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BAND  作者: こう
BAND

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4/15

第4話 夜勤

B-24。


三浦陽平は、扉の向こうへ一歩踏み込んだ。


背後で扉が閉まる。


ガチャ。


その音が、妙に大きく聞こえた。


「……」


三浦は少しだけ振り返った。


別に鍵が掛かったわけではない。


ただの扉だ。


それでも、昼間までの倉庫とは空気が違った。


照明が少し暗い。


棚の並びも違う。


何より、人が少ない。


昼間の倉庫は、フォークリフトの音や作業員の声が常に飛び交っていた。


ここは静かだった。


奥に三人。


作業着姿の男が二人。


スーツ姿の男が一人。


三浦が持ってきた小さな荷物を見る。


「三浦さん?」


作業着の男が声を掛ける。


「あ、はい」


「それ、こっち」


「あ、了解っす」


三浦は荷物を運んだ。


机の上に置く。


「これでいいです?」


「うん。ありがとう」


普通。


驚くほど普通だった。


三浦は少し肩の力を抜いた。


さっき坂東に「帰ってこい」と言われたことを思い出す。


――やっぱ気にしすぎちゃう?


そう思いながら在庫表を見る。


「これ、サインどこです?」


男が紙を見る。


「いらんよ」


「え?」


「それはこっちでやるから」


「でも俺、持ってきた記録だけ――」


「大丈夫」


「……そうっすか」


三浦は在庫表を持ったまま立っていた。


仕事柄、記録が残らないことが気になる。


ただ、ここでは自分は派遣社員。


相手のやり方に口を出す立場ではない。


「じゃ、戻りますね」


「ああ」


三浦は扉へ向かった。


その時。


奥で誰かが箱を開ける音がした。


ガムテープが剥がれる。


何となく振り返る。


中に入っていたのは段ボールではなかった。


白い保冷ケース。


医療機関で見かけるような、厚手のケースだった。


「……」


側面にシール。


三浦には一瞬しか見えなかった。


医療法人――


その先は男の身体に隠れた。


「三浦さん」


呼ばれる。


「あ、はい」


「どうした?」


「いや、なんでもないっす」


三浦は扉を開けた。


廊下へ出る。


扉が閉まる。


ガチャ。


数歩歩いてから、三浦は立ち止まった。


「……医療?」


ライオン運輸が医療関係の荷物を運んでいても、別に不思議ではない。


物流会社なのだから。


ただ。


昼間は端末に存在しなかった。


在庫表にも正式な入庫番号がない。


そして、サインもいらない。


「……」


ポケットの中でスマートフォンが震えた。


三浦はようやく思い出す。


「あ」


取り出す。


着信履歴。


坂東航 7件


「やっば」


すぐに電話を掛けようとする。


その時。


後ろから声。


「何してんの?」


三浦の肩が跳ねる。


振り返る。


さっきの作業員。


「あ、すんません。会社から電話めっちゃ来てて」


男がスマートフォンを見る。


「仕事中、携帯はしまっといて」


「はい」


「夜は特にな」


「……夜は?」


男は少しだけ笑った。


「人少ないから。事故あったら危ないやろ」


「ああ、なるほど」


「戻ろか」


「はい」


三浦はスマートフォンをポケットへ戻した。


画面は消える。


坂東へ掛け直すことはできなかった。



午後五時十二分。


NEX。


「まだ出えへん」


坂東はスマートフォンを耳から離した。


豪がジャケットを着ながら聞く。


「何回目?」


「八」


「行こ」


坂東は答えない。


机の上にはライオン運輸の資料。


神谷直人の名刺。


そして、伊集院が開いているノートパソコン。


「社長」


伊集院が画面を見たまま言った。


「ん?」


「少し出ました」


坂東が近づく。


水野沙耶も伊集院の横へ来た。


「何?」


伊集院が画面を指差す。


「ライオン運輸の主要取引先です」


水野が覗く。


複数の会社名。


建設会社。


小売。


食品。


医療法人。


「医療系多いな」


水野が言った。


「ですね」


「物流会社なら普通ちゃう?」


「普通なら、ですね」


水野が伊集院を見る。


「その言い方やめへん?」


「便利なんで」


「慎太郎くん、ほんま性格悪いな」


「ありがとうございます」


「褒めてへん」


伊集院はスクロールする。


「売上から推測すると、医療系取引の比率が妙に高いんです」


坂東が画面を見る。


「どのくらい?」


「表面上の資料だけなら二割程度。でも関連先まで追うと、もう少しあると思います」


豪が後ろから覗く。


「関連先?」


「真田さんに説明すると長くなるんで」


「お前俺のことアホやと思ってるやろ」


「今さら確認します?」


「慎太郎ォ」


水野が豪の腕を押す。


「豪、邪魔」


「沙耶まで!」


坂東は笑わない。


画面を見続ける。


「病院名出る?」


「一部は」


「一覧にして」


「もうやってます」


坂東が伊集院を見る。


「はやっ」


「誰かと一緒にしないでください」


豪が反応する。


「今俺見た?」


「見てません」


「絶対俺やろ!」


水野が笑いながら別の資料を手に取った。


「慎太郎くん、私これ手伝えばええ?」


「お願いします」


「何見ればいい?」


「医療法人とライオン運輸の関連性ですね。取引量、所在地、役員あたりをお願いします」


「了解」


水野はすぐ自分のパソコンへ戻った。


坂東が美月を見る。


「美月」


「はい」


「陽平から連絡来たら、何してても俺に回して」


「分かりました」


美月が少し心配そうな顔をする。


「三浦さん、大丈夫でしょうか」


「分からん」


坂東は短く答えた。


「だから帰れって言った」


豪が坂東を見る。


「坂東」


「ん?」


「もう行こ」


坂東は時計を見る。


午後五時十五分。


少し考える。


「……まだ早い」


「何が?」


「俺らが行くには」


豪の眉が動く。


「陽平が危ないかもしれんねんぞ」


「分かってる」


「なら」


「行って、何て言う?」


豪が黙る。


坂東は続ける。


「うちの社員が電話出ないから来ました、で倉庫入れてくれる?」


「……入らんかったら入る」


「それしたら俺らが悪いやろ」


「今それ気にする?」


「気にする」


坂東は神谷の名刺を取った。


「まだ向こうは何もしてへん」


豪が坂東を睨む。


坂東も見返す。


「陽平に何かあったら?」


豪が聞く。


「その時は?」


坂東は数秒、何も言わなかった。


そして。


「そん時は話変わる」


豪の表情が少し変わる。


坂東は神谷の名刺を見た。


「でも今は、まだや」


豪は大きく息を吐いた。


「……分かった」


ジャケットを椅子へ戻す。


「十分だけ待つ」


「なんでお前が時間決めんねん」


「俺が決めた」


坂東が一瞬、豪を見る。


豪は笑っていなかった。


坂東も何も言わなかった。



午後六時二十一分。


ライオン運輸。


三浦は在庫表を見ながら歩いていた。


昼間の社員はかなり減った。


代わりに、見たことのない人間が増えている。


スーツ姿。


私服。


作業着でも、昼の作業員とは雰囲気が違う。


「……夜勤ってこんな感じなんかな」


三浦は小さく呟く。


B区画を抜ける。


奥の搬入口。


黒い車が二台に増えていた。


荷物が降ろされる。


箱。


保冷ケース。


さらに小さな金属ケース。


全て、昼間の端末には表示されていない。


三浦は少し離れたところから見る。


「三浦さん!」


「はい!」


担当社員が呼ぶ。


「これ入力お願い」


渡された紙を見る。


普通の在庫。


「了解っす」


三浦は端末を操作する。


ただ。


目は時々、奥へ向く。


さっきの保冷ケース。


医療法人のラベル。


何かが引っかかる。


「……」


端末入力を終える。


担当社員へ渡す。


「終わりました」


「ありがとう」


「すんません」


「ん?」


三浦は軽い感じを装う。


「あっちの荷物って、俺やらなくていいんすか?」


社員の目が一瞬動く。


「あっち?」


「黒い車から降ろしてるやつ」


「ああ」


男は一瞬だけ荷物を見る。


「あれは別管理や」


「別管理?」


「夜の分。昼の在庫とは分けてる」


「へえ」


「三浦さんの担当ちゃうから、気にせんでええよ」


「了解っす」


三浦は頷いた。


説明された。


なのに。


疑問は消えなかった。


――夜の分?


昼と夜で、なぜ在庫管理そのものを分ける必要がある。


しかも端末にも載せない。


「……」


歩きながら、三浦はポケットのスマートフォンを触った。


坂東が帰れと言った理由。


今なら少し分かる気がした。



午後六時二十七分。


NEX。


「社長」


伊集院が呼んだ。


坂東が顔を上げる。


「何?」


「水野さんが見つけました」


水野が手元の資料を坂東へ渡す。


「ライオン運輸と取引のある医療法人の一つ」


坂東が見る。


大阪市内で複数の医療機関を運営している法人。


「これが?」


水野が別の資料を出す。


「薬品関係の仕入れが最近妙に増えてる」


伊集院が補足する。


「正確には公開されている資料からの推測です。確定ではありません」


「でも増えてる?」


「はい」


坂東が水野を見る。


「患者数は?」


「そこまで増えてない」


坂東の目が細くなる。


豪が聞く。


「どゆこと?」


伊集院が答える。


「使う量が大して増えてないのに、薬品の仕入れだけ増えてる可能性があるってことです」


「余ったら?」


「在庫になります」


「ほな普通ちゃう?」


伊集院が豪を見る。


「病院が意味もなく大量の薬品を仕入れて、ずっと倉庫に積んでおくと思います?」


「……思わん」


「成長しましたね」


「殴るぞ」


水野が豪を見る。


「豪、今のは慎太郎くんが悪い」


「やろ?」


「でも殴ったら豪が悪い」


「どっちやねん」


坂東は資料を見たまま聞いた。


「ライオン運輸との取引は?」


伊集院が答える。


「あります」


「薬品?」


「そこまでは分かりません」


坂東は指で机を軽く叩く。


一度。


二度。


三度。


「……神谷」


豪が坂東を見る。


「繋がった?」


「まだ」


坂東は即答する。


「でも近づいてる」


その時。


美月のスマートフォンが鳴った。


美月が画面を見る。


「三浦さんです」


坂東が即座に手を出す。


「貸して」


美月が電話を渡す。


「陽平」


『社長』


「今どこ?」


『倉庫です』


「帰れる?」


少し沈黙。


『……たぶん』


坂東の表情が変わる。


「たぶんって何?」


『いや、別に閉じ込められてるとかちゃいますよ』


「ほな帰れ」


『分かりました』


「今すぐ」


『はい』


「どっから出る?」


『東側です』


「分かった。出たら電話」


『了解っす』


坂東が電話を切る。


豪が聞く。


「行く?」


坂東は立ち上がった。


ジャケットを取る。


「行く」


豪も立ち上がる。


「最初からそう言えや」


「うるさい」


美月も立ち上がる。


「私も行きます」


坂東が即答した。


「美月は残って」


「ですが」


「陽平から連絡来たら拾って。伊集院と水野さんの調査もまとめといて」


美月が少し不満そうに黙る。


「……分かりました」


豪が美月に笑う。


「任せたで、美月ちゃん」


「真田さん」


「ん?」


「社長を止めてくださいね」


豪が坂東を見る。


坂東も豪を見る。


「……無理やな」


「真田さん!」


「俺より言うこと聞かんもん」


坂東がエレベーターのボタンを押す。


「行くで、豪」


「おう」


扉が閉まる。


美月はしばらく、その扉を見ていた。


その横で伊集院が言う。


「白石さん」


「はい」


「止める必要ないですよ」


「え?」


伊集院はパソコンへ目を戻す。


「止めても行く人なんで」


水野が笑う。


「ほんまそれ」


美月は小さく息を吐いた。


「……分かってます」


そして、自分の席へ戻った。



午後六時四十一分。


三浦は帰る準備をしていた。


「すんません、会社から戻れって言われたんで」


担当社員が少し困った顔をする。


「急やな」


「ほんますんません」


「まあ、派遣元が言うならしゃあないか」


三浦は少し安心した。


「ありがとうございます」


「最後、これだけ持ってってくれる?」


「どこです?」


社員が指を差す。


奥。


「B-24」


三浦の動きが止まる。


「……また?」


「すぐ終わるから」


渡されたのは小さな箱。


片手で持てる。


「これ置いたら帰ってええよ」


三浦は箱を見る。


「了解っす」


もう少しだけ。


それくらいなら。


三浦は箱を持って歩き出した。


B-24。


扉は開いていた。


中へ入る。


さっきより人が増えている。


七、八人。


机の上には書類。


現金。


複数のスマートフォン。


そして。


医療用らしき保冷ケース。


三浦の足が止まった。


「……」


現金?


なんで倉庫に?


「そこ置いて」


男に言われる。


「あ、はい」


三浦は箱を置いた。


帰ろうとする。


その時。


奥から物音。


ガタン。


「……?」


見る。


部屋のさらに奥。


半開きの扉。


床に誰かが倒れている。


若い男。


二十代くらい。


身体を震わせている。


「おい、またか」


誰かが言った。


「量多かったんちゃう?」


「知らん」


男の一人が倒れている青年の顔を見る。


「意識ある?」


「……」


返事はない。


三浦は固まった。


「……救急車」


誰かが三浦を見る。


「え?」


「救急車呼ばな」


男たちが三浦を見る。


空気が変わった。


「三浦くん」


「はい」


「帰ってええよ」


「いやでも、あの人」


「ええから」


「いや、ええって」


三浦は青年を見る。


呼吸がおかしい。


身体が小刻みに震えている。


「これ普通ちゃうでしょ」


男の目が冷たくなる。


「帰れ言うてるやろ」


三浦が一歩下がる。


「……何なんすか、ここ」


沈黙。


誰も答えない。


三浦の心臓が速くなる。


ようやく。


完全に理解した。


――あかん。


ここにおったらあかん。


「すんません」


三浦は扉へ向かった。


男が一人、前へ出る。


「待て」


三浦が止まる。


「何すか?」


「携帯」


「え?」


「出して」


「なんで?」


「ええから」


三浦は笑おうとした。


「いやいや、意味分からんすよ」


「見たやろ」


「何を?」


「携帯出せ」


男が近づく。


三浦も一歩下がる。


「嫌っす」


「三浦」


「俺、帰ります」


三浦が扉へ向く。


腕を掴まれた。


「ちょ」


反射的に振り払う。


「離してください」


「携帯出せ」


「嫌や言うてるやろ」


三浦の口調が変わった。


相手も変わる。


「お前――」


男が三浦の胸ぐらを掴む。


その時。


低い声が響いた。


「離したれ」


全員が止まる。


三浦も声の方を見る。


入口。


あの大男が立っていた。


「……」


三浦の胸ぐらを掴んでいた男が、大男を見る。


「ですが、こいつ……見てます」


大男は三浦を見る。


床に倒れている青年を見る。


現金。


ケース。


周囲の男たち。


そして。


「離せ」


「ですが――」


大男の目が変わった。


「離せ言うてるやろ」


男は一瞬迷った。


それでも三浦の胸ぐらから手を離さない。


「でも、このまま帰したら獅堂さんに――」


ドン。


何が起きたのか。


三浦には一瞬分からなかった。


男の身体が横へ吹っ飛んだ。


机に激突する。


書類が宙を舞う。


三浦が目を見開いた。


大男は拳を下ろした。


「……二回言わせんな」


部屋が静まり返る。


倒れた男が呻く。


誰も大男に近づこうとしない。


大男は三浦を見る。


「兄ちゃん」


「……はい」


「帰れ」


「でも、この人」


三浦が床に倒れている青年を見る。


大男も青年を見る。


「こいつはこっちでやる」


「救急車――」


「呼ぶ」


三浦は少し迷った。


大男の目を見る。


嘘を言っているようには見えなかった。


「……分かりました」


三浦は扉へ向かう。


その時。


大男が言った。


「三浦陽平」


三浦が振り返る。


初めてフルネームで呼ばれた。


「はい?」


大男は真顔だった。


「今日見たこと」


三浦が息を呑む。


「……」


「忘れろ」


三浦は数秒黙った。


「無理っす」


即答だった。


周囲の男たちの視線が三浦へ集まる。


大男だけは何も言わない。


やがて。


ほんの少しだけ、口元が動いた。


「せやろな」


三浦は何も言わず、その場を離れた。



倉庫の外。


三浦は走った。


東側搬入口。


「はっ……はっ……」


スマートフォンを取り出す。


坂東へ掛ける。


一回。


すぐ出た。


『陽平』


「社長」


『出た?』


「今出ます」


『外まで来い』


「はい」


搬入口から外へ出る。


夜風。


三浦は大きく息を吸った。


その時。


一台の車が敷地前に止まる。


ドアが開く。


「陽平!」


豪だった。


「豪さん……」


豪が走ってくる。


三浦の肩を掴む。


「大丈夫か?」


「はい」


「怪我は?」


「ないっす」


その後ろから坂東が降りた。


「陽平」


「社長」


「何見た?」


三浦は一瞬、言葉を探した。


何から説明すればいい。


保冷ケース。


現金。


大量の携帯。


倒れていた男。


そして。


あの大男。


「……分からんっす」


坂東が眉を寄せる。


「何が?」


三浦は倉庫を振り返った。


「何してる会社なんか」


少し息を整える。


「全然分からん」


豪も倉庫を見る。


三浦が続けた。


「でも」


坂東を見る。


「社長の言う通りでした」


「何が?」


「ここ――」


三浦はもう一度倉庫を見る。


「絶対、普通ちゃいます」


坂東は何も言わなかった。


ライオン運輸の看板を見る。


青と白。


昼間なら、どこにでもありそうな物流会社。


その奥。


今は見えないB-24。


「陽平」


「はい」


「今日は帰れ」


「でも――」


「明日話聞く」


「……はい」


坂東は豪を見る。


「送ったって」


「お前は?」


豪が聞く。


「ちょっと見る」


「坂東」


「中入らんよ」


「ほんま?」


「今は」


豪が坂東の顔を見る。


「……分かった」


三浦が坂東を見る。


「社長」


「ん?」


「あと……でかい人がおるんすよ」


坂東が眉を動かす。


「でかい人?」


「はい。昨日ぶつかった人で、今日ここにもおって」


「昨日?」


「帰り道でぶつかったんすよ。その人が俺の名前知ってて」


坂東の表情が変わった。


「待って。陽平の名前?」


「はい」


「お前が言ったんちゃうん?」


「言ってないっす」


坂東は黙った。


豪が聞く。


「で、そいつがどうしたん?」


「さっき助けてくれました」


「助けた?」


「俺掴まれてたんですけど、その人が止めてくれて」


豪が少し興味を持つ。


「どんな奴?」


三浦は豪を見る。


少し考える。


「……豪さんよりデカいっす」


豪の眉が上がった。


「俺より?」


坂東が豪を見る。


「そこ?」


「いや、俺よりデカいって結構やぞ」


「知らんがな」


三浦が思わず少し笑った。


緊張がほんの少しだけ抜ける。


坂東は倉庫へ視線を戻した。


三浦の名前を知っていた男。


そして。


その男が三浦を逃がした。


また一つ。


分からないことが増えた。



同時刻。


B-24。


先ほど殴られた男が、机に手をついて身体を起こしていた。


「……すみません」


大男は返事をしない。


床に倒れている青年を見る。


「病院送れ」


近くの男が頷く。


「はい」


「今すぐや」


「分かりました」


二人が青年のところへ向かう。


別の男が、大男へ恐る恐る声を掛けた。


「……あの」


大男が振り返る。


「なんや」


「三浦、帰したんですか?」


「帰した」


「ですが……あいつ、見てます」


「知っとる」


「獅堂さんには、どう説明するんですか?」


「俺がする」


「……分かりました」


それ以上、誰も何も言わなかった。


大男はポケットからスマートフォンを取り出す。


画面を見る。


一件の連絡。


送り主。


神谷直人。


短いメッセージ。


『状況は?』


大男は数秒、その文字を見ていた。


返信する。


『予定外あり。三浦は帰した』


すぐに既読がつく。


数秒後。


『なぜ?』


大男は画面を見ながら、小さく鼻で笑った。


文字を打つ。


『気に入らんかった』


送信。


スマートフォンをポケットへ戻す。


背後から声がした。


「鬼塚さん」


大男が振り返る。


「なんや」


「……ほんまに、それで大丈夫ですか」


男の名前が。


初めて呼ばれた。


鬼塚大悟。


鬼塚は首を鳴らした。


「知らん」


そして。


三浦が出ていった扉を見る。


「俺が決めたことや」

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