで行われる、在籍する男子のみが参加を許される【こくじょう聖恋大会(せいれんたいかい)】(名前は高校名をもじっている)。その大会の優勝者は必ず好きな女の子と付き合うことができる……というものらしい。最初に聞いた時はさすがに冗談じゃないかと思っていたけど、これがどうやら本当みたいだ。噂話の中には、“過去に実際にテレビのCMに出演するような芸能人と付き合った者もいた”という嘘か本当かよく分からないものまである。一体なぜそんなことができるのだろう……それは英志も含めて今年から入った僕達では分からない。実際に行って確かめるしかないと思う。

 でも、分かっていることもある。それは“大会優勝により成立したカップルは全てその関係が今も継続している”ということ。つまり、優勝してリア充になれなかった者はいない、なおかつその効果は半永久的に持続するという事だ。ちなみに、この大会が最初に行われた時に成立したカップルはすでに“結婚”しているらしい。


 つまり、この大会はもはや単なるモテない男子達の夢物語を描いたジンクスなんかじゃない。この高校で実際に起こる紛れもない“奇跡”……あるいはそれ以上の存在として扱われているのだ。


「でも……僕なんかが優勝なんて出来るわけないし、それにもし失敗したら……」


 ――でも、逆にこんな噂もある。“その大会で優勝できなかった者は、その後絶対にリア充にはなれない”というもの。つまり、“負けたら一生彼女が出来ない”という本気でシャレにならない超ウルトラハイリスクを背負わなければならない……これこそ、僕が大会に参加したくない一番の理由だ。実際、大会の敗者で彼女を作れた人は未だにいないという。メリットが大きい分、代償も半端じゃないくらいに大きい。


「オレとお前の恋なんてダメで元々だろう!? ならいっそド派手に散ってやろーぜ!」

「うーん……」


 一度大会で敗れた者がリア充になるためは、“卒業までに大会で優勝”しなければならない。そのため、大会の敗者で自主留年を希望する者も少なくないらしい。……つまりそれは、一度参加してしまったら本当に引き返せないという事を意味しているのだ。


「――このままでいいのかよ? 大好きな優子ちゃんに想いも告げられないまま、“草食系男子”と呼ばれて一生を過ごす……それでいいのかよカズ!? このままだったら……お前が中学校の頃からずっと見てきた優子ちゃんは、いつかどっかの名前も知らないモテ男にとられちまうぞ! それをお前は指加えて……!!」

「ちょっ、声でかいよ英志! 抑えて抑えて!」


 ……………………。


 慌てて教室を見渡すが、どうやら放課後ということもあってクラスの男子しかいないようだ。セーフ!  ……いやセーフじゃないけども!


「うぅ……もう」

「はぁ……悪かったよ。…………で、どうなんだ?」


「…………」



 ……どうしたらいいか自分でも分からなかった。正直に言うと無理をしてまで出たくないという気持ちも大きかったが、英志の言うようにこのままではいけないと思う自分もいて……今日まで答えを出せなかったのだ。

 でも、大会は明日。もう迷っている時間はない。今決断しなければ一生変われない……それに、これ以上自分の気持ちを誤魔化し続けることもしたくない。だから――


「…………嫌だよ。優子ちゃんは誰にも渡したくない」


 ――この想いに、嘘はつかないと決めた。


「じゃあ……出るんだな、カズ」

「……うん」


 ……そうだ。優子ちゃんは他の誰にも譲れない。優子ちゃんへの想いの強さなら僕は誰にも負けないんだ!


「……そうか」


 僕の答えを聞くと、英志は少し恥ずかしそうに……そして、とても嬉しそうに僕の手を取る。……ん?


「よっしゃ、決まり! じゃあ早速今からエントリーだ――ッ!!」

「え!? ちょっ……わぁぁぁぁッ!」


 その手を持ったまま、英志は勢いよく教室の外へ駆け出した。彼の耳に僕の叫びなど届くはずもなく――半ば引きずられるような形で、僕は教室を出た。


「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇ――――――ッ!!!」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[青連高校東棟1階・第一学年教室前廊下]


「ん、どうしたのユウ? ドアに張り付いて座り込んで。そこにいたら邪魔だよ? ……あれ、なんで顔赤いの?」

「一真君が……? うそ……」



 ……そして、本人に聞かれていた。


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