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入学式と『主人公』(中)

閲覧ありがとうございます!

って事で中編です!ヽ(゜∀゜)ノ

話の展開が亀並みに鈍いのはバグじゃなくて仕様ですorzと言いたいくらい展開が遅いですorz

とりあえず次回で入学式は終わります!多分!!


では今回も少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

高校に入って初めてのHRは和やかに始まった。


「このクラス、一年B組の担任の草岡真登(くさおかまさと)です。この一年の高校生活が君たちにとっていいものとなるように一緒に頑張っていこう。一年間よろしくお願いします。」


教壇に上がり自らの名前を書くと振り返った、黒のツーブロックマッシュヘアにスクエア型の黒縁眼鏡をかけ、穏やかな光を宿した眦が下がった二重の切れ長の瞳が特徴的な恐らく二十代後半ぐらいの草岡先生がそう言いながらおれ達の顔を見回してにこりと人の良い笑みを浮かべると生徒達から拍手が起こる。

見るからに穏やかな好青年でなその先生はさすがに名前は知らなかったけど学園内の図書館や食堂で何度か見かけた事のある人で、高等部の先生だったんだって納得しているとどこか照れくさそうに笑った先生が徐に出席簿を広げた。


「ありがとう。じゃあ早速だけど皆の名前の読みも確認しつつ出席を取るから、もし名前の読みが違うとかあったら遠慮なく言うように。じゃあ行くぞ。――出席番号一番、天海涼哉。」


「はい。」


先生に呼ばれた教室に縦に並んでいる六列のうち一番廊下側の列の一番前の席に座っている涼哉が返事する。

うん、凉川って出席番号男女混合なんだけど涼哉って大抵一番なんだよね。


ちなみに席順は涼哉から始まって奇数、偶数、奇数……という感じで一列ずつの出席番号順。

具体的に言えば涼哉の隣の席が出席番号二番の生徒、涼哉の後ろが三番の生徒、二番の後ろの席が四番の生徒って感じかな?

それで、出席番号三十三番のおれは、廊下側から数えて五列目の前から五番目、後ろから二番目という結構良い席だった。


「名前の読み違えとかはないか?」


「はい、大丈夫です。」


「了解、じゃあ続けて二番、沖原――……」



そんな感じで。

途中風本の下の名前を先生が見事に読み間違えるというアクシデントはあったものの、殆ど間違えずに呼ばれていくクラスメイト達の名前はその殆どが中等部の三年間で聞いたり、実際に関わった事がある内部生達のものばかりだった。

やっぱ外部生ってそんなに多くないんだろうなぁ。


「次、十七番……えっとこれは、せん……?」


「ちがさきです、千ヶ崎明葉(ちがさきあきは)。」


続けて月岡の隣の席――廊下側から数えて三列目の前から三番目に座るはきはきとした声の女子生徒に瞳を瞬かせる。


その少し変わった名字に聞き覚えがないって事は多分彼女は外部生だよね。

って事は、うちのクラスの外部生って千ヶ崎さんと月岡くらいかな?

出席番号後半の皆の顔は見覚えあるし。


確認するように軽く周囲を見回すと、HRが始まるからずっと空席のおれの左斜め前の席が目に入った。


そう言えば今日欠席者がいるとかは草岡先生言ってなかったけど、あの席誰の席なんだろう?


「ごめん、ちがさきな。――千ヶ崎明葉。」


「はい。」


「次、十八番。月岡……えっと、げ、げんかいじゃ渋すぎるか。く、くろみ? 月岡すまない、下の名前どう読むんだ?」


眉を下げ謝った草岡先生が気を取り直すように月岡の名前を呼びかけて、さらに眉を下げた。


ってか、げんかい……? 限界?


そう言えばさっき、おれ達はフルネームで名乗ったけど、月岡は名字しか教えてくれてないような……。


「………………はるみ。」


少しの間があった後、小さく息を付いた月岡が仕方ない、という様に口を開く。


「ああ成程、こう書いてはるみと読むのか。」


……へえ、月岡の下の名前、はるみって言うんだ。


男に付ける名前にしてはちょっと不思議な感じかな?

……まあおれの「葵」も大概だけど。


後でどう書くのか教えてもらおうとどこか感心した様に頷いてる先生と月岡の背中をぼんやりと見ながら考えているとチリっと何かが引っ掛かった。


あれ? 月岡はるみ?


この名前つい最近どこかで……。


月岡はるみ。


つきおか、はるみ。


――『月岡悠美』。


…………え?


――――っ!!?


「つっ、つきおかはるみ!!??」


次の刹那、脳内に浮かんだ名前に思い切り目を見開いた瞬間勢い余ってゴガンッと思い切り足を机に打ち付けた。


「っ~~~~~~!!」


「…………え、えっとひ、ひたにでいいのか? 日谷いきなり大声出してどうした? あと凄い音したけど大丈夫か?」


あまりの痛さに机に突っ伏し痛みに耐えているおれの耳に草岡先生の困惑したような声が届く。


……え、ってか待っておれ声に出してた!?


クラスメイト達の訝し気な視線に顔をあげられずにいると、「先生。」と涼哉の呆れかえった声が聞こえた。


「ん? どうした天海。」


「とりあえずそこの馬鹿の名字はひのたにです、日谷葵。あとどうせ葵の事だから寝ぼけてたんだと思います、放っておいたら直に復活してると思うので続けて下さい。」


そう多分に棘を含んだ涼哉にしては朗らかな声は彼が完全に怒ってる時のみ出すものでびくっと肩が揺れる。


やばい後で絶対怒られる……っ!


「いや、しかし……。」


「……あーー先生、大丈夫っすよ。天海と日谷って幼馴染でマジお互いの事よく分かりあってるんで。天海がそう言うなら日谷も直に復活すると思います。なっ、日谷?」


それでも渋る先生にすかさず風本がそう付け足してくれる。


「そ、そうか? 日谷本当に大丈夫か?」


最後に風本と先生に水を向けられ、突っ伏したまま小さく頷いた。


「……ごめんなさい大丈夫です続けて下さい。」


一呼吸でそう言いきれば、「じゃあ……。」と先生が再開しようとしたところで、ガラリと教室のドアが開き、思わず顔をあげ、また固まった。


「――すみません、遅れました。」


「おお、氷堂。もういいのか?」


「はい。」


鈴を転がすような澄んだ声が耳朶を打つ。

そこにいたのは入学式で注目を一身に浴びていた彼女――氷堂愛凛だった。


「…………何で。」


一気にざわついた教室内でまた失態を晒すわけにもいかず、今度は口元を手で覆い呟く。


彼女の事を説明された時、『月岡悠美』はルートによってクラスが変わるから何とも言えないけど、『氷堂愛凛』は『月岡悠美』やおれ達――『天満涼也』『日谷蒼生』、風本のゲーム内の名前である『風本隼太』とは一緒のクラスにならないと涼哉は確かにそう言っていた。


でも、実際は全員が同じクラスで、しかも乙女ゲームの『主人公』で当然女性だった筈の『月岡悠美』が、男。


…………これって。


『バグ』という二文字が鮮やかに脳内に蘇り、忘れていた筈の不安がじわじわと沸き起こる。

それを堪えるように眉を寄せたままぐっと拳を握ると小さく息を吐きだしたところでクラス中のほぼ全員が氷堂に視線を向けてる中、何故かおれの方を振り向いていた月岡とぱちりと目があった。


……あ……そうだ。後でさっきの事、何か誤魔化さなくっちゃ……。


やけに真剣な彼の顔に一瞬きょとんとしたけど、すぐにそう思いつきとりあえずへらりと笑いかける。

するとどこか寂しそうな表情を浮かべた月岡が前方へと向き直った。


…………ん?




***




「――日谷。」


あの後。

保健室に行っていて遅れたという氷堂の席がおれの左斜め前だった事には驚いたものの、彼女のおかげでおれの奇行は有耶無耶になり出席を取った後軽い自己紹介を行いHRは無事終了した。


今日の日程はこれで終わりな筈だから後は帰るだけ、と草岡先生が教室を出て行くと同時に騒がしくなった教室内でほっと息を付いていると月岡に声をかけられた。


「……つ……月岡。あの、さっきはごめん。変な反応して。……その、ちょっと驚いちゃって……。」


「驚いた?」


真直ぐに視線を向けてくる月岡に少ししどろもどろになりながら謝ると僅かに眉を寄せ怪訝な表情を浮かべた彼に聞き返された。


…………あ。


「え、えと、その。」


「――僕達の小学生の頃の同級生にもいたんだよ、『つきおかはるみ』って子。その子は女の子で、卒業以来会ってないから今はどうしてるか分からないけどね。そこの馬鹿葵は彼女と委員会が同じで仲も良かったからつい反応しちゃったんだよね?」


また墓穴を掘りかけたおれに月岡の後ろから目が全く笑ってない笑みを浮かべた涼哉が話しかけてきた。


……どうしようまだ怒ってる。


「ね?」と確認するように再度言われこてんと首を倒した涼哉に必死になってこくこくと頷く。


「へぇ、つまり日谷の初恋の相手が月岡と同姓同名ってわけか。そりゃ驚くのも無理ないよな。」


「…………は、初恋!?」


涼哉の隣で何だか妙な誤解をしている上に甘酸っぱいねえと頷く風本に慌てて声をあげる。


待って!? 小学校の頃にそんな同級生いなかったし、今のは全部涼哉がでっちあげたものなんだけど!?


「ん? 違うのか?」


「違うも何もそう言うんじゃないから! ……ただ『つきおかはるみ』って名前に思い入れはあるけどね。」


ある意味では、と内心で付け足して曖昧に笑えば「……そうか。」と少しだけ残念そうに月岡が呟いた。


「月岡?」


「……思い出してくれたってわけじゃねえのか。」


「――え。」


ぽつりと溢れた彼の言葉に軽く目を瞠る。


…………思い出す?


「いや、悪ぃ。何でもねぇ。」


きょとんとして彼を見遣れば、さっきと同じように少しだけ寂しそうな表情を浮かべ、すぃっと瞳を細めた月岡が踵を返す。


「――――待って!」


それが何だか放っておいちゃいけないような気がして、咄嗟に彼の手をパシッと掴んだ刹那脳裏に何かが過った。


「……え?」


――男らしく筋張った大きくて温かい月岡の手。


……何でだろ?おれこの手知ってる気がする。

それで前にもこうやって…………?


「……月岡。おれ達、前に会った事ある?」


手を掴んだまま尋ねればおれに向き直った彼がああ、と頷いた。


「一度会ってるぜ、凉川学園(ここ)でな。」


凉川(ここ)で?」


短く告げられた言葉に瞳を瞬かせる。


入学するまでは当然だけど外部生の月岡が凉川に来て、尚且つ内部生のおれと出会う機会なんてかなり限られてくる。

って事は……。


「――失礼。新一年B組の皆、今いいかな?」


眉を寄せうんうん唸っていると教室の前方のドア付近から知っている声が聞こえてきた。


さっき氷堂が教室に入ってきた時同様一気にざわつくクラスメイト達に顔をあげる。

次いで声のした方へ視線を向ければ、ぱちりと目があったさらさらのダークブラウンの髪にスッと通った高い鼻梁。長い睫毛に縁取られた髪と同じ色のアーモンド型の二重の瞳が特徴的な美貌の持ち主が形のいい薄い唇に柔らかく弧を描いてさらに続けた。


「やあ。日谷、天海。そうか、君達B組になったんだ。」


「金宮先輩!」


「お久しぶりです、金宮先輩。」


おれ達に向かって軽く手を振りながら教室に入ってきた生徒会長の金宮先輩に昨夜、涼哉に教えてもらった事を思い出す。


そうだ。

涼哉の話では『恋ゲ』ではHRの後、攻略キャラの中でかなり人気があった生徒会長が教室に来るという【最初のイベント】が起こり、ここでの『月岡悠美』の選択肢によってストーリーが結構大きく分岐するらしい。

確か金宮先輩とのフラグが立つとかどうとか……。


でも……。

月岡は男だし、そう言うフラグって立つもんなのかな?

それかここが『バグ』がある『恋ゲ』の世界なら、そういうの関係なしに『恋ゲ』通りにストーリーは進んでいくのかな。


でもそれなら。


――どこまでが予定調和で、どこからがバグなんだろう。


そう考えたら何だか無性に怖くなって、彼の手を掴んだままの手に無意識に力が篭ると、ぎゅっと手を握り返された気がした。

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