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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
2nd BRD  触れないカノジョのハナシ
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行歪不明

 自分の行動は全て自分が選択した物だと思う? 

 間違いなくそうだと言えるなら、その人生はきっと幸せだ。


「───クン! ───え!」

 

 そう思えなくなった時、その人生は幸せだろうか。

 例えばその人生が上手く行っても。自分が選んでいないとして。


「……ん、うう、う」

「守命クン!」

 いつから俺は気を失っていたのだろう。記憶はハッキリしているつもりだったが直前の記憶とどうも繋がりが見えない。今の俺は、部室の机に突っ伏している。記憶の中を辿ればどう考えても突っ伏している場所は床である筈なのに。

「……一魅」

「……大丈夫?」

「俺は―――」

 言おうとして、視線を下にやる。足元が濡れていない事に気づいたのだ。バケツは片付けられておりそこに水はもう存在しない。まさかあれ以降の手順を一魅が受け継いだ……?

「ミナシゴオトメはどうなった? 気を……失ってたんだ」

「何を言ってるの?」 キミは……自分で後片付けをしたんじゃない」

「へ?」

 時刻を見ると、とうに放送は終了している。

「……放送、俺も喋ってたのか?」

「ねえ、本当に大丈夫? まさかと思うけど、取り憑かれたの?」

「―――記憶にないんだ。とりあえずバケツをひっくり返そうとした瞬間から俺が何したのか教えてくれ」

 自分の知らないところで誰かが俺の代理になっていた。その事実に薄ら寒い気配を感じつつも判断は早いと思い直し一魅の話に耳を傾ける。不思議なのは他の人に見えないとはいえ殆ど幼馴染みたいな間柄の彼女が神坂守命の変化に気づけていない事だ。榊麻は見るからに人が変わったらしいが果たしてこれは本当に取り憑かれたのか。

「ひっくり返そうとした瞬間、頭を抱えたよね。それは覚えてる?」

「覚えてる。それ以降だ」

「私が声をかけたら『生活リズムを狂わせる部活のせいで頭痛がしただけ』とか言って、ひっくり返すのを止めたじゃない。水の向こうからキミの声がして……そう、その指示を無視しようって言いだしたのもキミ。水がある限りこの幽霊はここに居る筈だからどうにか放送に音声を乗せようって言いだして……覚えて、ない?」

「…………」

「声が聞こえるようになったって言いだしたでしょ。私達の放送に混ざってるらしい誰かの声……複数居るって。その声いわく榊麻が悪霊に取り憑かれているから、この町に伝わる方法で除霊しないといけない…………って」

「…………」

「私にその声は聞こえないけど、榊麻小太郎は近いうちに伽堂さんを不明にしてしまうから捕まえないといけないと言ってた…………ほ、本当に全部覚えてないの?」

 彼女の表情を直視するのも辛ければ、自分の顔を窺われるのも今は猛烈に抗いたい。誰かがすぐにでも気づいてくれればこうはならなかった。自分が取り憑かれたからじゃあ俺自身を実験台に除霊手段を探ろうと前向きになっただろう。

 だが誰も分からない。一魅ですら、俺に言われるまで普段通り接していた。何が恐ろしい? こんな恐ろしい状況はない。これからいつすり替わるかも分からず生活しないといけないのだ。もし向こうの幽霊がテレビの画面を見るように俺の景色を観測していたらフェイクを混ぜられていよいよ誰にも見分けられない。

 つまり、こういう話だ。『さっきまで乗っ取られていた』という前置きを挟むのは対策にならない、何故なら相手も同じ手段で俺を幽霊側と断ずればいいから。すると責任の押し付け合いでもう誰が誰か分からなくなる……いや、何より恐ろしいのは、どっちがどっちなんてどうでもいいかもしれないというところだ。

 一魅でさえ気づかなかったなら幽霊と俺に大した違いはない。神坂守命という自意識、自己存在の危機に対する警鐘は鳴っているがそれだけだ。いつか一魅を皆の目に認識させられるなら自分は幽霊になってもいいと思っていたが、何処の誰とも知らない幽霊に成り代わられたいなどとは一言も言っていない。

「そうだ、放送に混ざる声は今聞こえる? 君に憑りついた幽霊の発言が正しいかの確認を―――」




「んなもん聞こえる訳ないだろ! もう放送は終わったんだよ!」




 自分でもどうかと思うくらいの怒鳴り声、静かな夜を打ち破る喧噪はただ真夜中の静寂に恨みを込めて。

「……ご、ごめんなさい。もっと早く気付くべきだった……わね。放送が終わった途端に気を失った時点でもその考えは頭に無くて……ワタシは」

「……俺の方こそごめん。お前に怒ったってしょうがない、けど俺は取り憑かれた。何をするかも分からないけど、明日は伽堂に会いに行こう。確か放送を録音してるんだったよな、それで俺が何喋ったかも確認出来るし……いや、あんまり計画を決めると俺に取り憑いた霊が邪魔するかもしれない。まずは会いに行こう」

「今日は送って行こうか?」

「……いい。自分で帰るよ。大丈夫……心配いらない。幽霊はざっくり一時間くらい乗っ取ってきたんだから、俺も一時間は動けないと公平じゃないだろ」

 どこの誰が公平性を保障しているのだろう、世の中は理不尽で溢れている。俺以外には見えない幼馴染、未来で何かが起きる伽堂、そして入れ替わられても自分以外に気づいてもらえない神坂守命。

 これはただの願いだ。ズルをしないで欲しいという、心からの慈悲を乞うているだけ。


 幽霊にはそれを蹂躙する権利があるだけ。




















 漫画には、そういう展開がある。自分の中に悪魔がいて、そいつは時々身体を乗っ取ってくるが自分と相手という自意識が体内に二つあって、相互認識をすませている。そんな状態ならどれだけ良かっただろう、自分の中に誰かがいる感じられるなら、自分は自分だと定義づけられる。

 或いは剣術の達人が如く殺気を読む力でもあれば、悪意に満ちた幽霊を感じ取れるのだろうか。


『俺が俺でなくなっても、誰にも気づかれないのかな』

『      』

『一魅にはせめて、気づいて欲しかった。恨むのも変だけど、気づいてもらわなきゃ、俺は自分が誰だか分からなくなりそうだ』

『       』


 一魅すきなひとに迷惑をかけたくない、かといって時間帯的に他の誰にも電話はかけられないし両親に甘えるなんて俺は何歳だ。

 結局、十数年ぶりに誰もいない電話番号にかけてしまった。一魅と出会う前の俺は変わった奴で、よくこの電話番号に話しかけていたらしい。

 電話番号は存在しないのに、何故だか待っていると繋がった音がする、それだけの番号。喋りかけても話に答えてもくれないけど、誰かが聞いているような気だけはした。こちらも特に根拠はない。


『正直にいうとすごく怖い。怖いけど俺は、やらなくちゃ駄目なんだ』

『もう止まれない。一魅を見つけると決めた日から戻ることなんて許されてない。自分の意に背く、せめて好きな人を取り巻く怪現象を解決してやるのが俺の定めなんじゃないのか?』

『俺はどうなってもいいんだ。俺には大した価値なんてない』

『覚えていて欲しいだけなんだ。忘れられるのはきっと死ぬより辛い。誰か一人でもいいから覚えてくれれば……俺が、神坂守命なんて変な奴がいたなって言ってくれればそれだけでいいんだ』

『……子供の頃の記憶なんて忘れちまう。大した記憶じゃないからかな、それとも歳をとると一年の感じ方が変わるからかな』


 五歳の中の一年は五分の一。十年の中の一年は十分の一。十六歳の一年は十六分の一だ。比率が変われば記憶は一々思い出していられない、と、つまりはそういう話?


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。昔は一々理由なんかつけなくても友達はできたし誰かを好きになれた。今思い出そうとして出てくるのはたった今思いついた理由に過ぎないんだ。未来の俺と過去の俺が同一人物だったかも今は自信がない。取り憑かれると当たり前だった事もおかしく思えてくる」


 それは、例えば?









「俺は、誰なんだ?」




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