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Look For The Truth !

5…Look For The Truth !《真実を探せ!》


 父の遺した書面に、もう一度目を通す。

 そうして、何が何だか未だに上手く呑み込めていない自分がいることに気付いた。

 思わず溜息が漏れる。


 そもそも、亜米利加かぶれっていう文面はどうだろう?

 私はそんなにアメリカを贔屓している訳じゃない。

 寧ろ、どちらかと言ったら日本の方を贔屓している…と、思う。

 然し、だからと言って、彼は耄碌もうろくしていた訳でもない。

 …となると、父は何かのヒントのつもりで「亜米利加かぶれ」と書いてくれたのだろう。そうとしか考えられない。


 やはりここは「亜米利加」と書かれているから、セオリー通りに英訳してみることにしよう。

 そうなると辞書が必要になる。

 この娘の部屋にある和英辞典をこっそり借りてしまおうと思い立ち、私は悪戯っ子宜しく一人笑みを零す。

 軽く本棚を探すと、お望みの和英辞典を見つけた。


 ただ、訳す際に気になる点が一つある。それは「【 】」の存在だ。

 中に入った三種類の言葉も訳すのだろうか。

 三つとも同時に訳すのは骨が折れるので、それぞれの言葉を、元の文に振り分けて訳してみよう。

 …と、思ったのだが、如何せん英文を訳す作業なんて久しぶりで、さっぱり上手くいかない。

 にっちにもさっちにも思考が及ばなくなったので、違う方面から攻めることにする。


 「【 】」という表記方法は、テストの問題の選択肢を彷彿とさせる。

 まるで、「この中の正しい言葉を選んで○をつけなさい」という、典型的な問題のようだ。


「……ん? 待てよ?」


 今、自分が物凄く重要なことを考えたような気がして、慌てて自分の脳内に声を掛けて、ストップと巻き戻しを要求した。

 もう一度、今度はゆっくりとその考えを咀嚼する。

 そして、それに付随する内容をゆったりと思い返していく。


 「この中の正しい言葉を選んで○をつけなさい」


 「【 】」という表記方法が指し示す真の意味は?

 真相は全てを探しても出て来ない。

 何処かに一つだけ残されているものが真相。

 幾つも見つかった真相は、一つを除いて全ては夢幻…。


 私の考えた「まるで」は、若しかしてまるきりそのまま真実なのではないだろうか?

 「【 】」の中のどれか一つが、父の示す「真実」への手がかりなのでは?

 そして、その中のどれかを英訳すると、真実に一歩近づくのではないだろうか?


 まず初めの「意志」を英訳してみよう。

 娘の和英辞典をパラパラと捲る。すると、「will」という名詞が現れた。


「……やっぱり、英訳するだけじゃ何もわからないか……」


 そう言いながらも、一応「思想」を探してみる。「thought」と出た。

 やはりこちらも、これだけでは何の判断も出来ない言葉である。

 最後の「主義」は「principle」で、これだけではどう足掻いても父の真意を推し量れない。


 どれだけ睨めっこをしていても、敵は中々に強力で、私に屈してはくれない。

 いっそ自棄になって、この英語を和訳してみようか?

 折角本文にも「行ったり来たりを繰り返して」って書いてあることだし。


 そうと決まれば、早速和訳の始まりである。

 全く意味の無い行動を取っている自分が、訳も無くおかしかった。

 然しこの後、私は再び口をあんぐりと開ける羽目になるのである。


「『遺書』……?」


 それは、「will」の意味を探した口から放たれた言葉。

 なんと辞典に依れば「will」の名詞には、「意志」以外の意味も潜んでいるのだという。

 そして、潜んでいる意味の中の一つが…「遺書」なのであった。

 遺書の中で「遺書」という単語が使われている。果たしてこれは偶然の一致と言えるだろうか?

 否、言える訳が無い。

 でも念の為、他の単語も和訳しておこう。

 「思想」の「thought」は「思想」、「主義」の「principle」は、「原則」という言葉に摩り替わった。だが、どれも父の死に近づきはしなかった。

 ――…たった一つ、「will」を除いて。


 暫定的な正しい意味を理解したところで、父が私に宛てた文章に、翻訳し直した言葉を当て嵌める。

 遂に「 」の本文中を正しく読み直す機会が訪れた。

 すかさず大声で読み上げる。


「私の『遺書』は、この一つで終わるとは限らない。

 その『遺書』は、私の間違った『遺書』の中に、今も尚、息づいている」


 読み上げたことで、予感は確信に変わった。

 父は、もう一つ遺書を作っている。

 そしてそれは、彼が間違えて書いてきた遺書に埋もれるようにして、今尚父の部屋に存在している筈なのだ。

 つまり、間違えた遺書が仕舞われる場所を探せば良い。

 普通、間違えたものはゴミだから捨てる。

 よって、ゴミ箱に真実がもう一つ隠れているに違いない。

 恐らく私はまたしても「事実は小説より奇なり」を痛感することになるのだろう。

 半ば強引な「推理もどき」を心に抱えて、私は隣の父の部屋へ続く引き戸を開けた。


 「……あった……」


 部屋に入ってから暫しの時を経て、漸く私は真相への片道切符を手に入れたのだった。

 手に入れた瞬間に、今までのお子様遊び用の切符なんて何処かへ手放していた。

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