1.1 魔術哲学の講義風景
「魔術現象の背後には必ず原理・法則があり、それらを解き明かす理論的アプローチと、その含意を深く理解する哲学的なアプローチがある。かくして、各系統の魔術というものは、より良質な詠唱と発動の効率に哲学的素養を要するんだ。」
カカッ、というチョーク音が黒板に連打するとともに、講師の俺は質問を待つ。
このクラスは少人数制だ。
新たに創設された「魔術哲学」のクラスだと言うのもあるが、「俺自身の事情」もある。
するとそこに、おずおずと手を挙げる女学生が一人。
「わ、わたし、アリシア・イデアルと申します。質問、よろしいでしょうか。」
「うん、いいよ。なんでも聞いて。」
俺は自分で言うのもなんだが、講師としての役割をキッチリと果たすつもりだし、今日の初講義で果たしたつもりだ。
そこに初めての質問。さて、どんな質問がくるやら。
「せ、先生はまだ中等部生でいらっしゃいますよね?その方が私たち高等部生を超える、いえ、教授クラスの魔術への造形を示している点に私は感銘を受けました。そこで質問なのですが、どのようにすれば先生の様に魔術への理解を効率よく深められるのでしょう?」
学問に王道なし。
とはいえど、俺は「魔術理論の詠唱と発動効率」を向上させるために「魔術哲学」のアプローチを発案したのだ。
だからこそ、若干15歳にして魔術都市・グランマリアのグランマルス魔術学院で教鞭を執ることができている。
「アリシアさん、俺は魔術っていうのは一つの世界を理解し動かすための方法論だと思ってる。だからそこに余計な先入観を入れる必要は無いんだ。」
少し間を置いて、アリシアが返答する。
「そ、それは何でもあり、ということになるのでしょうか…?」
それはよくある誤解だ。
学問である以上、なんでもあり、などという訳にはいかない。
「うーん、その考えとは少し距離を置いたほうがいいかな。自由な発想を、論理的整合性のもとに体系的に組み込むことが重要なんだ。余計な先入観を入れる必要はない、って言ったけれど、それが方法論であることも忘れちゃいけない。」
そう、魔術、および魔術哲学はあくまで方法論なのだ。魔術の探究・哲学の探究を通して、世界をより深く理解するための。
「な、なるほど…いえ、私も流石に何でもあり、って考えを本気で提示したかった訳でないんですが、先生の議論の展開の鮮やかさを見ていると、既存の理論や魔術の常識が悉く壊されていくようで…!」
「アマネ、でいいですよアリシアさん。」
俺、アマネ・フィロソフィアの初講義はこんなふうに穏やかに始まった。




