真エピローグ:第一王女ウルティミアの苦労と鬼札****の安らぎの場所
本作品はこの話をもって最終話となります。
いい天気。
ここ最近天気は良好続き。陽は明るく、風は爽やか、表に出て散歩したらどれだけ気持ちが良いだろう。
だが、ここ最近の私は書類が山と積まれた専用の事務室の中にある重厚な机に座り、書類整理を続けていた。仕事とはいえ、ずっと書類とにらめっこして、サインと印鑑だけ雄単調な作業を続けていると、流石に気分がくさくさしてくる。
そんな中、今日は呼んだ“来客”相手に、業務を止め、机を挟んで2人きりの状況で話をしていた。
「それで、今回の件、どこまで関わっていたの?イルミア?」
目の前にいる妹である第二王女イルミアに尋ねる。
「うん?へるっちの部下のアケノとかいう有能そうなメイドさんにこっそり最低限の情報を与えて、最新鋭の音声機器を渡して誘導させたくらいかな。まぁ、賢者倶楽部の人間ならそれくらいで問題ないでしょう」
私の問い悪びれずへらへら笑って答えるイルミア。その意味は当事者でない彼女が一連の事件に初めから噛んでいたという事実を示す。
その言動は軽いが、その思考はまるで得体が知らない。本当にこの妹はわからない。
今回の一件もそうだ。いや、厳密にはいつ、どこで、誰と、どうやって、何をした?までは聞かずとも調べられる。だが・・・
「あっ、ちなみにへるっちには個人的にも親しくしているから、国から出て行っても損はさせないって、で?それだけ?ウル姉?」
「ええ、そうね。ただ、もう一つ聞きたいことがあるのよ」
「んー?なに?」
「どうして、アリシアを追い出したの?」
そう、いつもそうだ。
この妹の言動の“何故?”という部分だけはいまだにわからない。
しばらく、静寂が訪れた。
「んー?どうしてって?追い出されたのはアリシアが・・・」
「無駄な会話はよしなさい。確かにアリシアの追放はアリシア自身の愚かさが原因。だけど、貴方は誰よりも早く事前にそのことを気づいていた。貴方の手腕ならば馬鹿の企みなど世に出る前に潰せた。いいえ、私や父様に伝えるだけでも事足りた。なのにわざと黙って、煽って、ことが大きくするのを狙っていた。それでいて家族会議の言動。あなた、それとなくアリシアを他国に追放するよう場を誘導していたわね?アリシアを追い出すつもりとしか思えない。ただ何でそんなことを?アリシアは貴方のことを嫌っていたけど、それが理由かしら?」
「違うよー。あれは私のことを嫌っていたけど、私はどうでもよかったし」
変わらずへらへら笑う妹。だが確かにそうだ。アリシアはイルミアを嫌っていたが、イルミアはアリシアをまともに相手していなかった。無関心に近い。だから嫌いで追い出したというのは腑に落ちないのだ。
イルミアに私は問いを続ける。
「それならばなぜ?確かにあの子は王族として“足りない”子で、居ても居なくてもいい子だったけど、逆に言えば理由が無くては追い出す必要もなかったわ」
「あのさー、ウル姉はアリシアの部屋に行ったことがあるよね?」
唐突に関係ない話をする。が、驚かない。妹の突拍子もない言動は意味があると知っているから。
「えぇ、それが何?」
「私あの部屋好きなんだー。私の部屋より日当たりは良くてお昼寝にちょうどいいし、窓からは中庭が見えて、庭園に咲く綺麗な花が一望できるの。春にはチェッサムの桃色の花がそれはすごく綺麗で・・・」
「・・・」
しばらく、私の問いとは無関係に花について詳しい知識を語る妹の話を私は黙って聞く。
そこで気が付いた。妹の動機に。だが本当に?
「あなた・・・まさか・・・」
私は確認のために口を開く。
「“アリシアの部屋をほしかった”から、アリシアを・・・妹を国から追い出したの?」
「せいかーい♪」
妹は無邪気に同意した。
しばらく沈黙が流れる。窓のカーテンが風でたなびく音だけが聞こえる。妹が口を開く。
「あれの部屋は居心地がいいんだ。今回の一件であれの部屋が空いたからね。賢者倶楽部のヘルガー君とのコネあるよってカー兄に言ってお願いしたら部屋の交換を二つ返事でOKもらったよ」
異常な告白をしつつもニコニコへらへら笑うイルミア。
嫌いだから憎いから、苦しめたいから追い出したのならばわかる。
相応の地位や名誉や財産など手に入れるために追い出したのならばわかる。
曲がりなりにも王族を、家族を追放するならば相応の理由はあるはず。なのに…ただ部屋が欲しいから?
「…部屋がほしいのならば他に方法があったでしょう?そして貴方にはそれを可能にする力があるはず。なのになんでそんな回りくどいことを」
「普通に部屋を替えようと言っても‘‘あれ”は私、嫌っているから頷いてくれなかったしー、父さんやカー兄もウル姉もそんな個人的なわがままなお願いしても頷いてくれないでしょう?で、強引に奪ったら、みんなはすごく怒るだろうし?だから、だから、今回のチャンスは丁度良かったよ!全部あれの自業自得で私は悪くないし、ちょっとお友達のへるっちと話して、私物貸して、家族会議でちょろっと話しただけ。それで部屋が手に入るんだもん。こんないい機会なら、そうするのが自然じゃない?」
本当に何言ってんの?こいつ?
ニコニコと笑うその妹の顔には悪意が全くない。
「そう・・・だったら、もし私の部屋が欲しかったら、私も追い出されていたのかしら?怖いわね」
そんな簡単な動機でどんな人をも貶める人間なのかという皮肉を込めて言うと。
「え?ウル姉は家族でしょう?部屋のためだけにそんな真似するわけないじゃん?」
何急に変なこと言ってんの大丈夫?と心配顔で私を見る妹。
「・・・アリシアは家族でしょう」
「アリシアは家族だよ。だけど家族って血の繋がった他人でしょ?ウル姉。血は水よりも濃い、しかし水は血よりも清いって言葉知ってる?」
真面目な顔で答える妹。
あ。もうダメだ。ぜんぜんわかんない。こいつ。
まっとうな王族なら事前に騒ぎを鎮めるところを妹の部屋がほしいという子供じみた理由だけで、あえて騒ぎを放置させて実の妹を追い出し破滅させた。表に出ず、最低限の干渉だけで一連の動きを誘導した手腕は・・・それ以前にほとんど表に出る前に馬鹿達の企みに気付く情報収集能力は一流の政治家レベル。
そのくせ、本気を出せば部屋など強引に手に入れられたくせに、しない理由は、無理やりやったら怒られるから嫌という幼児レベル。
さらに欲しいものは手段問わず手に入れる強欲な人物かと思いきや人の絆は大事だよ。といいつつ。だけど所詮他人だからねー。と言い放つ矛盾な言動だらけで動機が理解不能。
しかし、妹の行動はただのわがままな迷惑行為ではない。妹を送り出したことで、その国との交易の収支は上向きに伸びようとしている。
そして賢者倶楽部のヘルガーは実家で不遇な扱いを受けてきたと聞いている。事後の無関心っぷりからもわかる通り実家やこの国に対する思いは薄い。ならば自由を与えて貸しを作る方が何かと有利と言える。
つまり、最終的には悪事に荷担したものだけが損をして、他が利益を得る形となったのだ。
国に利益を生むことで、何か膨大な利益を手に入れるのが本当の目的で部屋云々は嘘かと思わなくもないが・・・この妹の言葉は恐らく真実だ。
昔からそうなのだ。動機が幼稚で異様で矛盾だらけ、だが情報収集能力と経済手腕は的確。
その異様な怪物に対し、私は・・・
「こっの!馬鹿!!!」
そこで初めて怒りの感情を露わにじろりと妹を怒鳴り付けた。
ぴぃ!?と小鳥のように可愛い悲鳴をあげ、文字通り飛びあがるイルミア。
「・・・まったくそれで尻拭いをしているの、私なんですけどね?有力貴族の信頼を戻すために手回ししなくちゃいけないし、アリシアを出した条件で手に入れたあの国との優遇措置のために申請や承認の書類が山と来ているし!あはははは!」
「あ、あははー、ウル姉の手際なら大丈夫かなぁ・・・ってもしかして怒ってます?」
「当然でしょう!“そういうこと”は事前に私に通しなさい!できる出来ないでいえばできるけど、ひたすら大変なの!事前に根回しすればどれだけ苦労が激減したと思っているの!何手も先読みするくせにどうして私の苦労は見えないの!」
「ひぅ!?ごめんごめんなさいー!だから報告がてら手伝いにきたんじゃない」
へへへと上目づかいで笑う妹の媚びを無視して、バンバンと机をたたいて私は怒鳴る。
「呼んだのは私よ!というより呼んだのは質問だけじゃないの!手伝わせるために呼んだの!ほら隣座りなさい!書類どんどん回すわよ!」
「ひぃーん」
泣きながらも素直に私の隣にやってくる怪物。ああ、まったく姉というのは本当に面倒だ。こんな怪物でも姉として接しなくてはいけないのだから。
理解不能な言動に底知れぬ能力を宿した怪物“王家の鬼札”第二王女イルミアとそのイルミアの言動を理解できないまま受け入れ、自然に御しているある意味怪物以上の第一王女ウルティミア。
その異様な言動とは裏腹に、余所から見れば2人は普通に仲睦まじい姉妹に見えた。
なお、彼女らが台頭した時代では国はとても平和な時代を迎えたという。
以上、お読みいただきありがとうございました。ざまぁの末路と黒幕?の意外な動機という2点を書いてみた位と思い作ってみた作品です。少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
なお、数日後には同じく昔の作成データからリメイクした作品を投稿する予定です。作品名は「婚約破棄?お待ちになって貴女努力いたしまして?」です。べたな婚約破棄にひとつまみスパイス聞かせた作品です。そちらも気になったらよろしくお願いします。




