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すみません。僕は無関係のはずですが…強制参加はハラスメントです!  作者: 麒麟


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第3話 ぬくもりを忘れない…ありですか?

ふたりの真ん中に沈黙が落ちた。

何となく照れくさい。

学生の…恋が初めての学生の頃の苦さがある。

もっと純粋な子供の頃に戻れていたらいいのに…


頬が熱い。

立つ湯気の熱気のせいだと言い聞かせて小さく息を吐く。

狭い部屋に、インスタントスープの匂いが広がる。

「一個しかないから先に食べて」

沈黙に耐えられなかったかのように紘一が言う。

「半分でいい」

上手く言えているか不安になる。

「遠慮?」

「太る」

「変わってないなぁ」

「紘一が無頓着すぎるだけ」

出来上がったラーメンを二人で分ける。

でも移し替える器はない。

キャンプしているわけじゃないのに鍋のまま?にため息がこぼれた。

小さなテーブルがソファーの前にあるだけ。

このソファーも革を張りなおしてあるだけで年季の入ったものだ。

生活をすることなど何も考えられていない家具たち。

ホント…帰る場所にしてくれていたんだ…とウルッと来てしまう。

それを無視して鍋をテーブルに…

水着姿のグラビアアイドルが目に付く雑誌表紙の上にドンと置いた。

向かい合って座る距離が妙に近い。

昔も、こんな夜があった気がした。

「…強くなってきたね」

窓ガラスに、ぽつぽつと当たりが強くなる雨粒に美里が小さく呟く。

紘一はグラスを傾けながら「そう…だな」と頷いた。


いつ以来だろう。

仕事の話を交えずに、相手のことだけを求めて会話したのは。

「私のことはあんまり興味が無いんだと思った」

ポツリと美里の口から洩れた言葉に紘一は血の気が引いていくのを感じた。

興味が無いわけがない。

ただそれを言葉にするのが怖かった。

臆病だから踏み込めない。

誤魔化すように言葉も動きも軽くなっていった。

いや、美里と出会ったときはそのスタイルになっていた。

いつの間にか昔の恋人話題にっていた。

照れ臭い話。

笑って終わるはずだったのに…美里からのパンチが何度か飛んできた。

途中から、美里が泣きそうな顔で笑っていた気がする。

そのあと、どんな話をしたのかは覚えていない。

ただ、言葉より先に手が伸びていた。

暗闇の中で、お互いを確かめるように触れていた気がする。

ただ…熱く求めあうままに…


雨音は、夜が更けても止まなかった。

狭い部屋の中に、インスタントラーメンの匂いとウイスキーの香りが薄く残っている。

他愛もない話をしていたはずなのに…

いつの間にか、互いの距離だけが曖昧になっていた。

別れた理由も。

いまさら戻れない理由も。

そんなものを誤魔化すみたいに、触れて、抱き寄せて、確かめ合った。

曇った窓ガラスに雨粒が流れていく。

その向こうで、トラックのライトだけが静かに通り過ぎていた。

見渡しが良いとはいえカーテンぐらいは必要だと意識をずらす。

それなのに…

美里が小さく寝返りを打つ。

紘一は思わず動きを止めた。

なぜか息まで止めた。

寝息は静かだ。

睫毛が少し震える。

化粧の落ちた顔は、編集部で見せる強気な表情よりずっと幼く見えた。

昔からそうだった。

起きている時は気を張っているくせに、眠ると急に無防備になる。

紘一は美里の髪をそっと指で払った。

そのまま額へ触れかけて、途中で止める。

ドキドキとうるさく騒ぐ何かが動きを止めていた。

何をしてるんだろう。

いまさら。

その結果は…

ベッドで寝返りを打つ美里を見詰めて苦笑するしかない。

持って出るものを頭の中で反芻していく。

片道8時間程度。

一瞬、電車を使うことも考えてみる。

でも、結局のところ…それはできない。

忘れ物を取りに帰れる距離ではない。


「……ん」

その視線に反応したように、美里は抱きしめていた枕を床に落とす。

それを拾い上げ、理性を飛ばしそうになる胸元へとそっと置く。

それを待っていたかのように、美里は枕を抱き直した。

ベッドに近付いたついでに…床に脱ぎ散らかしたシャツを拾い上げ畳んで椅子に乗せる。

自分の服は洗濯機へと投げ入れ、旅に持って行く物の再確認を頭の中で行う。

考えながら、珈琲でも淹れようとサイフォンをテーブルの上に置いた。

その瞬間だった。

デスクの端に置いた資料が、バサバサと机の上からダイブしていく。

今回の…町にするのか、それとも島にするのか…

いまはまだノープランだ。

現地に行ってから、必要なものを見極めるつもりだった。

「竹生島か…」

今日、滋賀県へと向かおうと思う。

葉月の押し付け…もとい、くれた仕事だ。

結果はどうであれ…と言いたいところだが…結果は必要だ。

葉月が一応紹介してくれたホテルもある。

空きがあれば泊まればいいし、無ければ車中泊で充分だ。

「……相変わらず雑」

後ろから眠そうな声が飛んでくる。

振り返ると、美里が毛布に包まったままこちらを見ていた。

「起こした?」

「内緒」

「よく眠れた?」

「…邪魔したくせに」

即答だった。

紘一は少し笑う。

「変なものを拾ってこないでよ」

美里は昔から勘が妙に鋭い。

「ん~大丈夫でしょ」

「鳴海紘一の観光取材って、だいたい何か起きるでしょ」

「失礼だなぁ」

「前は廃村で警察呼ばれてた」

「あれは…振り込め作業の隠れ家が…」

「鍾乳洞でも遭難しかけた」

「新しいルート見つけられたね」

美里は呆れた顔のまま、小さく吹き出した。

その笑い方に少しだけ昔を思い出す。

美里との出会いは振込詐欺事件で保護された見受けに来てもらったときだ。

ダムに沈むことになった廃村の現在(いま)を追うドキュメンタリーのための下取材。

そこに犯罪拠点のひとつが在るなんて誰も思っていなかった。

打ち合わせのためのTV取材クルーの到着が遅かったら…

いまこうしていないのかもしれない。

葉月に紹介されただけの美里にめちゃくちゃ怒られた記憶だけが鮮明に残っている。

「嫌な感じ、ねぇ……」

美里の一言に葉月の言葉を思い出しながら落ちた資料を拾い集める。

それを邪魔するように、デスクに残っていた紙束が崩れ落ちてきた。

バサッ!

「あっ」

足元へ資料と写真が散らばった。

観光パンフレット。

古い寺の記事。

湖の写真。

その中に、一枚だけ妙に古びた白黒写真が混ざっていた。

「ん?」

コピーの擦れた写真。

曇った湖面。

そして岸壁の端。

そこに、黒く細長い影のようなものが写っている。

人にも見える。

だが、妙に長い。

「何?」

美里が背後から覗き込む。

男物のシャンプーの匂いがふわりとまとわりついてくる。

肩に柔らかな感触が触れる。

無意識に息が止まりそうになる。

「いや……これ」

写真を見せようとした瞬間、美里の髪が頬に触れた。

柔らかい。

昨夜抱きしめた温度が、一瞬だけ蘇る。

美里も気付いたのか、少しだけ動きを止めた。

近い。

妙に。

狭い部屋の空気が急に熱を持った気がした。

「……何?」

先に逸らしたのは美里だった。

誤魔化すように写真へ視線を落とす。

だが次の瞬間、眉をひそめる。

「これ……何?」

紘一も写真を見る。

さっきまであった黒い影が、ただの岩陰みたいにしか見えなくなっていた。

お読みいただきありがとうございます。


基本的に 不定期更新の のんびり進んでいきます。

ご意見、ご要望あればうれしいです。

アイデアは随時…物語に加えていければと考えています。


今回、チャレンジ企画に挑戦!です

よろしければお付き合い願えればと思います

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