22.初めての運動会 06
ボクが参加している〇×クイズも佳境を迎えた。
気付けば5問目。
残っているのは6名程。この問題をクリアしたら全員に10ポイントが与えられる。
この〇×クイズで少しだけ仲良くなることができたカルラちゃんも、隣に緊張した様子で問題が発表されるのを待っていた。
「では最後の問題、行くわよー!国王陛下ローランド様の、最近の御趣味は筋トレである!さー、〇か×か!」
その問題に、会場がざわついた。
この国一の美少年と呼ばれていたローランド様、シルヴァーナちゃんのお父さんでもある陛下の趣味?あの細い体からは筋トレは想像できないけど、また運に任せて決めるしかないよね。
「カルラちゃん、一応聞くけど、どっちが正解?」
「私だって分からないよ。剣術ならまだしも筋トレって、陛下には似合わないって思うけど……」
そう言いながら来賓席の陛下を見るカルラちゃん。
陛下がこちらを見て手を振っている。
改めて確認してもその細い体では筋トレに嵌っているとは思えないけど。
「陛下?ヘイカー、陛下!おやめください!」
席を立ち両手を上げマッスルポーズを取り始めた陛下に、エレノ先生が注意をしている。陛下は舌を出して席に座りなおしていた。
ダメだ。さっぱり分からない。
「もう運任せしかないよね」
「そうだよね。カイくん、一緒にいてくれる?」
ボクはカルラちゃんのお願いにドキドキしながら頷いていた。愛の告白をされたわけじゃないのにね。恥じらうカルラちゃんの言葉に一瞬ゲームの事を忘れてしまった。
「良いからさっさと選びなさいよー!」
そんなシルヴァーナちゃんの声も聞こえてきたが、ボクはカルラちゃんの手を引きながら〇の前へ立ち背中を向けた。
「〇には2人、×には4人ね。良いのかな良いのかな?カウントダウンしちゃうよ?変えるなら今だよー!」
そんな言葉と共にカウントダウンを始めたエレノ先生。
×の前に立っている上級生達もこちらに移動しようか迷っているようだ。ボクも移動するかどうするかと迷っているけど、カルラちゃんはぎゅっと目を瞑りながらボクの手を強く握っていた。
信じよう。そう思っている中、結局移動は行われずにカウントダウンが終わる。
「じゃあ最後の審判の時です!覚悟は良いかな?じゃあ行きますよー!サン、ニー、イチッ!ドーン!」
その言葉と共にボクは宙を飛び、ボクにしがみついてくるカルラちゃんと思われる体を抱きしめる。そして横から聞こえる水音と悲鳴を確認する中、ポフリと柔らかい床へと埋もれた。
「やった!正解だ!」
ボクはそう言いながら目を開けると、すぐ目の前には真っ赤な顔のカルラちゃんがボクを見つめていた。
「カ、カルラちゃん?」
「うぇ?カ、カイくん!ごめんねすぐに、キャッ!」
またも体を起こそうとしてついた手が柔らかな床に取られ、カルラちゃんの顔が近づいてきた。
ボクは咄嗟に肩を掴んで支えることに成功し安堵した。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
まだ真っ赤なカルラちゃんのお礼にたどたどしく返すボク。もう恥ずかしくてドキドキが止まらないよ。
「早く戻ってきなさいよっ!」
そんな声が聞こえてきて少しだけ冷静になる。
「い、行こっか?」
ボクはカルラちゃんを抱き起こし、柔らかな床を踏みしめ通路へと移動した。ボクの手はカルラちゃんにしっかりと握られたまま……
みんなの元に戻るとカルラちゃんはボクの手を放し仲の良い2人の元に走って行ってしまった。
「や、やるじゃない!」
そしてなぜか不機嫌なシルヴァーナちゃんに出迎えられ褒められる。
「うん。全部運まかせだったけどね」
「ふ、ふーん。運も実力の内なんじゃない?」
「そうかな?ありがとう」
ボクは素直にお礼を言うとシルヴァーナちゃんは顔を背けていつもの2人の元へ帰っていった。その2人がボクを睨んでいるのはいつものこと。そんなことを考えながら駆け寄ってきたグイードと一緒に休憩場所のマットの上に座り気持ちを落ち着かせていた。
その後も競技は続く。
工作競争では段ボールと呼ばれる梱包材を使って20分間で『好き』というテーマで何か作ること、という競技だった。
ボクは大好きな父様を作ってみたが、選ばれた10名による審査で1点という結果に終わった。母様以外は誰も〇を上げず、同じく審査員の陛下に「ちゃんと評価しなさいよ!」と恫喝していたけど、エレノ先生に「カイ君の前でそんな真似して、恥ずかしくないの!」と怒られシュンとしていた。
狼化した格好良い父様。うまくできたと思ったのにな。
満点で優勝したのはシルヴァーナちゃんの護衛を務めているフェデリカちゃんだった。巧みな剣技を使って段ボールを綺麗に切り刻み、シルヴァーナちゃんを作り出していた。
それには陛下もその他の人達も〇を上げ、母様も少し遅れて渋々だが〇を上げ満点となった。
「美しいシルヴァーナ様には遠く及びませんが、シルヴァーナ様をモデルにしたこれは優勝に値するものですわ!」
そう言って段ボール製シルヴァーナ様を贈られたシルヴァーナちゃんはとても嬉しそうだった。
そして時間は過ぎ、遂に4人5脚の時間となった。
「い、行くわよ!」
少し顔を赤くしたシルヴァーナちゃんに手を引かれ、ボクはスタート地点へと移動し、足にしっかりと紐を結ぶ。
特訓の成果を見せてやる!そう思って同じグループで走ることになってしまった兄様と姉様を見て、緊張で高鳴る胸を押さえながら、スタートの合図がかかるのを待っていた。
「いきなり当たっちゃうなんて、カイも運が無いわね!」
「さっきの〇×で運を使い切ったんじゃねーか?」
姉様と兄様の言葉にグッと歯を食いしばる。
「そんなことないもん!負けないから!」
ボクの返答に2人はニッと笑う。
負けるもんか!ボクは少しだけ繋いていた手に力を籠める、
横ではシルヴァーナちゃんがすでに顔を下げ集中力を高めているようだ。
絶対に負けられない戦いがそこにある!
そして大きな爆音と共に、運命のレースが始まった。
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