表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢のはずですが、公爵令息が婚約破棄する気ゼロでした  作者: あめとおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/14

後日談



 夜会から一ヶ月。


 学園の季節は、すっかり初夏へと移り変わっていた。


「……最近、距離が近くありませんか?」


 エリシアは控えめに言った。


「変わってない」


 即答だった。


 だが明らかに変わっている。


 以前は「隣」だった距離が、今は「肩が触れる」距離になっているのだ。


 中庭のベンチ。


 並んで座る二人の間に、もはや隙間はほとんどない。


「周囲の視線が……」


「問題ない」


「あります」


 小声で抗議すると、レオンハルトはわずかに首を傾げた。


「婚約者同士が共に過ごすのは自然だ」


「自然の範囲を少し超えている気がします」


「どのあたりが」


 本気で分かっていない顔だった。


(この人、本当に無自覚なんですね……)


 エリシアがため息をついた、その時。


「レオン様ー!」


 明るい声が響いた。


 リリアーナが駆け寄ってくる。


「今日こそ恋愛相談を——」


 そこでぴたりと止まった。


 二人の距離を見て。


 沈黙。


 数秒。


「……あの、もう私、介入する必要ありませんよね?」


「最初からない」


 レオンハルトが即答する。


「ですよね!!」


 リリアーナは満面の笑みで頷いた。


「最近の学園、甘さが供給過多なんですよ! 歩く恋愛成就スポットって呼ばれてます!」


「な、何ですかそれは!?」


「知らなかったんですか!?」


 エリシアは真っ赤になる。


 一方でレオンハルトは冷静だった。


「事実なら問題ない」


「問題しかありません!」


 思わず声が大きくなり、周囲の学生が笑う。


 以前なら居心地の悪さを感じたはずなのに、

 今はどこか温かい。


 リリアーナは満足げに頷くと、小声で囁いた。


「エリシア様、顔、すごく柔らかくなりました」


「え……?」


「前より、ずっと幸せそうです」


 そう言い残し、彼女は去っていった。


 静けさが戻る。


 風が木々を揺らす。


「……幸せそう、でしょうか」


 ぽつりと呟く。


「あぁ」


 迷いのない返事だった。


「私は毎日そう思っている」


 エリシアは視線を落とす。


 胸の奥がじんわり温かい。


「……レオンハルト様」


「あぁ」


「私、少し分かってきました」


「何を」


 勇気を出して顔を上げる。


「あなたが、どうしてあんなに堂々としていたのか」


 夜会の日。


 世界中を敵に回しても構わないという顔。


 あれは強さではなく。


 確信だったのだ。


「信じてくれていたんですね」


「当然だ」


 即答。


「君を疑う理由が存在しない」


 その言葉に、胸がいっぱいになる。


 だから今度は――


 エリシアの方から、少しだけ距離を詰めた。


 肩が触れる。


 一瞬、レオンハルトが固まった。


「……エリシア?」


「婚約者として、適切な距離です」


 小さく言う。


 数秒後。


 彼は静かに息を吐いた。


「……これは反則だ」


 初めて見せる、わずかな動揺。


 それが少し嬉しくて、エリシアは微笑んだ。


 遠くで鐘が鳴る。


 変わらない学園の日常。


 けれど――


 二人の距離だけは、確かに少しずつ近づいていくのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ