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学校給食未来録 ~ちょっとSF/浅倉椎菜の青春日記~  作者: STUDIO TOMO
1章 エビクリームライスと、小さなSFのはじまり

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ep1 池尻の坂道と筑前煮

 挿絵(By みてみん)

 「学校給食 × ちょっとSF × 新卒調理員の青春」

 初日の“エビクリームライス大失敗”から、

 浅倉椎菜と、うさぎのぬいぐるみ・

 ふーぴょんの小さな物語が始まります。


 実際の給食室の空気や工程をリアルに描きつつ、

 新人が“自分の居場所を見つけていく”過程を、

 少しずつ積み上げていきます。


 最終話まで執筆済み。毎日更新します。

 給食の仕事が好きな方、これから挑戦する方へ。

 この物語が、小さなエールになれたらうれしいです。

 挿絵(By みてみん)


——私の新卒給食調理員としての一年は、この“ひと釜”から狂いはじめた。


給食室で迎えた、勤務初日。


私はまだ、給食の仕事を何ひとつ理解していなかった。


中途入社の男性社員が、回転釜を指さした。


「これ、混ぜとけ」


「でも、私、今これを……」


「いいから、やっとけよ」


言われるまま、私は釜の中を混ぜ続けた。


何を作っているのかも、

どこまで混ぜればいいのかも、分からないまま。


しばらくして——


「おい、何やってんだ!」


突然の怒声に、白衣の袖がわずかに震えた。


私は回転釜の前で、手を止めた。


男性社員が駆け寄り、

私の横をすり抜けて釜をのぞき込む。


そのすぐ後ろで、曽野チーフが足を止めた。


眉が、ほんのわずかに動いた。


釜の底には、

言い逃れのできない色が残っていた。


「浅倉さん」


名前を呼ばれただけで、背中が強ばった。


「この色、何色?」


「……茶色です」


「何の料理に使うか、分かる?」


「……分かりません」


答えた声は、

自分でも驚くほど乾いていた。


曽野チーフが、釜の中を指さした。


「これは何?」


「ブラウンルウです」


「そうね」


曽野チーフは、静かな声でそう返した。


胸の奥が、すうっと冷えていく。


この日からしばらく、

私は給食室に立つのが、こわくなった。


——けれど、そのときはまだ知らなかった。


この失敗が、

この先の毎日を、

静かに変えていくことを。


 ◇


——物語は、少しだけ時間を巻き戻す。


 ◇


六月の朝、池尻大橋駅をおりてすぐの坂道は、

朝の陽ざしがいつもよりまぶしく見えた。


(今日から、私の“給食の物語”が始まる。)


アスファルトの照り返しと、

犬を連れた夫婦や、おしゃれな人たち。


その流れに逆らうように、

私はスーツ姿で坂を上っていく。


池尻栄養専門学校の就職課。


いつもは学生でにぎやかな部屋も、今日は静かだった。


「じゃあ、“締めの一言”、

もう一回だけ練習しよっか」


向かいに座るのは、坊主頭の佐藤先生。


授業は厳しいけれど、

普段はよく笑う人だ。


何度も練習したはずなのに、

声に出すと、やっぱり少し震えた。


「……以上です」


「うん、ちゃんと届いてる。

あとは本番で、“誰に話してるか”だけ意識しな。

子どもたちか、自分の未来のどっちか」


その言葉に、背中を押された気がした。


校舎を出ると、空が少し高く見えた。


電車に揺られながら、

何度も志望動機を頭の中でなぞる。


(今日は“受かるかどうか”じゃなくて、

最初の一歩まで行ければ、それでいい。)


そう言い聞かせて、会社の入ったビルの前に立つ。


「……ここだ」


喉の奥が、からからになる。


エントランスの水槽の魚たちは、

不思議なくらい落ち着いていた。


説明会のあと、個別面接を希望し、

私は迷わず手を挙げた。


向かいに座るのは、人事研修部長の友部と、

明るい雰囲気の塩崎マネージャー。


「じゃあ、志望動機、聞かせてもらっていい?」


用意してきた言葉を、ひとつずつ拾い上げる。


「父が大工で、“暮らしの土台”をつくる仕事を、

小さい頃から見てきました。

だから、誰かの毎日を支える仕事がしたくて——」


言い終えた瞬間、

手のひらが汗ばんでいることに気づく。


友部は、静かにうなずいた。


「いいね。調理員も大工も、

どっちも暮らしの土台をつくる仕事だ」


その一言が、胸に残った。


「今日の分は、このあとすぐ選考にかけます。

結果は、今日中に連絡しますね」


「……よろしくお願いします」


深く頭を下げて部屋を出る。


ドアが閉まる音が、

世界の空気を少しだけ変えた気がした。

 第1話をここまで読んでくださり、

 本当にありがとうございます。


 この物語は、まだ始まったばかりです。

 椎菜も、ふーぴょんも、

 給食室の毎日も、

 これから少しずつ動き出していきます。


 作中に登場する「池尻栄養専門学校」は、

 実在校をモデルにした場所です。

 池尻大橋の坂は、朝に歩くと独特の静けさがあり、

 自分の足音だけが少し大きく響きます。

 あの感覚は、栄養士をめざす若者たちの

 “これから”に、どこか似ている気がしています。


 椎菜が池尻から電車に乗り、

 両国へ向かう道のりには、

 学生から社会人へ進んでいく

 小さな区切りを重ねました。

 その時間は、物語より前にある

 「もうひとつの青春」でもあります。


 今後は最終話まで毎日更新していきます。

 もし物語をすこしでも楽しんでいただけたら、

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 物語の続きを待ってくれる読者さんが増えるほど、

 椎菜とふーぴょんのちょっとSFの世界を

 より丁寧に描き続けられます。

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