?人目の部員
放送を終えた後、俺達はたまらず部室内を捜索したが三人目の存在は遂に見つからなかった。
「……悪戯にしては、妙な投稿だよな」
あのお便りを読んだ後も放送は終わるまで続けたのだが、奇妙な投稿はあの一通を除いて他になかった。上手く場を繋いだからリスナーが違和感を持つ事は恐らくないのだが、俺達当人としては大問題だ。気のせいで済むならそれでいいが、直感で厄介を悟った。
「透明人間……は違うよな。だったら俺はもう被害に遭ってる」
「何故か深夜になると彼らは可視化されたから、あり得ないわね……それに、私達が一切認識出来なくてリスナーの一人だけが気づいてるのもこれまでと違うからもし悪戯や気のせいでないとするなら新しい事件になりそう」
「おいおい、もう次の事件か? いや、別に無視すりゃいいんだけどさ。知らない誰かが居るってだけで何かしてくる訳じゃないんだろ? あの時とは状況が……」
「別にワタシ達は透明人間が記憶を改変してまで暴れていると知らなかった。あの一件にはまだまだ謎が多いし、一概に語るのもどうかと思うけど?」
「……俺はいつかお前の情報が手に入らないかと思ってやってるのに、どうしてこんな変な話ばっかり来るんだよ。楽には行かないな」
直前に面倒くさがった男の言う事ではないが、無視をする訳にはいかなさそうだ。一魅も言うように何かあってからでは遅い。透明人間のハナシだって対処しなければまだクラスメイトは消えていただろう。三人は少なくとも犠牲になって、その事を誰も認識しないまま卒業していった筈だ。
危険はないから無視が安定……そう結論付けるには調査が足りない。時刻は三時で家に帰らないと碌に睡眠時間も取れなくなるのだが、ここではまだ帰れない。俺達の他に誰かいるというのなら、部活のルールを守っているアピールも兼ねて校内を調査しないといけない。早い話、戸締りの確認だが。
「俺達の無実を証明する為にもまた撮影した方がいいかな?」
「撮影はワタシがするよ。危険があるかないかもわからないし、まずは二人で」
「はぁ……家に帰りたいなあ」
そろそろ本当に眠いという話をするだけであともう一時間は語れる勢いがあった。ともかく俺は携帯の前に立つと、冷静を装いつつ切り出した。
「えー、放送が終わって、今は部室内です。近くを探しましたが……誰もいません。僕達はお便りが悪戯か気のせいだと思っているのですが、念のために校内を捜索してみようと思います……なあ、お便りなんだから今日はいないかもしれないぞ。本当に探すのか?」
「いつも聞いているらしい人からの苦情なら、たまたま今日いない可能性の方が少ないでしょ。もしいないならそれこそ放送を間近で聞いて逃げた可能性もある……それならそれで逃げた痕跡が残ってるでしょ。密室トリックよろしく自分が居た痕跡をまるまる消して外に逃げるなんて時間はないんだから」
「そのいつもって部分が引っかかるんだよな。まあいいや、抵抗は諦めたよ。探そう」
三階に関しては調べるまでもないと思っていたが、一応目視では調べておく。当然用事がないので教室は開いていないし廊下の窓も開いていない。そもそもここから脱出しようとする時点で現実的ではない、特殊な訓練でもやっていないとどんなに良くても複雑骨折、悪くて死亡だ。地上のコンクリートに誰も居なければそれ以上の確認なんて必要ない。
「まあ、居ないよな」
「じゃ、二階ね。それで、引っかかるっていうのは?」
「ん? 気になるのか?」
階段を下りつつ、視線は飽くまで校内全体へ。喋っていて見落としたなんて笑えない話になるから。
「別に大した話じゃない。喋ってる時に声が聞こえたんなら俺達にも聞こえてないとおかしいだろ。会話が邪魔されるんだから気づかない訳ない。透明人間の事件、俺は寝て起きたらきっちり影響を受けたけどお前は全く受けてなかっただろ。だから二人共気づかないってのは変だ」
「……ワタシが全ての影響を無視出来ると決まった訳じゃないけど、確かにそうね。でもほら、ワタシの声をキミ以外が聞こうとしたら何か機材を噛ませる必要があるように、その声もひょっとしたら同じ条件かもしれないよ。現地に居るんだからワタシ達が聞こえないのも一応辻褄は合うし」
「収録中だからこそって事か? それならお便りを出してきた相手を見つけるところからになっちゃうな……募集箱にしてから個人を特定出来なくなってるせいで見つかるかどうか」
不特定多数から投稿を募る事によりいずれ一魅の情報をという目論見から初回以降そうしたのだが、別の問題が発生してしまうなんて誰が想像しただろうか。携帯の個人チャットから送ってくるルールだったからこそ”見えないクラスメイトのハナシ”は無事解決したとはいえ、あのルールのままでは所詮知り合いの生徒からしかお便りが寄せられない。
二階を見て回っていたその時、電話がかかってきた。マナーモードなんて設定していないもんで、深夜の校舎にけたたましい着信音が鳴り響く。
「放送中に鳴ったらどうするつもりだったの?」
「深夜に電話してくる奴がいるとは思わないだろ!」
あまりに煩かったので、反射的に出てしまった。
『なあ、幾ら恋人でもやっていい事と悪い事がある。こんな時間に電話をかけるなんて』
『さっきの放送聞いたんだけどさっ。聞こえてた! 声!』
『……なに?』
『それで、誰か居るの? 居ないの? 二人の事だからもう調べてんだよね?』
『お察しの通りだけど、現状は誰も見当たらないな。そんな事で電話してきたのか?』
『そんな事って……思い出したんだよあの話。私が中学校の頃に一瞬だけ話題になった噂なんだけど―――』
その昔、町全体で酷いイジメが行われていた。きっかけも分からず原因も分からず、多くの人は周りがそうしているからという理由でその双子を無視していた。泣いても笑っても双子を存在しないかのように扱っていると双子達も負けじと反応してもらえるように過激な行動を取るようになり、遂には山に火を放つようになってしまった。
それに伴い双子は地下牢に閉じ込められ、やがて暗く狭い空間の中で息絶えたとされるが、双子が死んだ日から度々異変が起きるようになった。
『……それが、会話の中に紛れ込んでくる声の正体だって言うのか?』
『寂しいから賑やかな場所に来て会話に混ざろうとしてるんだって話になったんだけど……誰だったかなあ。その時のクラスメイトがね、学校が休みの間に変な儀式をしたっぽくて、それ以来無くなったんだよね』
『……俺が知らないんだから余程一瞬で噂が途絶えたんだな』
町が山に囲まれている都合上、深い理由がなければ殆どの住人が同じ小中学校に通う事になる。クラスが違うだけと言っても、違うだけで俺のトラウマも理解されない・誤解されるような有様だ。一クラスの中でちょっとした話題になってもすぐ止んだなら知る術はない。
俺が一魅の存在を周知させようと警察も巻き込んで暴れたくらいはやらないと……いや、あれは良くなかったのだが。
『じゃあそのクラスメイトについて思い出せるか?』
『うーん、どうだったっけ。透明人間のアレじゃないけどなんか丁度名前だけ忘れて……駄目だ。思い出せない! あ、そうだ。D組に当時同じクラスだった子が居るから聞いてみてよ。その子、記憶力がいいんだ。頭の中で写真を撮ってるみたいに色んな事が思い出せるんだよっ。ちょっと……最近は学校に来てないけど。ラジオのリスナーだったりしないかな?』
『…………誰だ?』
『伽堂結衣っていう……昔は地主だったとかで凄いお金持ちの家の子! 学校来てないから暇だし、聞いてるでしょっ』




