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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第78話 ショーウィンドウに映る自分を見ていた

 リボン付きの白いブラウスと、紺のキュロットを着て街に出た。

 ショーウィンドウに、雫と手を繋いだ自分が映っていた。背丈は周囲を歩く男性の肩ぐらいまでしかない。小さな身体から生える手足は、戦闘員のくせに肌が綺麗すぎる。


 足を止めてガラスを眺めていると、手を引っ張られるような形になった。

 腕を伸ばしきったところで止まって、雫は振り向いた。


「欲しいの?」


 視線を、ガラスに映る自分から、その奥へと切り替えた。朱のビロードで彩られた展示スペース内には、高級ブランドの鞄が置かれていた。


「あ……いえ、違うものを……」


 見ていました。と、言えなかった。

 見て、いたのか、自分を。


 急に視界がぶれて、腹の底が熱くなった。


「あ、あぅ、ではなくて、その」

「欲しいならプレゼントするよ。日頃のお礼。すぐには……無理だからちょっとバイトとかしないとだけど」

「ち、違います、そうではありません、金銭的には不自由しておりませんし、物質的にも充足した生活を送っています、鞄などは特に経費で落ちますので、必要ならば自分で購入します。お手を煩わせるわけには、いきません」


 雫は胸の前で両手の拳を握って、深く頷いた。


「わかった、リンちゃんに内緒でバイトする。次の記念日、楽しみにしておいてね」


 記念日。付き合い始めた日のことだろうか、出会いの日だろうか、そういうのもあるのか。

 雫は、少し鼻息を荒くしている。口を結んだその顔は、やる気に満ち満ちていた。


「本当に違うのです。贈り物をいただけたらとても嬉しいのは否定しませんが、必要以上の負担をかけてしまうのは喜ばしいことではありません。欲しいのは、物ではなく証です、きっとそれこそがこの心を満たす……ではなくて、そのですね、その」


 あたふたと手を振る自分がガラスに映り込んでいる。顔は半笑いで、締まりがない。横目で、ちらっとそれを見た。少女をしている、とても。

 襟元の青いリボンが、差し色のように艶やかだった。


「その? なに? もう雫ちゃん見ちゃったから決定事項なんだけどぉ」

「ですから、違うものを見ていました。ブランド物には興味はありません。興味があるのは」

「あるのは?」


 自分、それは隠せない、否定できない。けれど他にもある、もうひとつある。


「雫です。前を行く雫を見ていました。このようなビルばかりの無機質な場所にいると、余計に際立って見えるな、と」


 風通しのいい青いカーディガンが涼しげな、今日の雫だ。


 雫はややのけぞったかと思うと、周りを見るように首を動かした。

 行き交う人々、連なる高い建物、道路に車、青い空に白い雲。夏の正午は、日に当てられて賑わっている。それらを確かめるようにせわしなく目を動かして、一回りしてから、視線が戻ってきた。


「やっぱり裸エプロン欲しい……? それともリボンだけとか……」


 今度はこちらが目を暴れさせそうになって、しかし雫から動かさないようにした。


「ぶ、ブランドの鞄よりは」


 太陽がビルに隠れて、足元が影になった。雫の丸いほっぺたがやや赤くなった。

 30センチくらいの距離で正対して、見つめ合った。人と車はどんどん流れていくのに、この場だけは静止していた。


 雫は顎を指でかいた。


「ご奉仕、ほしい? どんなの? なんでもするよ」

「し、雫、控えてください、ここは街です。あまり浮ついていると、輩に目を付けられます、危険です。刺客の気配も、やはりいくらかあることですし、地に足の付いたデートをしましょう」


 唇をすぼませて、ぼそぼそと雫は言った。


「自分から言ったんじゃん、もう。じゃあ、たまには刺客さん退治する? 久しぶりに」

「ここでは目立つので、普通にしましょう、普通に。きっと彼奴らも襲っては来ません。行きましょう、じっとしていると熱中症のリスクもあります。……御免」


 いつの間にか離れていた雫の手を取った。いつも向こうがそうしてくるように、腕を絡めてみようかと思案した。したが、やめた。

 夏の日差しは、暑すぎる。腕など組んでいたら、本当に熱中症で倒れてしまいそうだ。


「あ、じゃあ間を取って高級リボンにする?」

「色の話題からは離れてください、体温調整が難しくなります」


 ショーウィンドウに別れを告げて、再び歩き始めた。

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