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悪役令嬢のはずですが、公爵令息が婚約破棄する気ゼロでした  作者: あめとおと


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第12話 公爵令息は譲らない




 夜会場は、異様な静けさに包まれていた。


 先ほどまで流れていた音楽は止まり、貴族たちの視線が一点に集まっている。


 第二王子アルフォンスの声が、広間に響いた。


「では、確認しよう」


 その言葉だけで、空気が張り詰める。


 誰もが理解していた。


 これはただの質問ではない。

 断罪の最終段階だと。


 王子の視線が、ゆっくりと動く。


「公爵令息レオンハルト・グランディール」


「はい」


 迷いのない返答だった。


 レオンハルトは一歩前へ出る。

 背筋は真っ直ぐで、微塵も動揺が見えない。


 その隣で、エリシアは静かに息を飲んだ。


 ――終わる。


 そう思った。


 自分がここにいることで、彼の立場を危うくしている。

 噂はもう止められない。


 ならば。


 せめて――。


「君は」


 王子が言う。


「侯爵令嬢エリシア・ローゼンフェルトを、どう思っている?」


 会場が凍りついた。


 貴族たちが息を止める。


 令嬢たちは扇子の陰で目を輝かせ、

 令息たちは興味を隠しきれず視線を向ける。


 これは答え次第で、

 婚約が終わる問いだった。


 エリシアは俯く。


 お願いです。


 どうか――。


 距離を置いてください。


 そう願った瞬間だった。


「私の人生の最優先事項です」


 即答だった。


 一瞬、誰も意味を理解できなかった。


 ざわり、と空気が揺れる。


 王子が眉をひそめる。


「……聞き間違いではないな?」


「はい」


 レオンハルトは淡々と続けた。


「彼女は私にとって、守るべき存在であり、共に歩むと決めた相手です」


 ざわめきが大きくなる。


 予想外だった。


 弁明でも否定でもない。


 ――全面肯定。


 王子が低く問う。


「しかし、彼女は傲慢で周囲を排除しているという報告がある」


「事実ではありません」


 言葉は静かだったが、揺るがなかった。


「彼女は幼少期から、常に他者を優先してきました」


 エリシアが顔を上げる。


「学園入学当初、私が孤立しかけた時も、声をかけてくれたのは彼女です」


 会場がざわめく。


「……公爵令息が?」


「ええ」


 レオンハルトはわずかに笑った。


「私は人付き合いが得意ではありませんので」


 軽い冗談のような口調だったが、

 その視線はエリシアから離れない。


「彼女がいなければ、今の私は存在しません」


 沈黙。


 誰も口を挟めない。


「そして、婚約についてですが」


 彼ははっきりと言った。


「これは家同士の都合ではありません」


 貴族たちが息を呑む。


「――私が望みました」


 ざわっ、と会場が揺れた。


「私自身が、彼女との婚約を願い出ました」


 令嬢たちが目を見開く。


 王子すら言葉を失った。


「彼女は最後まで、自分では釣り合わないと断ろうとしていました」


 エリシアの瞳が震える。


「ですが私は諦めませんでした」


 柔らかな声。


「彼女を失う未来など、考えられなかったので」


 完全な静寂が落ちた。


 噂。

 陰口。

 悪役令嬢という評価。


 すべてが、音を立てて崩れていく。


 王子がゆっくり息を吐く。


「……なるほど」


 その目には、もはや疑念はなかった。


「つまり君は」


 確認するように言う。


「どのような状況になろうとも、彼女を手放す気はないと?」


 レオンハルトは迷わず答えた。


「ありません」


 一拍。


「未来永劫」


 その言葉に、会場が爆発した。


 歓声、驚愕、囁き声。


「本気だ……」

「ここまで言うなんて」

「噂と真逆じゃないか」


 エリシアは動けなかった。


 胸が苦しい。


 理解が追いつかない。


「……どうして」


 思わず零れた声は、誰にも届かないほど小さかった。


 だが。


 レオンハルトだけが聞き取った。


 彼は少しだけ身を屈め、彼女にだけ聞こえる声で言う。


「今さら隠す理由はないから」


 優しく。


 当然のように。


「私はずっと、君を選んでいる」


 エリシアの視界が滲んだ。


 その瞬間。


 誰もが理解した。


 これは断罪ではない。


 ――公開求愛だったのだと。





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