犯罪ではないよ
1ヶ月更新してませんでした……。
あまり人が立ち寄らない、建物の裏手。日差しの下ではうっすら汗ばむ暑さだが、大きな影が落ちているここはジャケットを羽織らなければ少し寒いくらいだ。綺麗に整理されている学院内では珍しく雑草の刈り残しがある。そんな場所にアルは立っていた。
「ふぅ……。一応急いで来たのにアイツはまだ来てないのか。」
ランニング程度の駆け足で来た為、湿った額をハンカチで拭う。初めて訪れた第二倉庫の裏は本当に人気が無い。ここでなら多少もめごとがあっても隠すことが可能だろうとアルは思った。
湿った土を足でいじりながらディルを待つ。もしかして、この人気の無さを利用して自分に何か仕掛ける気なのか?いや、でもディルは自分に対して正々堂々とした勝負しか仕掛けてこなかったはず……。
そんなもやもやとした思いを抱きながら待つこと5刻みほど、ディルが優雅に歩いて現れた。
「お、早いなアル。」
「早いな、じゃない!放課後としか言われてないんだから放課後すぐに来るのは当たり前だろ。」
「そうか?俺もそんなに遅くないと思うけどな。まぁ、そんな急ぐこともないだろ。女は移動に時間の掛る生き物だしな。」
「は?女?」
アルが何を言っているんだ、という目でディルを見ると呆れた様な目で視線を返してくる。
「お前、なんでここに読んだか予想出来てないのか?」
予想こそしていたが、先ほどの文脈からして全く違うものだろう。でも明らかに違うものを言うのも癪で、口をもごつかせる。
そんなアルの様子にハァー……と、大きくため息を吐く。
「あのな、この第二倉庫の裏がどこかわかってるのか?」
「分かってるから来てるんだろ。」
「あのな、ここは談話室の裏だぞ?ここまで言えば流石にわかるよな?」
そこまで聞いて、まさか!とアルは上半身を大きくのけぞらせる。
「マ、マリーとステイルの会話を盗み聞きするのか!?なんて下品なッ!!」
学級委員長体質のアルはそんなのありえないとばかりに憤慨する。そんなアルの姿を見てディルはジト目で指をビシッと突き出す。
「お前!これから大人になって陰謀渦巻く世界に飛び込むことが確定してるのに、まだそんな甘いこと言ってるのか!!甘い!甘過ぎる!!お菓子よりも付き合いたてのカップルよりも甘いッ!!」
正論を行ったはずが思った以上の剣幕で言い返されて、反射的に身を縮める。
「お前は今何歳だ?」
「え、そんなの知ってる……」
「良いから答えろ。」
被せるように詰問してくるディルにおずおずと返答をする。
「12歳……。」
「成人は何歳だ?」
「18歳。」
「そうだ、後6年で成人だ。学院には最大で20歳までいられるが、ほとんどの人間は18歳で卒業する。そしたら完全に大人の世界だ。騙し騙されの世界になるんだ。お前はいつまで子供気分なんだ?今の年ならもう色々自分で準備し始める時期だろ?」
いつになく真剣な瞳で説教をされて、目を伏せる。しかしアルにも言い分はあった。
「分かってるよ。だから今から色々人脈を築いて……」
「甘い!!マリーの頬笑みより甘すぎて砂糖を口から吐きそうだ!!人脈?違うだろ。お前のは単なるお友達だ。仲良子よしで遊んでるだけだ。俺らみたいな立場の人間は簡単に信用して具体的なメリットも無しに繋がって協力するのは無理だ。仲よくしてればいつでも助けてくれるとでも思ってるのか?今、お節介を焼いてればいつか借りとして返してくれると思っているのか?多少はあるだろう。多少はな?でもな仕事として大きく動いてくれることなんてない。皆、自分の守りたいモノがあって守らなきゃいけない立場があるんだよ。」
アルは言い返したかったが、それは出来なかった。100%ではなくともディルの言っていることは正論だからだ。アルも薄々は感ずいていた。兄達も綺麗な繋がりだけではなかったはずだ。あの尊敬している両親も、きっと自分や領民を守るために大きな声では言えないようなことはしているのだろう。
それでもアルは友達を利害だけで結びたくはなかったし、逆にビジネスライクな関係を築くのも苦手だった。会って話したら少なからず愛着や、親しみを覚えてしまいはしないだろうか?そんな相手に金や情報を差し出して何かしてもらうことに罪悪感を覚えることはみんな無いのだろうか?
甘えだということは分かっている。それでもマリーとはそんなこと関係無しに今までずっと仲好くやってきた。両親同士では何かあるのかもしれないが、少なくとも自分とマリーの間には高度な駆け引きや、心理戦など無かった。
それが無意識に自分の甘さを作ってしまったのか……唇をかみしめながら、でもそれすら他の人み見られてみっともなくないように甘噛み程度だ。
誰は見ても落ち込んでるとしか思えないアルの様子にディルがため息を吐く。しかし、そのため息はあきれるというよりも頼りない弟を叱ったあとのようなものだった。
長年マリーを掛けて競ってきた相手だ。多少情けないところもあるが、常に努力を惜しまず、自分に挑み続けてくる一つ下の男の子。大きくなっても馬鹿正直なままで心配をしたりもした。
なまじ実力と家の各があるため自分のような姑息な手を使う事なく学年の中心人物に立ち続けている。それが将来も含めて良いことなのか悪いことなのかは分からない。
ディルの世代はマリー達の世代とは大分違う。生まれた時期の問題なのか、偶然なのか、みんながみんなギラギラとした牙を隠し持ち、気を緩めたら噛みちぎられかねない。そんな学年だ。下手をしたら、より大人に近い上級生立ちよりもシビアな人間関係を築いてる。
アルのようにマリーにべったりしないのも、同級生たちになめられないように、弱点として見られないように、常に取り巻きを付けてカリスマがあるように見せるためだった。
ディルのように実力があっても、そこまで気をつけなければトップで走り続けれない、そんな環境。
だからこそアルの態度にはイラつきもしたし、嫉妬もした。色々手をまわしてやっとマリーと触れ合える自分と違い、学院でほぼ公認の仲の2人。姑息な手段など使わずとも、友人に囲まれているアル。
そんな環境だからディルの行動の理由もわからずに怒って、詰め寄ってくる様は滑稽であると同時に眩しかった。
今もそうだ。なんだかんだで認めているディルに久しぶりに怒られて、本気で落ち込んでいる姿を晒している。それが弱みになって利用される可能性を考えていないのだ。
違いに黙り、沈黙が第二倉庫の裏を満たしていた。そんな沈黙を破ったのは小さなもの音だった。
2人の話しは終わったとは言えないものだったが、ディルは口を閉ざしてアルに対し、指をクイクイと動かして自分の方へくるようにジェスチャーを送る。アルも何か言いたげだったが、先ほどの話しで思うところがあるのか、黙って頷き、ディルの傍へと寄る。
角部屋である談話室の窓のすぐそばにしゃがみ込むと、ディルは手鏡を取り出した。
「……なんで鏡?」
息を漏らすような小声で尋ねる。先ほど説教をされたばかりなのに素直に質問をしてしまうあたり、アルにとっての第二の兄貴分なのは代わりないのだろう。そんなアルに思わず小さな頬笑みをこぼす。
アルはディルの胡乱げな頬笑みに意味が分からず頭を傾げる。
「まぁ、これを見てればわかるって。」
ディルも囁くような声で返答する。
手元の鏡の角度を微妙に調節する。ある程度いじるとよし、という小さな声が聞こえた。ディルは手を動かさないように気をつけながらアルをジェスチャで鏡を見るように伝える。
アルがディルの手元の鏡を覗くと、そこには壁で3分の1ほど見えないが、マリーとステイルの姿が映っていた。
思わず声をあげそうになった自分の口をとっさに両手で塞いで、改めて鏡を覗く。ステイルは窓を背にしている為、表情は窺えないがマリーの方は少し緊張しているのか、いつもよりも強張った笑顔を浮かべていた。
相手からは余程前度から身を乗り出さないと見えないような位置で、よくもまぁこんなドンピシャな位置取りが出来るものだとアルは素直に関心してしまった。
それだけでもアルからすれば驚きなのに、ディルはジャケットのポケットから小さな四角い何かを取りだした。「内緒だぞ」と言ってアルが頷くのを見ると2人の間にその四角い箱を構える。一体何かと、その箱を見ているとそこから小さな音が途切れ途切れ聞こえてきた。アルはまさか、と思い耳を近づける。
「……うん。……で……私も…………の。スティ……しょ?……で、……。」
そこまで聞いて確信した。これは聞きなれたマリーの声だ。会話はすでに進んでいるようだが、間違いない。2人の会話を盗聴しているのだ。
「おい、こんなものどこで手に入れたんだよ!初めて見たし聞いたぞ?!」
小声で怒鳴るという器用な真似をしながらディルに問いかける。それに対してディルはシーっと指を口元に当てて、黙るように伝える。
「聞こえないだろ。せっかくこんな貴族にあるまじき体勢でコソ泥みたいなことしてるんだぞ。お前もしっかり聞けよ。」
色々と言いたいことはあったがマリーのことが気になるのは確かで、ディルがこんな重要な物を見せてまで協力してくれているのだ。何を知ってもマリーには黙っておこう。そう決意すると、アルはディルと一緒に装置に耳を傾けながら鏡を覗き込むという無様な行為に身を落とすことになったのだった。
※この小説はほのぼのです。
年齢ミス多すぎてビビります。ちょいちょい直して行かねば。
7歳で1年生、5年経って今6年なので12歳。どっかで間違えた様な気がする……。