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6. 君らの願いを続けるよ(終)

「ロア」


「はいはーい」


 途中、人間たちの関所や見張り台があるのだが、ロアが一人で尋ねると、こんな辺境に女の子は珍しいのか、驚いたりデレデレしたりしながら簡単に中に入れてくれた。そこでロアが満面の笑みを浮かべて杖でトンと床を叩く。


「おやすみなさい」


 言うと同時に、人間たちはバタバタと倒れた。初級魔法、睡眠気スリープであり、ロアは初級の魔法であれば、無詠唱で使うことができる。ただ効果範囲を限定するのが下手なので、僕たちは少し離れたところから見守っていた。


 そんなかんなで、高い山々に挟まれた道のところまでたどり着く。そこには薄暗いモヤがかかっていて、ここが人間と魔物の境界だった。


 すっかり仲良くなったアトとロアが、遠くなっていく狼とゴブリンたちに手を振っている。あんなに退治しようと張り切っていたアトの方が涙を浮かべて、ロアから泣き虫と揶揄われている。


 まあ、これでいいんだよな。


 いのち、だいじに。


 もちろんこれは双子と周りの人たちを考えて言った言葉で、魔物の命のことなんて僕自身、きちんと考えたことはない。


 8年前、双子が生まれた時のことは覚えている。

 そのころの僕は、魔王を滅ぼすことになる、勇者のパーティの一員だった。







 産まれてきたアトとロアを、魔女クエタは愛おしそうに抱いていた。

 傍に立つ勇者フェムトがそのクエタを支えて、幸せそうに双子を見ている。


 それから時が経ち、魔王城を前にしたフェムトが言った。


「僕自身はずっと、人並みの幸せということがわからなかった。だからせめて、誰かの幸せを守ろうと思ったんだ」


「そうだったね、でも今はわかるんだろう?」


「ようやくさ。君とクエタのおかげだ」


 照れたようにフェムトは笑い、そして表情を引き締めた。


「魔王は必ず倒し、世界に平和をもたらしてみせる。けど。

もしそのとき、僕やクエタに何かがあったのなら、あの双子は、君が育ててくれないか」


「縁起でもないこと言うなよ。君とクエタの子供だろ?人類最強の双子じゃないか。僕には荷が重いよ」


「君だから、頼みたいんだよ。他のみんなではなく、君に頼みたいんだ」

 

 出会った頃と同じように、勇者が真っ直ぐに僕を見て言った。

 双子と同じ、銀の髪が風に流れる。


「僕たちが勝ち取った平和な世界で、双子を、人並みに幸せにしてやってくれないか」


 フェムトには予感があったのかもしれない。魔王は滅ぼしたものの、その死後の呪いにより、フェムトとクエタは相打ちになって倒れた。そして僕だけが知っていることとして、クエタは魔王の実の娘であり、双子は勇者と魔王の血を引いていることになる。


 そして僕は、二人の願いの通り、双子を普通の子として育てることに決めたのだ。


 いのち、だいじに。


 魔王の血を引く二人にとって、人間も魔物も命の区別はないのかもしれない。







 やがて見送りが終わり、涙で顔を赤く腫らした双子が帰ってきた。


「うまく見送れたかい?」


「うん、おいちゃん! オレ、やっつけなくてよかった!本当に…!」


 アトがボロボロ泣いている。


「もう泣き虫!そろそろ泣き止んだら?」


 そう言うロアも顔を赤く腫らしていた。


「君たちはおいちゃんの宝物だよ」


 僕は双子を抱き上げて、頬を寄せた。心の深いところから、声が漏れた。


「二人のおいちゃんでいられて、僕は幸せだなあ」


「「オレ/ロアも!!」」


「きゅう!」


 クエちゃんがコウモリの羽をパタパタさせて、僕たちの周りを飛び回った。 


 それから僕たちは、夕焼けに照らされた道を、手を繋いで帰ったのだった。 


 




おまけ


 帰り道はすっかり日が暮れてしまい、今の季節、まだ夜は冷える。双子は防寒具を着せていたが、夜になると思っていなかった僕は比較的、薄着だった。


 そのためか次の日、僕は風邪をひいたらしく、熱を出したのだった。


「おいちゃん!大丈夫?」


 部屋で寝ている僕の元へ、ロアが心配そうに、桶に水を汲んでやってきた。


「ロアが看病してあげるね!」


 タオルを絞っているようだが、非力なロアはうまく水を切れない様子だった。しかしそんなことお構いなしに、びっちゃびちゃのタオルが僕の顔の上に乗せられる。


 つ、つめたい…。それに息が…


 ロアは褒めて、とばかりに笑顔で僕の方を覗き込んでいる。僕は最後の力を振り絞り、ロアの頭を撫でてあげた。


「ロアちゃん、ア、アト…は?」


「買い物に行ったよ」


「ああ、そう」


 僕は力なく腕をベッドの下に下ろした。

 その僕の手をクエちゃんが心配そうにぺろぺろ舐める。


 頼む、アト。早く帰ってきてくれ!



Fin.

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

最後まで、頼りないおいちゃんと双子を見守ってくださり、ありがとうございます。


少しでも楽しんでいただけたのなら、幸いです。


もしこの作品を「気に入った」、「双子の活躍がもっと読みたい」と思って下さる方がいれば、


ブックマークや☆☆☆☆☆の評価で応援してくださればと思います。


また一言でも、感想がいただければとても嬉しく思います。


それでは、ありがとうございました!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 双子の純粋にワイワイ世界をたのしみながら子供として遊んでるのが微笑ましくて楽しかった そしておいちゃんとして頑張ってる姿も育児生活っぽくて好き
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