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惑星エルデアリス



【惑星エルデアリス、およびガルトープ沿岸地方に関する基礎資料】



───────────────────────



1. 世界の名


この世界は、古い神官暦ではエルデアリスと呼ばれる。


エルデアリスとは、古代語で「海を抱く土」を意味し、世界がまだ一つの大陸と一つの大洋から成っていたと信じられていた時代に名づけられた名である。


現在の人々は、自分たちの住む惑星をひとつの球体として正確に理解しているわけではないが、航海者、星読み、王立学院の学匠たちは、世界が平らな盤ではなく、緩やかな曲面を持つ巨大な天体であることを経験的に知っている。


夜空には二つの月がある。


大きい月はルナ=アーシュと呼ばれ、淡い金色を帯びる。

小さい月はミルカと呼ばれ、青白く、季節によって姿を消す期間がある。


二つの月が同じ夜空に並ぶ日は潮が不安定になり、海に生きる者たちは漁を控える。特にガルトープでは、この夜を二月見の夜と呼び、子供を外へ出さず、家々の窓を内側から布で覆う習慣がある。


エルデアリスには五つの大陸が存在する。


北のセリオン大陸。

東のラザルカ大陸。

南のオルメリア大陸。

西のヴァルグント大陸。

中央海を囲むイシュタリア大陸。


この五大陸のあいだには大小無数の島嶼、浅瀬、暗礁、海峡があり、世界の歴史は常に陸路よりも海路によって結ばれてきた。


ガルトープは、このうち西方大陸ヴァルグントの東岸、北寄りの入り江にある小さな漁村である。




2. 五大大陸



◼︎セリオン大陸


セリオン大陸は、エルデアリス北方に広がる寒冷な大陸である。


大陸の大半は針葉樹林、凍土、氷河山脈に覆われ、冬には空が緑色に燃えるような極光を帯びる。


人々は石と獣骨で補強した長屋に住み、冬のあいだは地下貯蔵庫に蓄えた干し肉、燻製魚、根菜、発酵乳で命をつなぐ。


セリオンでは、鉄と毛皮と星読みが重要な産物である。

特に北端の星読塔群は、エルデアリスで最も精密な天文観測を行う場所として知られている。


セリオンの民は、夜空を神々の帳面と考え、星の並びから航海、収穫、出産、戦の吉凶を読む。彼らにとって星は遠い火ではなく、過去の死者たちが凍った天幕に穿った穴であり、そこから祖先の視線が地上を見守っていると信じられている。



◼︎ラザルカ大陸


ラザルカ大陸は、東方に位置する乾燥した大陸である。


内陸には赤い砂漠と塩湖が広がり、都市は大河沿い、山脈の雪解け水、地下水路を中心に築かれている。


ラザルカでは、文字文化と法制度が高度に発達している。

石板、銅板、羊皮紙、薄く削った骨片に記録を残す習慣があり、王の命令、商人の契約、婚姻の誓い、死者の財産目録まで細かく書き残される。


この大陸の都市国家群は、世界でもっとも古い暦を持つ。

彼らの暦では、一年は三百六十六日であり、六年ごとに「余りの日」と呼ばれる一日を挿入する。この余りの日は、どの月にも属さず、裁判も契約も結婚も禁じられる。


ラザルカの学者たちは、余りの日を「神々が世界を測り直す日」と呼ぶ。



◼︎オルメリア大陸


オルメリア大陸は、南方にある温暖で湿潤な大陸である。


大森林、湖沼、河川、雨季の大平原によって構成され、薬草、香木、染料、果実、獣皮、宝石を産出する。


この大陸には、王国よりも氏族連合が多い。

土地を所有するという考えが弱く、森、川、狩場、聖樹、墓地は血縁と婚姻によって緩やかに共有される。


オルメリアでは、夢が重要な社会的意味を持つ。

族長は重大な決定の前に夢見の者を集め、複数の夢を照合して、森の精霊が何を望んでいるかを判断する。


彼らの伝承には、海の向こうから来た黒い柱の話がある。

ただし、それはガルトープの星の塔とは異なり、「空から落ちた眠れる獣」として語られている。



◼︎ヴァルグント大陸


ヴァルグント大陸は、西方に位置し、山脈、荒野、深い入り江、霧の海岸線を持つ大陸である。


北部は寒く、南部は温暖で、中央部には古い王国群と自治都市が点在する。


ガルトープが属する東岸北部は、岩礁と霧の多い海岸であり、農耕には向かないが、魚、貝、海藻、塩、船材となる硬い松を得ることができる。


ヴァルグントでは、海と山の信仰が混ざり合っている。

山には祖霊が眠り、海にはまだ名づけられていない神々が住むとされる。


東岸の漁村では、海へ出る前に山の方角へ礼をする。これは、戻るべき土地を忘れないためである。



◼︎イシュタリア大陸


イシュタリア大陸は、五大陸の中心に位置し、文明と交易の要である。


温暖な気候、広い平野、豊かな河川、複数の内海を持ち、古くから帝国、宗教、商業組合、学術院が栄えてきた。


現在、最も強い影響力を持つのはイシュタリア連合王権であり、これは一人の絶対王が支配する国家ではなく、複数の王家、聖都、商業都市、学術院が互いに均衡しながら成り立つ複雑な政治体である。


イシュタリアでは、魔術、錬金術、機械工学、航海術、法学が体系化されている。

ただし、この世界における魔術は万能ではない。火を生む、傷を塞ぐ、遠くの声を聞く、金属の性質を変えるといった技は存在するが、死者を蘇らせたり、時間を自由に戻したりする術は、神話や禁書の領域に属する。




3. 歴史の大きな流れ


エルデアリスの歴史は、大きく四つの時代に分けられる。


第一の時代は、巨石王国の時代である。

この時代、人々は巨大な石を切り出し、山頂や海岸や平原に円環状の祭祀場を築いた。文字は未発達だったが、星と季節に関する知識は高度であり、二つの月の運行を正確に観測していた。


第二の時代は、青銅海路の時代である。

帆船が発達し、沿岸都市が交易によって結ばれ、銅、錫、塩、布、香料、奴隷、神像が大陸間を移動するようになった。多くの海神信仰はこの時代に成立した。


第三の時代は、王冠と聖火の時代である。

鉄器、騎兵、城塞、王国、聖都が広まり、各地で大規模な戦争と宗教統一が進んだ。イシュタリア聖王朝が一時的に中央海を統一したが、その後、継承戦争によって分裂した。


第四の時代は、現在に続く航海諸国の時代である。

大型帆船、羅針盤、星図、港湾都市、学術院、商会連盟が世界を結び、各大陸の物産と思想が急速に混ざり合っている。


ガルトープは、この第四の時代においても、世界史の中心からは遠い村である。

王たちの戦争も、商人たちの富も、学者たちの議論も、霧深い入り江には遅れて届く。


しかし、星の塔だけは違う。


星の塔は、ガルトープを世界の辺境でありながら、世界の深層に触れる場所にしている。




4. ヴァルグント東岸地方


ヴァルグント東岸地方は、険しい山脈と入り組んだ海岸によって内陸から隔てられている。


山から海までの距離は短いが、そのあいだには深い谷、湿った森、崩れやすい崖、霧の出る沼地があり、馬車道の整備は難しい。


そのため、東岸の村々は互いに陸路でつながるより、海路で結ばれている。

人々は隣村へ行くにも舟を使い、結婚、葬儀、祭礼、交易、裁判の召喚まで、天候と潮に左右される。


この地域の海は豊かだが、決して優しくない。

暖流と寒流がぶつかり、海底には暗礁が多く、霧は昼でも濃く、冬には突然の突風が岬を越えて吹き下ろす。


東岸の人々は、海を母とは呼ばない。

海は養ってくれるが、抱きしめてくれるものではないからである。

彼らは海を、名を呼ばずに敬う相手として扱う。


ガルトープは、この東岸地方の中でも特に孤立した入り江にある。




5. ガルトープの地形


ガルトープは、三方を低い山と湿った森に囲まれ、一方だけが海へ開いた小さな村である。


村の背後には灰松の森があり、冬でも黒緑の枝が風に鳴る。森の奥には古い獣道があるが、地面がぬかるみやすく、霧が出ると方向感覚を失うため、村人でも深くは入らない。


村の西には羊歯谷と呼ばれる谷がある。

谷底には細い川が流れ、春には白い花が咲く。

この川は村の井戸水の源であり、上流に死骸や汚物を捨てることは固く禁じられている。


東には砕け岬がある。

黒い岩が牙のように並び、波が強く打ちつける場所で、嵐の翌朝には流木、壊れた樽、時には身元不明の遺体が打ち上げられる。


村の前には小さな湾が広がり、さらに沖へ進むと、常に薄い霧をまとった海域がある。

その中心に、星の塔が立っている。


ガルトープの家々は、海から吹く湿った風に耐えるため、石の土台に木組みの壁を載せ、屋根には薄い石板を重ねる。窓は小さく、雨戸は厚い。家の入口には、海から帰った者が塩と泥を落とすための浅い水桶が置かれている。


村の中央には広場があり、その広場には井戸、魚を干す台、共同炉、古い鐘楼がある。鐘楼の鐘は青銅製で、霧の日に舟へ帰路を知らせるために鳴らされる。




6. ガルトープの人口と暮らし


ガルトープの人口は、およそ三百人から四百人のあいだで推移している。


家は五十ほどあり、その多くが漁、網作り、塩作り、船修理、燻製、海藻干しに関わっている。


村の一日は夜明け前に始まる。

男たちだけが舟に乗るわけではなく、ガルトープでは女性も潮読み、網繕い、近海漁、魚の解体、交易交渉に携わる。力仕事は男が担うことが多いが、海を知る知恵に男女の差はない。


子供たちは七歳頃から仕事を覚え始める。

まず魚の種類を覚え、貝毒の見分け方を学び、網についた海藻を外し、干し場へ魚を並べる。十歳を過ぎると、天候の読み方、潮の匂い、雲の高さ、風の変わる前の鳥の飛び方を教わる。


ガルトープでは、文字を読める者は多くない。

村長、潮読み、薬師、交易係、礼拝堂の書記、そして一部の網元の家だけが帳面を扱う。


しかし、文字を知らないことは無知を意味しない。

村人たちは、潮の速さ、魚の群れ、風の湿り、月の欠け、波の重さ、鳥の沈黙を読み取る。彼らにとって世界は書物ではなく、皮膚で読むものなのである。




7. ガルトープの食文化


ガルトープの食事は、海の恵みに大きく依存している。


主食は、内陸から交易で得る黒麦、村の畑で育てる芋、干し魚、貝、海藻、発酵させた魚醤である。


春には小魚を塩漬けにし、夏には貝を干し、秋には大型魚を燻製にし、冬には海藻と芋を煮込んだ濃い粥を食べる。


祭りの日には、白身魚を丸ごと焼き、香草、塩、酸味のある木の実で味をつける。

子供たちにとって最も楽しみなのは、蜂蜜を塗った黒麦パンと、干した果実を練り込んだ祝い菓子である。


ただし、星の塔の霧が濃い日に獲れた魚は、必ず村長か薬師が確認する。

腹の中に光る砂を持つ魚は、食べられることもあるが、子供や妊婦には与えない。


その魚を食べた者は、夢の中で知らない海へ行くと信じられているからである。




8. 信仰と禁忌


ガルトープの信仰は、中央の大聖堂が説く一神教とは異なる。


村人たちは、表向きにはイシュタリア系の海聖信仰を受け入れているが、実際の生活では、古い土地神、海霊、祖霊、月の女神、家の守り木への信仰が混ざっている。


もっとも重要な儀礼は、帰り火である。

漁に出た家族がまだ戻らない夜、家の入口に小さな火を灯し、帰るべき場所を示す。これは死者への火ではなく、生者へ向けた火であるため、風で消えた場合は必ずもう一度灯す。


次に重要なのは、山礼である。

舟を出す者は海へ向かう前に、必ず村の背後の山へ一礼する。海に祈る前に山へ礼をするのは、自分が帰る場所を持つ者であることを海へ示すためである。


星の塔に関する禁忌は、他の信仰よりも強い。


塔を数えてはならない。

塔へ願ってはならない。

塔の夢を見た朝は、まず家族の顔を見なければならない。

塔の方角から声が聞こえても返事をしてはならない。

二月見の夜には、子供を沖へ向けて寝かせてはならない。


この禁忌は単なる迷信ではなく、過去に塔へ近づいた者たちの失踪、記憶喪失、人格変化、奇妙な予言などの経験から形成された生活上の防衛策である。




9. ガルトープの社会


ガルトープには王はいない。


村を治めるのは、長老たち、網元、潮読み、薬師、礼拝堂の書記からなる潮会議である。


潮会議は月に二度、鐘楼の隣にある石造りの集会小屋で開かれる。

議題は漁場の配分、舟の修理、交易品の価格、婚姻の承認、孤児や未亡人への支援、海難時の捜索、星の塔に関する異常報告などである。


ガルトープでは、完全な私有という考えは弱い。

舟や家は家族のものだが、網、干し場、井戸、炉、浜、森の一部は共同管理される。


孤児は親族が引き取るのが基本だが、親族がいない場合は村全体で育てる。

これは善意だけではなく、海辺の村では一人の子供も将来の労働力であり、潮を読む目であり、家系の記憶を継ぐ者だからである。


村から出る者もいる。

若者の中には、港町へ働きに出る者、商船に乗る者、王国軍へ入る者、学匠の従者となる者もいる。

しかし、多くは数年後に戻る。ガルトープの者にとって、外の世界は広いが、帰る場所としての村は重い。




10. ゾロの家


ゾロは、ガルトープの南端、浜から少し上がった石段の先にある小さな家に住んでいる。


家は古いが手入れされており、屋根の石板には苔がつき、入口には壊れた櫂を削って作った戸飾りが掛けられている。


ゾロの家系は、代々大きな網元ではない。

小舟を持ち、近海漁と干し魚作りで暮らす、ごく普通の漁師の家である。


朝は早く、まだ空が白む前に起きる。

炉に火を入れ、前夜の粥を温め、天候を確かめ、網と桶を持って浜へ降りる。冬には指がかじかみ、夏には魚の匂いが皮膚に染みつく。


ゾロは幼い頃から海を見て育った。

海は遊び場であり、仕事場であり、恐怖の場所でもあった。


彼にとって星の塔は、村の誰にとってもそうであるように、いつもそこにあるものだった。

だが同時に、他の子供たちとは少し違うものでもあった。


ゾロは、塔の周囲の霧の中に、時折、道のようなものを見ることがあった。

それは光の筋ではなく、空間が内側へ折れ曲がるような感覚であり、そこへ進めば、海の向こうではなく、どこか別の場所へ入ってしまうように思えた。


彼はそのことを誰にも言わなかった。


言えば、大人たちは怖い顔をする。

塔のことを詳しく話す子供は、星目と呼ばれるからである。




11. ガルトープの子供たち


ガルトープの子供たちは、海と禁忌のあいだで育つ。


彼らは塔へ近づくなと教えられるが、同時に、塔を見ずに育つことはできない。

浜へ出れば見える。

丘へ登れば見える。

夜に目を覚まして窓の隙間を覗けば、霧の中に黒い影が立っている。


そのため子供たちの遊びには、塔にまつわるものが多い。


石を積んで塔を作り、誰が一番高く積めるか競う。

霧の日に目隠しをして、鐘の音だけを頼りに広場へ戻る。

浜で拾った貝殻に耳を当て、塔の声が聞こえるかどうか試す。


大人たちはそれを叱るが、完全には止めない。

禁じすぎれば、子供はかえって塔へ惹かれるからである。


ゾロもまた、そうした子供たちの一人だった。

ただし、彼の好奇心は他の子供より少し深く、恐怖よりも先に「なぜ」という問いが立つ性質を持っていた。


なぜ塔を数えてはいけないのか。

なぜ塔へ願ってはいけないのか。

なぜ大人たちは、塔を恐れながらも、塔が見える場所に住み続けるのか。


その問いが、いつか彼を沖へ向かわせる。




12. 世界の魔術と学問


エルデアリスには魔術が存在する。


ただし、魔術は伝説のように何でも叶える力ではない。

それは、自然の流れに干渉するための技術であり、火、風、水、金属、治癒、記憶、音、光などに限定的な作用を及ぼす。


魔術師は、イシュタリアの学院、ラザルカの書庫都市、セリオンの星読塔、オルメリアの夢見氏族などで育成される。

魔術を使うには、素質、訓練、触媒、言語、図形、集中が必要であり、未熟な者が扱えば失明、記憶欠損、火傷、精神混濁などを起こす。


ガルトープには、本格的な魔術師はいない。

薬師が簡単な治癒符を使い、潮読みが月と風を読むための古い唱え言を知っている程度である。


そのため、ゾロが星の塔の中で出会う存在を「魔法使い」と認識するのは自然である。

彼の知る世界では、理解を超えた知識を持ち、奇妙な空間に住み、人の心を見透かす者は、魔法使いと呼ぶほかない。


しかし、星の塔の魔法使いは、エルデアリスの魔術体系には属していない。

その力は呪文ではなく、法則の外側から来ている。




13. ガルトープと外の世界


ガルトープは孤立しているが、完全に閉ざされているわけではない。


年に数度、南の港町レグナスから交易船が来る。

船は塩、干し魚、燻製、海藻、魚油、貝殻細工を買い取り、代わりに黒麦、鉄釘、布、油、薬、紙、酒、陶器、時には外の本を運んでくる。


交易船の船員たちは、ガルトープを気味悪がる。

理由は、村人たちが沖の塔について詳しく語らないこと、霧の日に鐘を鳴らす習慣があること、二つの月が並ぶ夜に村全体が急に静まり返ることなどである。


一方、村人たちは外の者を信用しきらない。

外の者は塔を珍しがり、近づこうとするからである。


過去には、王都の学者、聖堂の調査官、商会の探検家、異国の魔術師が星の塔を調べようとしたことがある。

多くは何も見つけられず帰った。

一部は霧の中で行方を失った。

戻った者の中には、塔には何もない、ただの黒い岩だと断言する者もいれば、二度と海を見ようとしなくなった者もいた。


このため、ガルトープの人々は、塔について外の者に語らないことを村の知恵としている。




14. 星の塔が与えた歪み


ガルトープは、地理的には小さな漁村である。


しかし、歴史的には奇妙な矛盾を抱えている。


古い地図には、ガルトープの入り江が描かれていないものがある。

別の地図には入り江だけがあり、村の名はない。

さらに別の地図には、村は描かれているが、星の塔がない。


村の家系記録にも不可解な点がある。

ある家は、三百年前から続いていると主張するが、その家の祖先が移住してきた記録は二百年前にしかない。

ある墓には、まだ生まれていないはずの人物の名が古い文字で刻まれている。

ある祭りは百年前に始まったとされるが、その祭りの歌はもっと古い巨石時代の旋律を含んでいる。


村人たちは、こうした矛盾を深く追及しない。

追及すれば塔へ近づくことになるからである。


だが、ゾロの存在は、この歪みの中でも特別である。


彼はガルトープで生まれ、ガルトープの水を飲み、ガルトープの魚を食べ、ガルトープの言葉で育った。

それにもかかわらず、彼の魂の座標は、世界の古い記録の中に見つからない。


彼は本来存在しなかった村に生まれた、本来存在しなかった少年である。




15. 総括


エルデアリスは、剣と帆船と魔術の世界である。


五つの大陸には、それぞれ異なる文明があり、王国があり、信仰があり、人々は戦い、交易し、恋をし、老いて死ぬ。


その世界の片隅に、ガルトープという小さな漁村がある。


ガルトープは貧しくはないが豊かでもなく、世界の中心ではなく、地図の端にかすかに記される程度の場所である。

そこでは朝ごとに魚が捌かれ、網が干され、子供が叱られ、老人が潮を読み、夜には家々の灯が霧ににじむ。


だが、その沖には星の塔が立っている。


村人たちは塔を恐れ、塔を語らず、塔を数えない。

それでも塔は常にそこにあり、海霧の奥で、まるで誰かを待つように静かに立ち続けている。


ゾロは、その村に生まれた少年である。


彼はまだ、自分の世界が歪みの上に成り立っていることを知らない。

星の塔が未来から来たものだとも知らない。

自分が、過去と未来のあいだに開いた穴から生まれた可能性であることも知らない。


彼が知っているのは、朝の海の冷たさ、網にかかった魚の重さ、家族の声、浜に残る足跡、そして沖に立つ黒い塔だけである。


けれど、世界の運命はいつも、そのような何も知らない子供の目から始まる。


ゾロが星の塔を見るとき、彼は単に村の禁忌を破るのではない。


彼は、エルデアリスという世界が隠してきた傷口を見る。

彼は、五大陸の歴史よりも古く、王国の争いよりも深く、魔術師の呪文よりも遠い場所から届いた問いに触れる。

彼は、未来に滅びた者たちが、まだ滅びを知らない世界へ投げた最後の種を見つける。


ガルトープは小さい。


だがその小ささの中に、世界の歪みが折り畳まれている。


そしてゾロは、まだ何者でもない少年でありながら、その歪みの中心に立つことになる。


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