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世界規模の日常的な異世界生活  作者: 北之杜湧水
3/3

一人だけ覚悟が決まってる

コンコン

「トウマ、大丈夫か―?」

優しいトウマの父は、いつもきちんとノックしてくれる。

そうやって気を使ってくれるのは小学校高学年あたりからだったろうか?

理解のある父であり、適度な距離感ももってくれていたため、

トウマは父に対して極端な反発心は抱いていなかった。

もちろん、年頃にウザく感じることもあったがまま、良好な親子関係である。


「あ・・・、うん、大丈夫、何でもないよ。」

散漫になっていた思考を引っ張り戻し、トウマが応える。

極力平静を装って、何でもないふりをして声を絞り出す。


一泊おいてからガチャリとドアノブが回されて扉が開く。

「なんだ?真っ暗で・・・って、血が出てるぞ?!」

父が驚いてトウマの左腕に指さす。

トウマの左腕は先ほどの【儀式】のために腕に切り傷がつけられ、

血が固まっていた。

うっすらと皮を切っただけのため、出血が続くわけでもなく

物の数分ですっかり表面の血が固まってしまっているのだ。


ハッとして自分の左腕を隠すように手のひらで覆い言いつくろう。

「買ってきたナイフで遊んでたら切っちゃって・・・」

どんな遊びだか。

自分でよくわからない言い訳に突っ込みを入れる。


しかし残念ながら中二病を患っていることを知っている父は

命に別条がなく、自傷や自死を思い詰めていないことだけ悟と

優しくもあえて突っ込まずに話を転換してくれた。

「・・・まぁ、いいけど、さっきのは何の音だ?」

本題に振り戻す。


『実は召喚に失敗しちゃって・・・いや成功したんだけど変なおっさんが出ちゃって』

そんなことも言えるはずもなく、

「なんだろうね?事故かな?雷っぽかったけど!」

父と同じく、謎の現象に巻き込まれた側に回ってこの事態を回避する。

窓の外をのぞくふりをし、父の視線を自分から外しにかかる。


心臓は早鐘を打っている。

自分の立つ押し入れの後ろに下着&ソックスのおっさんが入っているなんて、

どうやっても父親を説得できる気がしない。

仮に落ち着いて、丸一日時間をもらったとしても大の大人が合点がいく説明なんでできるわけはないだろう。


いったん父親から後ろのおっさんに意識がいったら不安しか生まれてこない。

あのおっさんはしっとり汗ばんでいたが、俺の布団は無事だろうか?

いや、靴下を履いていたが臭いは移っていないだろうか?

布団は1組しかないが今夜は二人で寝るのだろうか?

もしおっさんが元の世界に帰れなかったらちゃんと面倒を見れるだろうか?

益体のないことが頭をぐるぐると周り、思考がまとまらない。


「・・・まぁ、いいけど、なんか気をつけなよ」

父親は小言とも心配とも言えない微妙な一言を残して部屋を後にしてしまった。

いい意味で自分の息子がそこまで人の道を外さないと信じ切っている現れだ。

高校生なら通る道を通り、成長するだろうと信じているのだ。


足音が遠のき、階下で母親と父親の二三事の言葉のやり取りを聞いて、

ようやくトウマは一息ついた。

「ふぅー」

安堵のため息。

脱力してその場に座り込む。

大人ならおもむろに煙草をまさぐり一服・・・と言ったところだが、

健全な高校生のトウマにはぬるくなったマグカップの麦茶に手を伸ばして一息入れるのが関の山である。


父にはバレなかった

一つの山場は乗り越えた

いや、本当なら大人に相談して解決してもらった方がよかったのかもしれない

根本が何ら解決せず、自分に問題の全てが降りかかった状態だけが作られてしまった。

『おっさんがいるよな?うちに。押し入れに。』

改めてその事実を反芻してみる。

心が全く踊らない。

天から舞い降りた美少女でもなく、拾ってきた子猫でもなく、未来から来た青狸でもない。

押し入れにいるのは、ブリーフ靴下のおっさんである。

異世界召喚の儀式で呼び出されてしまったおっさんである。


そんなはずはない

そんな非現実的な事が起こるはずがない。

トウマは自分で異世界召喚の儀式をしておきながら現実的な思考を始めた。

「泥棒が屋根裏から落ちてきて・・・」

天井を見つめるが穴は無い

「忍びの者が天井から落ちてしまって・・・」

そうだ!その可能性が一番高い。


「伊藤家と禍根のある斎藤一族の刺客の手がついにこんなところまで!!』

落ちていた小刀を逆手に構えて、己の中の闘気を練り上げる。

姿を現した忍びはもはや殺気を殺しきれないのだ。

侍ではないので正々堂々とは言わないが、せめて伊藤家の末裔として恥じない戦いをせねば!

そう覚悟を決めたトウマに押し入れから刺客の声がかかる。


「おお~、あせった~。召喚直後で見つかったらちょったやばかったよな?

てか、押し入れめちゃあっちぃなー。」

おっさんは自ら襖を空けて這い出してきた。

少し窮屈な姿勢だったのか、四つん這いで腰を拳でトントンとマッサージしている。


「あー、いてー。腰いてー、今週末に整体行かないと、こりゃダメだな。」

おっさんは伸びあがり、もういちど腰を叩く。

右に左に上半身をひねるが、おなか周りの贅肉のせいか、普段の運動不足のせいか

そのひねりは浅い。


「俺の名前は相模フユヒコ。世界を救う者だ。よろしくな!」

ブリーフおっさんの口からは、こちらの耳が赤くなるようなセリフがこぼれ出た。

唖然とする17歳

キメ顔でほほ笑む42歳

異世界がつながってしまったのである。

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