ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast 第6章『紅牙と蒼夜』①
ホムンクルスの箱庭 ~Seven deadly sins~ 第1話 Sloth Beast 第6章『紅牙と蒼夜』①と②と③を同時に更新しました(*ノωノ)
「ツヴァイ、ちょっといいかしら?」
「なんだい?ソフィ。」
夕食後、リビングのソファーでくつろいでいたツヴァイの元にソフィがやってきた。
今は皆がそれぞれの部屋に戻りここには2人しかいない。
読んでいた本から顔を上げたツヴァイは意外な訪問者を不思議そうに眺めたものの、すぐに本を閉じてソファーに座り直す。
それを見てからソフィは向かい側に腰をおろした。
「皆で働き始めてからそろそろ一月は経つでしょう?」
「ん?そうだね。」
唐突な切り出しにツヴァイは戸惑いつつも頷く。
「1日くらいしっかり休む日を作りなさいって言おうと思って。」
ソフィが見ている限りここのところツヴァイは毎日のように狩りに出かけている。
もちろんそれによって家計が支えられているのだから文句を言う筋合いはないのだが、ソフィには一つ気がかりなことがあった。
「たまにはゆっくりフィーアと過ごすのもいいんじゃないかしら。」
先ほどの紅牙に対するツヴァイの態度、あれはさすがに目に余るものがあった。
それだけではない、紅牙自身も言っていたがツヴァイの最近の彼に対する態度はあからさまなことが増えていた。
そして、それは決まって紅牙がフィーアと関わっている時に起こるのだ。
なのでソフィとしては、2人が少しでも関係を作る時間を持つことが大切だと感じていた。
「僕もフィーアと離れている時間が長いのは嫌だし、ある程度休んでも平気かな?」
「ええ、アインやドライも頑張ってくれているから数日休むくらいなんでもないわよ。」
アインとドライは最近『正義の執行』と称してこの辺りの盗賊狩りを行っているらしい。
どんな風に執行を行ってるのかは分からないが、毎日楽しそうに2人で出かけて行っているのでそれだけは良いことだと言えよう。
「そうだね、嬉しいよ。ソフィもよく働いてくれてるからね。
ところで大丈夫かい?あんなことをして・・・」
「ん?・・・うん!?ま、まって・・・どこまで知ってるの!」
話が意外な方向に飛び火してソフィは思わず身を乗り出す。
「な、何言ってるんだいソフィ、君がいつも頑張ってることなんて僕は前から知っているよ!」
ごまかすように笑うツヴァイにソフィは諦めたようにうなだれた。
「皆には・・・絶対に言わないで。正直、私の人生の黒歴史だわ。」
「もう少し自信を持ってもいいと思うけどな。」
「ああいうところだから需要があるのよ・・・」
「ま、まあそうかもね・・・」
ははは、と互いに乾いた笑いを浮かべたところでソフィが軽く咳払いをしてから話を元に戻す。
「正直ね、さっきのツヴァイ少し怖かったわよ?」
その言葉にツヴァイは何のことだかわからないというような、きょとんとした表情をした。
「紅牙に対して、ああいうことを言ったこと。」
「あ、ああ・・・だってあれは、あいつが最近あまりにもダメなことばかりするから。」
言われてからようやく思い当たったのか、ツヴァイは無意識に視線を逸らしてそう答える。
「うん、確かに私たちが思っていたイメージと彼はだいぶ違ったかもしれない。
でも家族だもの、そういうところだって少しずつ受け入れていかなきゃ。
それに、彼がダメなだけの人間じゃないってことはあなたも知っているはずよ。」
「・・・そうだね。」
「ねえ、ツヴァイ・・・フィーアはああいう子だから。
子供たちにもペットにも人気があるし、誰かが困っていれば優しくせずにはいられない。
・・・寂しいならさびしいってちゃんと言ってあげないと、あんまりかまってもらえないわよ?」
「ああ・・・そうだよね、心配かけてごめん。
そうだね、ソフィが自分の話を恥ずかしいっていうなら、お互い今回のことは他には話せないっていう話になっちゃうだろうけど。」
遠まわしに誰にも言うなと牽制してからツヴァイは言葉を続ける。
「僕は・・・ソフィの想像通りに嫉妬しているだけなんだと思う。
彼がいつもこの場所を守ってくれてることなんて僕だって最初から分かってる。
でも、それはそれとしてどうしても嫉妬しちゃったんだ。」
そんな風に教えてくれるツヴァイは、自分の中にある感情をどこか持て余しているようにも見えた。
「紅音や皆に心配をかけたいわけじゃないから出来るだけやらないようにするよ。
自分でも気付かないうちにああいう言葉が出ていたことに関してはさっきも言った通り反省する。
でも、僕はたぶん嫉妬すること自体をやめることはできない。」
深いため息をつきながら告げられた言葉にソフィはこんな言葉を返した。
「そうね、ほどほどならいいんじゃない?」
「え・・・?」
「ツヴァイはなんていうか、昔から自分の感情を表に出さないっていうか隠すっていうか、遠慮がちなところが多かったけど・・・そういう姿を見られるようになったってことは元気になった証拠だもの。」
自分の身体が弱いことを引け目に感じてかツヴァイは昔からわがままを言わない子だった。
いつも自分の感情を押しこめて自分で解決しようとするような子だった。
昔からのそんな姿を知っているソフィにとっては、ツヴァイが感情を表に出せるようになったことは喜ばしいことでこそあれ、悲嘆するようなことではない。
「僕は皆のおかげで元気になれたんだ。でも、その分欲深くなっちゃったのかもしれないな。」
最近になってようやく彼は自由に動ける身体を手に入れていろんなことに余裕が出てきたのだろう。
そして、余裕が出来た分、今まで感じていなかったことまで敏感に反応するようになってしまった。
今はただその感情の扱いや表し方に慣れていないだけなのだろうということも分かっている。
でも、だからこそソフィは自分でも分からないうちにそうしてしまっているツヴァイに何か言わずにはいられなかった。
「いいんじゃない?好きなんでしょう。」
誰のことが、などという必要もなかった。
ツヴァイにとって誰が大切な女性なのかなど言葉にしなくてもお互いに分かっている。
「うん、すごく大好きなんだ。」
それに対してツヴァイも大切な彼女を思い浮かべながら頷くと、ほんの少しいたずらっぽく笑ってこう返した。
「でもまあ、ソフィももう少しそういうのに力を入れてもいいと思うんだけどね?」
「ん?縁がないことよ、私には。」
「ま、そういうことにしておくよ。」
さらっと大人の対応をしようとするソフィに、ツヴァイもそれ以上は何も言わないというようにソファーから立ち上がる。
「さて、それじゃあ僕はそろそろ紅音のところに戻ろうかな。」
フィーアは自分の部屋で動物たちの世話をしている。
その間は邪魔になると思ってここにいたのだが、そろそろ戻ってもかまわないだろう。
「ごめんね、夜は2人の時間なのに。」
「基本的には2人の時間だけど家族との時間でもあると思うよ。」
「そうね、ありがとう。」
「僕の方こそ心配かけてごめん。」
「ごめん、って言われちゃうとちょっと悲しいわね。」
「うん、そうだね。それじゃあ、心配してくれてありがとう。」
「どういたしまして。」
そんな会話を交わしてからツヴァイはフィーアのところに戻ることにした。




