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学校給食未来録 ~ちょっとSF/浅倉椎菜の青春日記~  作者: STUDIO TOMO
7章 すみちゃんカレーと隅田川の夕焼け

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ep25 出汁のうまみと“香りのそよ風”

 その日の帰り道。

 わたしは、隅田川沿いの風に当たりながら

 家に戻り、

 いつものように、ふーぴょんをぎゅっと

 抱きしめてベッドに転がった。


 頭の中には、家常豆腐の食缶と、

 深川めしのバットと、

 そして「出汁」という言葉だけが、

 しつこく居座っていた。


(この匂いを、風に乗せて、教室まで

 運べたらいいのに。)


 そうつぶやいた言葉が、

 自分の胸のあたりにふわりと残った。


 その夜。

 わたしはまた、ふーぴょんを抱きしめていた。


「……ねぇ、ふーぴょん。」


 いつものように、わたしの腕の中で

 ふわふわしている。


「深川めし、ちゃんと作れたのにさ。

 それでも、全部は食べてもらえないんだよ。

 暑いから、食べたくても

 食べられない子もいるし……。」


 ふーぴょんの耳が、ほんの少しだけ、

 ぴくりと動いた気がした。


「匂いだけでも、先にすべての

 教室に飛ばせたらいいのに。

 『今日はカレーだよ〜』って、

 “風のおたより”みたいに。」


 そう言った瞬間、胸のあたりにある、

 ハート型のなにかが、

 どくんと脈打つような感覚がした。


 ふーぴょんの腹部の奥が、かすかに光る。

 部屋の明かりを消すと、

 その光は、暗闇の中でいっそう鮮やかになった。


 銀色のハート――

 お父さんの残したガジェットが、

 静かに脈動を始める。


 そこから伸びた光の糸が

 ふーぴょんの手先へと走り、

 空中に、湯気のような金色の粒子を編み始めた。


 オーロラみたいに、ゆらり、ゆらり。

 それがひとつの形にまとまっていく。


 まるで隅田川に浮かぶ屋形船のような、

 本のしおりのような、不思議なシルエット。

 両側には、隅田川の波を思わせる羽がついている。


 最後に、淡い光の文字が浮かび上がった。


 ――名称、“アロマティック

 オルファクトリー・

 サーキュレーション・デリバリー・

 ユニット・マークツー”。」


「長い!!」


 思わず、布団の上で跳ねた。


 「ぜんぜん覚えられないんだけど。

 それ、毎朝言わなきゃいけないの?」


「じゃあ、“A.O.C.D.U.-Ⅱ”で――」


「それも却下!ガンダムみたい」


 ふーぴょんが、少しむっとしたように耳を動かす。


「じゃあ、しいながつけなよ。」


「香りを……運ぶ……。」


 口の中で言葉を転がす。


「川みたいに、流れる……。」


 ふわっと浮かび上がってきた言葉を、

 そのままつかまえた。


「“スミダカレー・ブリーズ”。」


 口に出してみると、なんだか

 急に“ちゃんとしたガジェット名

 ”みたいに聞こえてくる。


「すみちゃんの、そよ風……みたいな意味、かな。」


 自分で勝手に日本語訳をつけてみる。


「“スミチャンカレー・ブリーズ”。

 ちょっと長いけど……なんか、

 かっこいいじゃん。」


  金色の粒子が、ぱちん、と

 小さな音を立てて弾ける。

 ドローンの側面に、

 「SUMICHAN CURRY BREEZE」と

 文字が浮かび上がった


 わたしは、枕元にそっと置かれた

 小さなドローンを見つめながらうなずいた。


「人口の香りを使って、

 無理に食べさせるためじゃない。

 本当の香りを運び“ひと口目の

 背中を押すだけ”って」


「ひと口目の背中を押すだけ。

 あとは、子どもたちと先生たちに任せる。」


『そして今日はは、ねること。

 あした、早いよ。明日つかってね』

 ふーぴょんの声が、胸のあたりに

 やわらかく響いた。


「……うん。」


 私のつぶった目に明日の献立表を思い浮かべる。


 すみちゃんカレー。

 かりかりサラダ。

 タカミメロン(タカミレッド)。

 牛乳。


 一学期最後の“ごほうびメニュー”みたいな

 顔ぶれ。


(今日までのモヤモヤを、明日ちょっとでも

n挽回できたら――。)


 そんなことを考えながら、わたしはふーぴょんを

 抱えたまま、眠りについた。


 ハート型ガジェットの光は、

 見ているのか、夢なのか分からない

 くらいの境目で、

 しばらく、静かに脈打っていた。

 窓の外から、わずかに隅田川から夜風が流れ込む。

 その風と、目の前の小さなそよ風“ブリーズ”が、

 どこかでつながっているような気がした。


 ここまで読んでくださって、

 本当にありがとうございます。

 この章は、椎菜が「新人」から少しだけ

「現場の一員」に

 近づいていく流れを意識しました。

 最初は失敗だらけで、怒られるたび心がしぼんで

 しまう主人公ですが、

 ラインの中に戻してもらう経験や、

 先輩たちのさりげないフォローが、

 少しずつ彼女の足腰を強くします。

 私自身も、新卒で現場に入ったときは、

 毎日が反省会でした。

 「調理は向いてないのでは」と思いながら、

 それでも翌朝また白衣に袖を通す。

 あの積み重ねが、振り返ると

 自分の基礎体力になっています。

 第二章では、ふーぴょんの

 ガジェットたちも増えてきますが、

 便利さだけで全部解決しないように、

 あえて“人の手”の工程を

 残すように書いています。

 道具があっても最後に判断するのは

 現場の人間であり、

 失敗や迷いも 含めて「チームの仕事」だからです。

 多くの人とつながり積み上げていくの

 現場だからこそ

 現場に皆さんにリスペクトを持って

 描いていこうと思います。

 引き続き読んでもらえていたらうれしいです。

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