2-11・領主の憂鬱
憂鬱だ。
冒険者ギルドの報告で「北のダンジョンの消失を感知」の報告を受け急ぎ迷宮都市に戻っている最中だったが「新ダンジョンの発生を感知」「北のダンジョンを再感知」の続報でグダグダだ。
北のダンジョンの異常も問題だが・・・
今前にいる貴族の娘が問題だ。
メイド修行の目的で押し付けられたが・・・
本人は魔法使いで迷宮に潜って騎士団に入りたいと言う。
過去メイド修行と称し嫁になろうとしたバカはいたがこれはぶち抜けたバカだ。
そううえなんでこいつはこんなにずーと喋っていられるんだ?
にこやかに聞いているがもう死にそうだ・・・
本人の希望通りダンジョンに潜らしていなくなってもらうか・・・
送り出した相手はそれを狙ってるのかもしれんな。
大きな借りになるとでも思ってるのか。
危機感知が働いた。
前方に何かいる。
御者に指示を出し馬車を止める。
馬車の戸を開けて外に出ると護衛たちもすぐに止まった。
かなり前方に・・・
戦闘が起こってるな。
「どうされました?」
バカ娘が聞いてきた。
異常事態に決まっているだろう。
「前方で戦闘中だね。」
アンジェが先行しているのなら大丈夫だろう。
このままの隊列で進めばいいか。
御者に指示を出し再出発する。
すぐに戦闘は終わったようだ。
かすかに見えるが一人だな。
「大丈夫だ。終わったみたいだね。誰か知らないが倒してくれたみたいだね」
もう迷宮都市の近くだが何が出たのだろうか?
まあ報告を後で聞けばいいか。
馬車のなかに入ろうとした瞬間ソナーが放たれた。
「は?」
護衛が皆こちらを見ている。
私とは逆の戸から身を乗り出したバカ娘が発信源のようだ。
「盾士ですね。冒険者でしょう」
「なぜ探知を打った?」
「大丈夫ですよ。冒険者で魔法の才能ある人はほとんどいませんよ。実際に盾士ですし」
鑑定持ちの探知呪文持ちか。で考えなしに探知を打つと。
ああ・・・これは・・・厄介払いか。
探知が帰ってきた。
くそ…たしかに探知に気が付かなければ誤魔化せたんだが・・・
「馬を貸せ」
近くにいる隊長の馬を借りる。
隊長は馬車の乗ってもらい全員でそのまま迷宮都市に移動させる。
近づいてとりあえず謝る。
ごねるやつだとめんどくさいなと思ったが全く気にしていないようだ。
いや・・・こっちが領主と言ったからか。
アンジェに後始末を任せ迷宮都市に急いだ。
本当は一緒に移動して話を聞きたかったんだが北のダンジョンの異常が先だ。
ただ何者だ・・・ソロでレッドキャップ20匹をあの時間で片づけるとは。
厄介者は盾士しか見えなかったようだが・・・私にはあの一瞬 盾士 戦士 魔法使い 斥候 薬師 職人 が見えた。
私も探知なしだと 盾士 しか見えないが。
職が多いのはハンターギルドならありうるが 盾士 はなぜだ?
迷宮都市に着いた後 暗部にアンジェとクルーソーの監視を指示した。
とりあえずこれでいいはずだ。
冒険者ギルドからの北のダンジョン情報はいまさらになって誤報かもしれないと言い出す始末だ。
そんなことがあるはずがないだろう。
とりあえずダンジョンの様子を見に行こう。
強行察なので騎士団は無しで最低人数で行く。
アンジェはクルーソーとダンジョンに潜ったようだ。
ついでだからアンジェからも話を聞いておこう。
アンジェを秘書のマリアが連れてきた。秘書というより代官だがな。
「急に呼び出してすまないアンジェ」
「いえ。全く問題ありません」
「座ってくれ。聞きたい話があるんだ」
「なんでしょうか?」
「そんなに緊張しなくていい。クルーソーさんとダンジョンに潜ったんだろう?どうだったか聞かせてくれ?」
「・・・どうだったかとはどういうことでしょうか?」
「クルーソーさんはかなりの腕前と見た。その実力を知りたい。別に他意はないよ」
「・・・どうだったかいわれましても・・・」
「アンジェ!あなたは大恩あるアルゴルン様にそのようなことを」
マリア・・・いきなり説教は飛ばしすぎだ。
「いやいいんだマリヤ。密偵のような真似をしろといったこっちが悪いんだ」
「いえ!そのようなことではないんです。ただ・・・どう説明していいのか分からなくて・・・」
説明できない?報告では別段異常はなかったが。
「いいよ。感じたままでいい」
「はい。・・・クルーソーさんは魔法も使えるし斥候も出来るということでした。これは実際にこの目で見ました」
いきなりダンジョンの話なのね。
その前の話も聞きたかったが・・・まあいいか。
「あ!ハンターギルド会員でした。これもカードを見ました」
勝手に見たとかじゃないよね。
「魔法は初級しか使えないという話でした。ただ魔法のタメが全く感じられないくらい速いです。そのためか発動の魔力もほぼ感じられません」
「初級しか使えないは謙遜ということかい?」
「それはないと思います。団体にもマジックアローを一本撃ってました。ただマジックアローが大きくて速さも早かった気がします」
「それと・・・迷宮油虫を剣でたたき切りました。その時に縮地、吶喊、転斬、スマッシュを使っていた気がします」
「気がするとは?」
「宣言なしのうえに連続動作だったんです。動作は騎士団やアルゴラン様の技能と同じだったような気がします。」
たしかにそれは説明したくないだろうな。
「あなたの見間違えでなくてアンジェ。宣言なしはともかく技能の連続使用はありないわよ」
「通常攻撃では迷宮油虫の外殻を切れないと思います。連続動作は前アルゴラン様に見せてもらいましたので不可能ではないと判断しました」
「ああ・・・やりこめば連続動作出来るのは本当だよマリア」
連続使用は練習ではやるが実践ではめったに使わない。
マリアは賢者で完全後衛なので見たことはないんだろうな。
「ああ・・・どう説明していいのか分からないのが分かったよ。よくわかったよ。ありがとう」
「これからはどうすれないいでしょうか?監視をしたほうがいいということでしょうか?」
「いや別に問題ない。まあハンターだしいろいろ流派が違うということだろう。様子を見てそのままチームを組んでみたらどうだい?固定で潜る相手が見つからないんだろう?」
「あ。はい。そうしてみます」
アンジェがダンジョンに潜る準備を整えるため退出した。
「悪かったねマリア。悪者をやってもらって」
「え?」
「君がああでも言わないと彼女は何も言わなかっただろう。私が飴で君が鞭なわけだな」
「・・・」
厄介ごとは連続で来ると・・・ただこっちは情報が集まっているので楽だがな。
答え合わせをするか。
影も来ているようだしな。




