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ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast 第5章『ある日の食事風景』②

今日は第5章『ある日の食事風景』①と②を同時に更新しました(*ノωノ)

 フィーアが隣のペットたちの部屋からリビングに戻ると、こちらでも戦闘が勃発していた。


「ダメよドライ!キッチンには入らせない!!」


「なんでよ!私だって料理くらいできるわよ!」


 キッチンに侵入しようとするドライを、ソフィが小さな身体で必死に封鎖して防いでいた。


「た、大変・・・!」


 自分がいない間に危うく食事に毒物が混ざるところだったようだ。

 フィーアは慌てて2人のところに駆け寄ると。


「おねえちゃん、シチューはもうほとんど出来てるから食卓の方をお願い。

 皆のお皿を並べないといけないから。」


 慌ててそんなフォローを入れる。


「うーん、それもそうね!不器用なあんたに任せてお皿が割れても困るし。

 仕方がないわね、任せなさい!」


 フィーアの言葉にようやく納得したのかドライは食卓に戻っていった。


「ふう・・・助かったわ、フィーア。」


「ううん、ソフィこそありがとう。」


 久しぶりのごちそうに皆浮足立っている。

 さすがに今日の食卓にドライの手作り料理を混ぜるのは危険すぎた。

 シチューやサラダ、パンやローストビーフなどを食卓に並べて皆が集まった頃、ようやく紅牙も元の姿になって戻ってくる。


 すると・・・


「ん?」


 席に着いた紅牙が耳をぴくぴくと反応させて辺りを見回した。


「どうした、妖気か。」


 それを見たアハトが真顔でそう言ってみせる。

 もちろんそれを聞いたソフィはすかさず椅子に座っているアハトの後頭部に突っ込みを入れたのだが。


「妖気・・・?いや、そういったものとはちょっと違うんだが、一瞬、違和感があった。」


 それに対して紅牙は真顔で答えた。


「違和感ってどんな?」


 食卓にはいつものメンバーがそろっている、これといっていつもと違ったところはないはずだ。


「うーん、耳に虫でも入っちゃったのかな?」


 席を立ったフィーアは紅牙がしきりに動かしている方の耳の中を覗き込もうとする。


「こらこら、紅音。そこはデリケートなところだからあんまり強く触られるとだな・・・」


「も、もうちょっと・・・こうしないと奥まで見えないんだもん。」


 フィーアと紅牙が密着しそうなくらいにくっついているのを見て、明らかに動揺した人物がいた。

 ガタンっとあからさまにツヴァイの椅子が動き、皆が驚いたようにそちらを見る。

 全員の視線が集まっていることに気付いていないツヴァイはあくまでも平静を装ってぼそり、とこんな言葉を口にした。


「・・・・・・食っちゃ寝ニートは楽でいいよな。」


 本人は冷静なつもりなのかもしれないがものすごく棘のある言葉だ。

 さらにツヴァイはこう続ける。


「毎日を怠惰に過ごしているから勘が鈍ったんじゃないのか?」


「・・・蒼夜、おまえは最近俺に相当きつく当たってくるが、おまえだってここのところ褒められたことをしているわけじゃないだろう?」


 場の空気が凍りついたことに気付いた紅牙はツヴァイを窘めるように目を細めながらそう言った。


「まあ、俺は家族が幸せならそれでいいが・・・」


 何か含みのある紅牙の物言いにツヴァイがあからさまに嫌そうな顔をすると、フィーアがきょとんとしながら2人を見比べる。


「紅音、気にしなくていいよ。お金を稼ぐって大変なことだからさ。」


「う、うん・・・?」


「ごめんね、何も心配するようなことはないからね。」


 立ち上がったツヴァイは紅牙の傍にいるフィーアの頭を撫でると席に着くように促す。


「まあ、とりあえずご飯を食べましょう。

 それとツヴァイ、さっきのは言いすぎよ?

 紅牙に家にいてもらおうって決めたのは私たち全員の意見じゃなかったかしら。」


「・・・そうだったね。少し言いすぎた。反省するよ。」


 ソフィにたしなめられてようやく少し落ち着いたのかツヴァイも席に着く。


「紅牙の耳に何か違和感があるなら食事の後で見ればいいわ。」


「いや、耳のことじゃないんだがな・・・」


 紅牙のそんな様子を不審に思ったのかアインも耳を立てて辺りを探ってみるが、いつもとこれといって変わりはないように思えた。

 隣の部屋では犬猫がわんわんにゃあにゃあ鳴いているが、それも違和感と呼べるほどのものではない。

 あえて言うならアルケンガーがぽよんぽよんと家の中を跳ねている音が気になるといえば気になるが、それも今となっては慣れてしまったことだ。


「・・・なあ、本当に皆は何も感じなかったのか?」


「ごめんね、私はちょっと分からないかも。」


 食事をする前にもう一度投げかけられた紅牙の問いに対して、フィーアは申し訳なさそうに答える。

 フィーアは毎日紅牙と一緒に家にいるのだから何か変われば分かりそうなものなのだが、残念ながらこれといっていつもと違う感じはしない。


「俺もさっぱりわからんな、あえていうなら部屋の中をアルケンガーが跳ねている音くらいか。」


「私も分からないわね。何か異常があったという風には感じられない。」


 アハトはアインと同じようなことしか感じていないようだし、ソフィもこれといって思い当たることはないようだ。


「蒼ちゃんは?」


 フィーアに尋ねられるとツヴァイは改めて辺りの気配を探るように少しだけ耳を動かした。


「・・・最近は異物が増えたからよく分からないな。」


 ここはツヴァイの形成したぬいぐるみの中の空間だ。

 以前はフィーアのためだけの空間だったが、途中からはナンバーズが入ることも多くなり今となってはこれだけの人数を収容しているのだから、ツヴァイからしてみると言い方は悪いが異物が増えたという認識になってしまうのだろう。


「でも、そうだな・・・ごめん、今ははっきりしないや。」


 どうやらツヴァイも紅牙に対する感情どうこうを抜きにしても本当に分からないらしい。


「そっかあ。アインとお姉ちゃんは?」


「ええ、さっぱり分からないわね!」


 自信を持って胸を張りながらドライはいつも通りのえらそうな態度で答える。


「兄さんが感じたならきっと何かがあるとは思うんだけど、今は僕にもわからない。」


 アインは紅牙のことを信頼している。

 たとえ最近の姿がミニライオンで、やっていることは食っちゃ寝ニートだったとしてもそれ以上の信頼を彼に置いていた。

 なので、その彼が言うならば何かあるに違いないというのがアインの見解ではあるのだが、残念ながらそれ以上のことは分からない。

 そもそも、当の本人である紅牙も何が違和感なのか分からない上に、この空間の主であるツヴァイですら分からないと言うのだからたとえ何かがあったとしても他のメンバーがそれに気付くのは難しいことだった。


「そうだな・・・この世界を管理している蒼夜がよく分からないと言っているし、俺も何かあるなら気付かないはずがない。気のせいなのかもしれないな。」


 かなり納得のいかない感じではあるが、紅牙は自分にそう言い聞かせるように結論付けた。


「悪かったな。心配をかけるようなことを言って。」


 そう言って紅牙がパイ包みのシチューを崩して口をつけた瞬間だった。


「ぶっ!!な、なんだこれは毒か・・・!?まさか、これが違和感・・・!!」


 思い切り噴き出して紅牙はそのままばたりと倒れる。


「みんな・・・それは、食うな・・・」


 それだけ言うと紅牙はそのまま気絶してしまった。


「ま、まさか・・・!」


 アインがパイを外してシチューのにおいを嗅ぐととても危険なかほりがした。

 それはどこはかとなくアーモンドの香りを思わせる。


「ドライ!!キッチンに入ったわね!?」


「な、なんのことかしら。」


 さらっとごまかしているがドライの目線が泳いでいた。


「おまえたち、何を騒いでいるんだ。」


 あくまでも冷静にシチューを指先につけて舐めるとアハトはカッと目を見開いた。


「ぺろ・・・こ、これは、青酸カリ!?」


 そしてそのまま倒れる。


「いやー!!紅牙おにいちゃんが死んじゃうー!!」


 その言葉にフィーアが大慌てしながら倒れている紅牙をゆさゆさと揺さぶった。


「だ、誰よ私の料理に毒を入れたのは!!」


 ドライは明らかに動揺しているがどちらかというと毒を盛ったのは彼女の方だ。


「だからキッチンに立つなって言ったじゃない!

 ああ、もう・・・!気付いた時には手遅れだったってこと!?」


 確かに、ソフィが慌ててドライをキッチンから追い出したのは彼女が鍋の前でおたまを持っている姿を見たからだった。

 しかし、まさかあの時すでにシチューに手が加えられていたとは。


「解毒剤!解毒剤はどこー!?」


「と、とりあえず解毒魔法をかけるからおちつきなさいフィーア!

 っていうか、なんで食事の時にこんなことしなきゃいけないのよ!」


 文句を言いながらもソフィが解毒魔法をかけて紅牙とアハトは一命を取り留めたのだった。


 ちなみに・・・


「ドライが作ってくれたんだから僕はおいしくいただくよ!!」


 と、男気を見せたアインはその後しばらく青い顔をしていたという。


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