孤独な鍵
タンッ!
タンッ!
振り子が動く。
左から右へ、右から左へと。
一定のリズムとスピードを維持しながら、それはまるで時の流れの様に。
時の流れに身を任せ左から右へ、たった今を過去として刻み左から、未来へと進むかの様に振り子は右へと動く。
魔法が人の生活を担っているこの世界でも過去に戻る術は無い。
故に、死んだ人間は戻らない。
過去の過ちも未来への教訓にするしかない。
だが、今だけは左から右の時の流れに逆らい右から左へ一定のリズムとスピードで暫くの間、話《時》を戻す。
◇◇◇◇◇◇◇◇
時は賢暦3回と8000年頃。
※1回=1万年。
偉大な賢者アレクサンダー・ワトキンスがこの世を去り、3万8000年。
アレクサンダー王国、王都にて来訪者を威圧するかの如く聳え建つガディス城。
「あの子、気味が悪いわ。」
「コラッ!そんな事言うんじゃない。それに、あの子じゃなくてあのお方だ。」
ヒソヒソ。
ヒソヒソ。
「本当に気味が悪い。」
「正に、呪いの子よね~。」
「えぇ、間違いなく呪いよ。」
ヒソヒソ。
「…」
「大丈夫?あんな奴等の言う事なんて気にする事無いわ。貴方は貴方なんだから。」
「ターニア?」
「えぇ私よ。そんなに落ち込まないで、何度も言うけど貴方は貴方なんだから。」
「うん…ありがとう。じゃあベンさんの所に行ってくるね。」
「フフフ、えぇ行ってらっしゃい。」
◇◇◇◇◇◇◇◇
ガディス城に隣接されている国王軍所属の騎士を始めとした冒険者達、御用達の鍜冶場。
「ベンさんっ!!」
「おぉおはようさん!」
「今日は剣を3本と槍を作ればいんだよね?」
「あぁよろしく頼む。」
カンッ!カンッカンッ!カンッカンッ!!
カンッ!カンッカンッ!カンッカンッ!!
「しかし、凄いなー。」
「えへへへ。ベンさんには負けるけどね。」
「いやいや…」
(この子は凄いな…俺じゃ何回、生まれ変わってもこの子の領域には届かないな…)
鉄を打つ音と見た目の年齢は親と子以上に離れている2人の仲の良さを感じられる笑い声が今日も鍜冶場に、響く。
◇◇◇◇◇◇◇◇
だが、この幸せも長くは続かない。
なぜなら、人は老いて肉体は朽ちる。
魂は別人として生まれ変わるが残された人々が欲しているのは老いて今にも死にそうなその人だからだ。
「ベンさん…?」
「ゴホッゴホッ」
「大丈…夫?」
「ゴホッゴホッ、あぁ大丈夫だ…なぁ俺が…」
「何?」
「いや…お前との毎日は…ゴホッ楽しかったよ…」
国内屈指の名匠ベントリッククス・ラウドは安らかに目を閉じた。享年68歳。
「なぁ、お前は今日からここには来るなっ!」
「えっ!?」
「俺がベントリックスの第一弟子だからな。後は、俺が継ぐ。だから決定権は俺にある。お前は気味が悪いから今日限りでここには来るなっ!!」
「そうよね。私も前から気持ち悪かったのよ。これで清々するわ。」
気味が悪い…
気持ち悪い…
そうか…
そうだよね…
僕は気味が悪いのか…
ポタ
ポタ
ポタポタポタポタ
ポタポタポタポタ
ベンさん…
「あぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁ!」
ポタポタポタポタ
ポタポタポタポタ
「あぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁ!」
「神形」
少年の着けていた指輪がマントに変わり少年を包み込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
sideティターニア
ドゴォーン!
バンッ!
ドンッ!
本当に人間て、いつからこんな馬鹿になったのかしら?
何で、後継者争いから戦争なんてしてんのよ。
そんな事より、何処に行ったのかしら。
全然見つからないわ…
もっと…
私がもっと近くに居れば…
恐らく、マントを身に付けてるわね…
大丈夫よね…?
死んだりしないわよね?
それだけ…
それだけが心配だわ…
彼のアビリティだって死なない訳じゃ無いでしょうし…
こんな気持ちになるくらいなら、教えてくれるかは、別としてちゃんと聞けば良かったわ…
お願い…
また、逢えます様に…
◇◇◇◇◇◇◇◇
ハァハァハァハァハァハァハァハァ
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!
ハァハァハァハァハァハァハァハァ
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!
少年はただ走った。宛がある訳では無いが息を切らして走って走って走り続けた。
馬車馬の如く走り走り走り続け、走り出した時には綺麗だった服も靴も木の枝や泥で、少年の心と同様にボロボロになっていた。
何処でも良い。
何処でも良いから1人になりたい。
もう、やだ。
やだ。
何なんだよっ!!
みんなっ!
みんなっ!僕の事を気味が悪いとか呪いの子って…
僕が何をしたんだよっ!!!
ハァハァハァハァハァハァハァハァ
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!
ハァハァハァハァハァハァハァハァ
タッタッタッタッタッタッタッタッタッタッ!
もっと遠くに。
誰にも見つからない様な所に行かないと…
もう1人でいい。
1人がいい。
誰も僕に近づかないでくれっ!!!
「はぁぁはぁぁ…」
小屋?
誰か住んでいるのかな?
覗いてみるか?
誰か住んでるな…
生活してる
こんな山奥に住んでる人
「ホォォホォォホォォホォォ!!」
「わっ!?」
えっ!?
後ろっ!?
「こりゃぁ、随分と小さな来客じゃな♪」
「あっ!すいません…」
「いんじゃよ、いんじゃよ。まぁお主の身なりを見ればわかるわい。まぁまぁ中でお茶でもどうじゃ?」
「はい…頂きます。」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「この茶は今、儂が摘んできた物じゃ。口に合えばいんじゃが…」
「ありがとう…ございます。」
ゴクッ!
「おいしい…美味しいです!」
「そうかそうか。それは何よりじゃ…それで…深くは聞かん。聞いたら儂も話さないといけないからのぅ。まぁそれでお主は行く宛があるのか?」
「…ありません。」
「そうか、ならここで一緒に儂と住むか?ここは山奥だから、自然が豊かで良い所じゃよ。」
「いいんですか?」
「嫌なら言うまい(笑)それに儂も1人で寂しかった所じゃしな…儂は色々あって、もう10年…いや、15年…ハハハハハ(笑)何年だが忘れてしまったが、ずっと1人なんじゃ。お主も1人ならどうじゃ?」
「はい、お願いします。」
「ホォホォ、お主は良い子じゃな♪」
「えっと…名前ですよね?」
「ホォホォ別に言いたく無いなら言わなくていんじゃよ。ただ、呼び方だけは決めるかのぅ。」
「アルッ!!アルベールでっ!!」
「そうか、そうかアルじゃな。儂は…アレクサンダーとでも言っておくかのぅ。」
「何て呼べば?アレ爺?アレク爺?」
「アレ爺で大丈夫じゃ。」
こうして、黒髪の癖毛が目立つ少年と腰が曲がりながらも、元気なおじいちゃんによる不思議な共同生活が始まった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「アレ爺っ!!凄いねこれ♪」
「そうじゃろ?そうじゃろ?もっと褒めていんじゃぞ?」
「本当に凄いよっ!!こんな魔導具、見た事無いよっ!!」
「ホォホォそりゃぁそうじゃよ。儂は常に最先端だからのぅ。」
「アレ爺これは?」
「これはバリカンっと言って髪を切る魔導具じゃよ。どれ、お主も少し切った方がいんじゃないか?」
「じゃあ切ろうかな?お試しで(笑)」
「何で笑ってるんじゃ?」
「これ大丈夫だよね(笑)?」
「当たり前じゃ。誰が作ったと思ってるんじゃ…」
「やっぱ止めとくわ…」
「なんじゃとー!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
だが、時が過ぎれば一時の安らぎも終わる。
どんな偉大な人間も老いには勝てない…
生前、どれだけ人の為に生きて来たかなど関係なく、朽ち果てる…
「ゴホッゴホッ」
「大丈夫…?」
「アルよ…顔を見せておくれ…」
「アレ爺…」
「儂は…お主に伝えたい事がある…」
「うん…」
「ここに来てくれてゴホッありがとう…楽しかったわぃ…」
「僕もだよ…」
「最後じゃ…儂の全てをゴホッゴホッお主に託す。お主なら…お主なら大丈夫じゃ。」
「やだよ。そんなんいらないっ!!だから、ずっとずっと一緒に居てよっ!1人にしないでよっ!!」
「儂はお主と一緒に居る…大丈夫じゃ安心せい…これからもお主と共に有り続ける…」
だが、この男が他と違ったのは《《アレクサンダー》》同様に自身の全てを希望に継いだ事だろう。




