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2話 『ストレンジフィールド』へようこそ


「くっ!ゼアルフォノス!?しかもめちゃくちゃデカイ!」


晴楽さんはサーベルを抜くとボクの前に立つ。


「あなたはおじさんを連れてさっさと逃げて!」


「え!晴楽さんはどうするんですか!?」


「戦うに決まってるでしょ!?私たちはそれが仕事なんだから!」


そう言って晴楽さんはサーベルを構えるが、ボクにはとても相手できるとは思えず、思わず彼女の腕を引っ張った。


「ちょっと!何すん……」


その時、巨大獣が角に引っかかった巨木をボクたちに向かって投げつけ、それが先ほどまで晴楽さんのいた位置に突き刺さる。


流石に肝が冷えたようで、晴楽さんも息を呑んで大人しくなった。


「作戦変更、おじさんを救出したらすぐにここから逃げてして救援を呼びましょう」


ちょっと焦り気味に体勢を立て直すと、晴楽さんは急いで道端で疲れて倒れ込んでいるおじさんを救出する。


「よし!さっさと逃げるわよ!この先を行くと何もない荒野があるからそこまで走って! 」


そう言って、おじさんを背負って走る晴楽さん。あの華奢な体からは想像つかない体力を持っているようで、走るボクを追い越して前に出てそのまま距離を離していく。そんな彼女にボクもついていこうとしたその時、あの巨大獣は今まで見せたことのないスピードでボクたちに突っ込んできた。


「ッ!?危ない!二人とも避けて!」


思わず前の二人にそう叫び、二人とは違う方へと誘導するつもりで走る、すると狙い通り獣がボクの方を向いて突進の進路から二人は逃れることができた。けど、その後のことを考えていなかったボクは、その巨体を避けることが出来ない状況に陥ってしまった。


(もうダメだ……!)


巨大獣の角が目の前まで迫りと覚悟を決めた時、ボクの横をなにかが通り過ぎて巨大獣を跳ね返した。


「あ、あれ……?え、誰……?」


「…………」


巨大獣を跳ね返したのは、()()ボクの今の体と同じくらいの年齢の女の子だった。その手には禍々しい装飾で威圧感を放つ大鎌を握っていて、明らかに普通とは違う雰囲気を漂わせている。


多分と言ったのは、その女の子が前髪を長めに下ろして切り揃えて目元を隠していて、口元もマフラーで隠して顔が見えなかったからだ。


服装もゴシックロリータというやつかな、ベルトだらけでボンテージにも見える独特な漆黒のドレスに、靴底が20cmはありそうなブーツという晴楽さんとはまた違う変な格好の女の子は、何も言わずにただじっ……とボクを見つめてくる。


「え?え?ど、どうしたんですか……?」


うろたえるボクに彼女は何も言わず、そのまま巨大獣の方へ向き直ると、怒り狂って咆哮を上げる巨大獣へと突っ込んでいく。


「カゲのみんな、『拡がって。』」


女の子は小さくそう呟くと、彼女の鎌に黒い影が収束していく。そして、高く飛び上がって獣の突進を回避しながらその獣の真上に達すると、影で巨大化した鎌を大きく振るった。


ザドン!という奇妙な音と共に巨大獣に斬撃が降りかかると、獣は声も出さずに倒れた。


「さようなら、あなたの魂に安らぎのある旅を。」


少女はそう呟き、獣の亡骸を軽く撫でた。


「…………すっごい。」


巨大獣を倒して華麗に着地する彼女にボクはただただ見惚れてしまい、後ろから晴楽さんに声をかけられていたことにも気がつかなかった。


「ちょっと!無視しないで!」


「あ!ご、ごめんなさい」


「…………」


肩を掴まれ、やっと正気に戻って返事をする。


「全く、人の心配なんてできる状態じゃないのに……私たちに言うよりまずは自分の身を守りなさい」


「あはは……ごめんなさい」


「…………」


晴楽さんに叱られ、ボクはごまかすように頬を掻く。そんなやりとりを黙って見ている女の子に、晴楽さんが向き直る。


「それで、あなたは一体何者?」


いきなり話しかけられたからか、女の子は体をビクゥ!?とさせてそのまま硬直してしまう。


「助けてくれたことにはすごく感謝しているわ、私では勝てなかったから……けどその技って、あなたダークフェンサーでしょ?こんな所にいたら危ないんじゃ……」


晴楽さんの問いかけると、女の子は急にプルプルと震え出しそのまま逃げ出してしまった。


「あっ!ちょっと待ちなさい!」


逃げる彼女を急いで晴楽さんが追いかけるけど、女の子はすごい勢いで跳躍して森の中へと消えてしまった。


「はぁ〜ほんと、次から次へと面倒ごとがやってくるわね。ただでさえこんな大きなゼアルフォノスが現れたってだけでも大事件なのに」


晴楽さんが倒れた獣を見ながらため息をつく。


ずっと慌ててたから気がつかなかったけど、そのゼアルフォノスという動物はまるで怪獣のように大きく、倒れた状態でも見上げるほどの巨体だった。多分、二階建ての家と同じくらいだ。


「でもとりあえずはあなたよね、おじさんとあの子はこれから来る救援部隊に任せて、私とあなたは先にコロニーに行こう」


そう言うと、ボクを連れて晴楽さんが歩き出す。途中で木陰で休んでいるおじさんに出会ったけど、「ありがとよ〜」と手を振っていたので多分大丈夫そうだ。


「さ、この集材所を抜けたらこの世界の"本来の姿"を見れるわ」


木造の倉庫みたいな建物がひしめく場所を抜けながら、晴楽さんが意味深なことを言う。正直意味が全然わからない。


「本来の姿?どういうことですか?そういえば気になってたんですけど、晴楽さんも日本人ですよね?この世界って日本人がよく現れるんですか?」


「よく現れる、どころの話じゃないんだけどね。それを話す前にまずはこれを見て」


明らかに森とは違う空気が流れる中、晴楽さんがボクに見せるように前方を指さした。


「う、うわぁ……なんというか、個性的な場所ですね」


そこは、真っ黒な雲がポツポツと浮いた鉛色の空と、そんな空の光に照らされたどこまでも続く草木の生えていない荒野には大小様々な岩だけが存在し、よく見ればその岩も奇妙な模様が隙間なく刻まれている。


「見ての通り最悪の光景だけど、ここが『ストレンジフィールド』、あなたがこれから暮らす奇妙な異世界の本来の姿よ」


そう言って晴楽さんは、ボクに楽しそうに笑いかけた。

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