オリエンテーション―3
遅くなってすいませんm(> <*)m
杖を仕舞いながら契が爽やかな笑みを浮かべ戻ってきた。
「他に魔物は?」
「いないよ、安心して」
「あの……どうしてさっさんは魔物がいるのかわかるんですか?」
縁が不思議そうに訊ねた。
「『千音使い《サウザンドマスター》』」
そう答えたのはさっさん――ではなく春人だった。何故春人が答えたのだろう。
あ、そうだ。
私は手に持っていたかばんを地面に下ろし、死体となっている魔物に近づき刀を出して、魔物の皮を剥ぎ、食べられる部分のみ切り取る。その間
「なんで金剛君が僕の台詞を言うの」
「なんとなく」
「なんとなくで?!」
「てへぺろ?」
小首を傾げながら言った。
「……可愛くないよ」
なんてことをやってた。
肉はこれぐらいでいっか。そろそろ出発するだろうしそんな沢山持って歩きたくない。
よいしょと肉を持ち皆のいる所へ戻ろうとしたら
「ほ、ほ、ほ、包月ちゃん包月ちゃん!かばん!動いてる!」
縁がこちらに向かってきて私を揺さぶってきた。少し気持ち悪い。
「お、落ち着いて。えーと私のかばんが動いてるのかな?」
「うんうんうんうん!そうそうそう!」
今度は自分の首を激しく縦に振ってきた。外れるんじゃないかと思うほど。
「首止めて」
「は、はい!」
とまってくれた。じゃあかばんの中を確認しようかな。少し思い当たる節はあるからそのまま手を入れても問題ないだろう。そしてかばんに近づき手を入れ中を探る。そうすると触り慣れた感触がしたのでそれを掴み手を引き抜く。
「きゅるー」
そして出てきたのは天だった。
「包月、抱かせてくれ」
のわ。突然春人が近づいてきて両手を差し出しながらそんなことを言ってきた。
後から思うとなんとも誤解を生む言葉である。だがその時はそんなことは考えていなかったしあまりにも突然でびっくりしていたので思わず
「ど、どうぞ」
と天を渡していた。そしてそれをぎゅっの春人は抱いた。そして顔を少し綻ばせた。そんな様子をただ呆然と見ていた。
「細原さん一応聞くけどあれは魔物だよね?」
「……ん?ああ、そうだよさっさん。さっさんは大丈夫?」
「何が?」
さっさんは何を問われているかわからないみたいだ。
「ほら、魔物というだけで嫌悪感や殺意を抱く人もいるから 」
私がそう言うと納得したみたいだ。
「僕は大丈夫だよ。それとほかの皆も大丈夫みたいだね」
三人の方に目を向ける。
「この子すごく可愛いですね!」
「春人!私にも抱かせなさいよ!」
「…………(ぎゅっ)」
「なんでさらに抱くのよ!」
「きゅ、きゅる……」
天が切なそうな声を上げた。可哀想だが勝手についてきたお仕置きだ。
「すごい!毛が、毛が気持ちいいー」
「ひゃーさらさらですね!」
「…………(ぎゅっ)」
「いい加減私達にも抱かせなさいよ!」
「…………」
ついに天が何も言わなくなった。そろそろ助けに行こうか。
「皆天を離して。ほら、天おいで」
「きゅるー!」
天が胸に飛び込んできた。涙目だ。
「よしよし」
宥めるように撫でてあげる。
天が鼻を押し付けてきた。なにか言いたいことがあるのだろう。
丁度いいかも、皆に私の魔法を知ってもらおう。
「天、戻すよ」
天が元の姿に戻っていく――いや、成長していく。そして現れたのは美しい天馬だった。
「マスター!なぜもっとはやくに助けてくれなかったんですか!」
「勝手についてきたから」
「…………お仕置きですか 」
さすが何年も一生にいるだけある。私は親指をびっと立てた。
「勝手についてきたことに関しては申し訳ありません。ですが二日以上もマスターと会えないというのが耐えられなかったんです…!」
天は顔をうなだせながら言った。
こう思うのも悪いが――すごく可愛い。あまりの可愛さに時が止まっているように感じていると。
「包月!」
春人に両肩を突然掴まれた。
「はい!」
反射的に返事もしてしまった。
「あれは天馬か?天馬だよな、天馬でしかないよな!それにしてもすごい!自分で体の大きさを変えられるだなんて!なあなあどこで出会ったんだ!?」
物凄い勢いでまくし立てられた。本当に春人かと疑うほどだ。それはほかの皆も同じようで口があいている。
「マスターから離れてください」
天が私と春人の間に割って入ってきた。
「マスターを困らせるようなことはしないでいただきたい。いくらマスターの友人といえども、マスターに不利益が被るのであれば排除しますので。それと私の体の大きさが変わるのは私の能力ではなくマスターの魔法ですので」
と天が言うと
「え?」
と契以外の皆の声がした。
「細原さんどういうこと?」
本当は夜にでも話そうと思っていたけど遅かれ早かれこうなっていただろうし。
「――さっさん近くに人は?」
「い、いないけど」
よし問題ない。
「皆少し気持ち悪い近くに寄って――天は少し離れて」
「まず私の魔法は『回復』じゃない。契にやにやしないで。ん?契がにやにやしているのは私の魔法を知っているから」
「なんで契だけ知っているか?単純にバレただけ。まさかバレるとは思っていなかったんだけどね、うん」
「少し話が逸れたね。はあ、緊張する。こんな形で皆に見つめられて言うことなんてないからね」
「いや、言うよ。私の魔法は『細胞支配』。機能は細胞を操ると簡単に言っておくね」
「なにか質問は?」
と、問いかけても誰も何も言わなかった。沈黙が重い。だがこうなることは予想していた。私が皆の立場だったらなにか言うことなんて出来ない。
どれほど経っただろうか。正直居心地が悪くなってきた。なにか言葉を発しようとしたがそれよりも先に縁が口を開いた。
「えーと“セルレイン”でしたっけ?植物も操れるんですか?」
「んー、人間や動物は簡単に出来るんだけど植物は出来るのことは出来るんだけど異常に魔力を使うの。たぶん相性が悪いんだと思う」
「そうなんですかー、あ!だから怪我を治せるんですね!」
「あの……私嘘をついていたんだよ」
恐る恐る言う。なぜそうも簡単に受け入れているのだろう。
「確かにそうですけど……なにか理由があったんですよね」
「うん、でもとてもくだらない理由だよ」
とってもくだらない理由。自分のエゴでしかない。
「でも包月ちゃんにとっては大事な事なんですよね。それに嘘をつかない人なんていません!」
笑顔でそう言い切った縁。すごく嬉しい。春人はどうかと見ると目があった。
「――嘘をついていたとしも、お前がお前であることは変わらない。だから友達であることも変わらない」
「僕も同じだよ。それぐらいどうってことないし。言いたくないことをわざわざ言ってくれたんでしょ」
「あたしは前から知ってから今さらなにか言うことはないよー」
「―――ありがとう」
あまりにも真っ直ぐにみんなから目を見つめられて言われたので少し恥ずかしく――嬉しかった。