1話 何事もいきなり
「はっ!?ここは!?」
「うわっ!いきなり起きないでよ!」
思わず跳ね起きたボクと頭の衝突事故を起こしそうになった少女がギリギリで回避して、ボクに文句を言ってくる。多分心配して顔を覗き込んで様子を見てたんだと思う。
「す、すみません……あ、それであなたの名前は?」
「えぇ……ちょっと展開が早いって、最初に名前を聞いてくる流されモノなんて、私初めて会ったかも」
「流されモノ……?あ!そういえばここはどこですか!?さっきの声の人は!?」
よく見たら周囲は奇妙な木に囲まれており、ここが何処かの森の中だということはなんとなく分かった。
「……あなた大丈夫?ここには私しかいな……あ?あ、あの夢に出てくる偉そうな女性のことね」
「え、あ……そうか、あれって夢だったのか……あれ?なんでぼくが見た夢の中身が分かるんですか?というか偉そうな女性って……その人を知ってるんですか……?」
「別に私も説明できるほど詳しくは知らないわよ、私もあなたと同じで勝手に話しかけられて勝手にこの世界に飛ばされただけなんだから。それより早く立ちなさい、説明しないといけないことばかりなんだから」
「え……?意味がわからない……」
「今は分からなくていいわ、とりあえず立ちなさい」
そう言って手を出してボクを起こしてくれた少女は、よく見るとファンタジー漫画にでも出てきそうな黄色を基調とした鎧を身につけていて、ウェーブ掛かった長髪が見せるオレンジの髪色も相まって、非常に眩しい印象をボクに与える。
「よく見たらすごい場所ですね……ここって海外か何かなんですか?」
「そのラフな格好ですぐ分かったけど、あなたやっぱり新参者みたいね。ここは『ストレンジフィールド』、簡単に言うと異世界よ」
異世界……その単語を聞いてボクは混乱する。
「え?異世界?なんでそんな所に……あれ?そもそもボクは誰……?それに声も……」
そこでボクは自分の身に起きている異変に気づき絶叫する。
「ちょ、ちょっと!いきなり叫ばないでよ!グロブスタにバレるでしょ!?」
「ボク……女の子になってる……」
「はぁ!?」
自分で注意しておきながら、ボクの意外な言葉に黄色の少女も同じくらいの声量で驚く。
「女の子になったって……冗談でしょ?」
「冗談なんかじゃないよ!こんな……というか、女の子の身体ってこんなに柔らかいんだ」
「ちょっと!変な触り方はやめなさい!」
自分の胸の柔らかさに驚いて思わず揉んでしまっているボクの手を、少女が叩いて止める。
「まあこの世界って本当になんでもありだから、あなたが女の子になってしまったっていうのもあながち嘘じゃないかもしれないわ」
「あの……ボクはこれからどうしたら……」
「とりあえずここから出ましょ、こんな所にいても良いことなんて起きないわ」
そう言うとボクの手を取って歩き出す、この場所は森の奥深くみたいで、鬱蒼とした木陰ばかりが目立つ不気味な場所だった。
しばらく歩いていると、森が拓かれて畑がポツポツと見えるようになって来る。
「おう!セーラちゃん元気か!そいつは新人かい?」
畑を耕しているおじさんがボクの前にいる少女に挨拶をする。この人はセーラさんと言うみたいだ。
「こんにちはおじさん!そうよ、しかもちょっと面倒ごと抱えてるっぽい」
そう言ってさっさと通り過ぎていく彼女に、おじさんは笑いながら「そりゃ大変だな!」とだけ言ってまた草むしりの作業に戻る。
「あの、セーラさん?あの人は……」
「あの人はただの農家のおじさん、それより名前名乗ってなかったわね、私は金乃鑿 晴楽って言うわ。セーラは愛称よ」
「えーと……そういえばボク、名前は覚えてます。水織音 濯、水に機織りの織に音でみおりね、洗濯の濯でそそぐ、それがボクの名前です」
「…………もしかしてそれ日本人名なの?凄い変な名前ね」
「それはおあいこですよ、きののみとかどんな漢字の書き方するんですか」
「そんなの、こう書いて……」
そう言って晴楽さんは腰に刺したサーベルを鞘ごと抜いてそれで地面に自分の名前を書き始める。金乃鑿……こんな名字存在するのかな?
「こう!ほら分かった?」
「……晴楽さんも人のこと馬鹿に出来ませんよ、なんですか鑿って」
「デッカイ彫刻刀みたいなものよ、うちは大工じゃなかったけど、大昔著名な大工だったからこんな名字になったみたい」
「そういうことを聞きたいんじゃないですよ!人のことバカにできないくらい珍妙な名前じゃないですか!?」
「なによ、晴楽って漢字は割と普通でしょ、名前も著名なロボットアニメのヒロインと同じ名前って親から言われたし!」
「ボクの濯だって漢字そのものは普通ですよ!それにアニメヒロインから取られた名前ってそんなに胸張れます!?」
そんな下らない言い合いをしていると、森の方から大きな破壊音が響いてきた。
「え!なに!?」
「おーい!!助けてくれぇー!!」
「あっ!さっきのおじさん!」
森の方は土煙が木々より高い位置まで上がり、そんな方向からさっきの農家のおじさんがやってくる。
そんなおじさんの背後から木々を砕きながら現れたのは、異様な角を持つサイのようなカバのような謎の動物だった。




